私の序列が終わるまで
「と、まぁそんなところだ、最後は大分流したが……おい繋?」
「うえぇぇぇぇぇん!!」
「は、いやなんでお前泣いてんだよ!?」
「だっで、だっでぇ!!」
「んだよ面倒くせぇな」
「ワンぐん、ワンぐんがぁ!!」
「あーもういいからひとまず落ち着け」
ワンくんの話を聞いた私は。
それはもう号泣してしまった。
涙が枯れそうな勢い。
色々あったんだなぁって、ありきたりな感想と。
やっぱり今、何を考えながらここにいるのかなって私的な疑問が。
大体全部涙で流れていってしまう。
あぁなんだよなんだよワンくん。
こんな話を聞かせてきてさ。
私をこんなにさせてどうする気だー。
って聞いたのは私だけど、ね。
ワンくんの語り口は決して上手な感じではなかったけど。
十分に彼の考えは、想いは、伝わってきた。
なんでかたくさん泣いてしまったけれど、これだけは言っておきたい。
「ねぇ、ねぇ、ワンくん」
「んん?」
「ね、ヴンシュさんにさ、願われたかもしれないし呪われたかもしれない」
「あぁ」
「初めに言ってたよね、ワンくんが、ヴンシュさんを見殺しにしたって」
「事実だな」
「そうじゃないと思うんだ」
「そうじゃない?」
「託されたんだよ、沢山」
「……そう、か」
「うん、託されたんだよ、ヴンシュさんに、だから、見殺しだなんて、思わないでいいんだよ」
「でも駄目だろ、自分を許すのは」
「わかんない、そうしたいならそうすることは間違いじゃないと思う」
「だよな」
「でも、許したっていいんだとも思うよ、許せるなら、ね」
「あぁ、そうだな」
いい話が聞けた。
本当に、思ってた以上に。
ちょっぴり、ヴンシュさんのことが羨ましい。
誰かに、こんなにもずっと想われ続けているだなんて。
きっと、素敵な人だったんだろうなぁと。
勝手に私の中のヴンシュさん像を作ろうと思って。
失敗した。
あれれ。
そうだそうだ。
「そういえば、どうしてヴンシュさんの外見に関しての情報が、人から告白される程度にかわいい、くらいしかないの?」
もっとあるでしょ。
背丈とか。
顔やら全体の雰囲気とか。
髪の感じとか。
出会った時のお洋服とか。
イグさんですら衣服の情報があったよ。
ワンくんは私から目を逸らした。
その行為だけで理由をなんとなく察したけど、それとは全く関係なく私から目を逸らしたって行為そのものがなんとなく気に食わない。
腹いせのつもりで先に察した答えは言ってやらない。
どうせあれだ、『は、恥ずかしかったからいいだろ別に』とか言うんだろ。
わかってるんだから。
「は、恥ずかしかったからいいだろ別に」
「ぬん」
「うお!?」
ぬんしてやった。
ぬんの内容は後日話すとして。
いや話さないけど、ね。
「はぁ、まぁいいや、まずは、ありがとうね、話してくれて」
「いいよ別に」
「そうだね、私もヴンシュさんと言ったことと同じ感想、かな」
ワンくんの話だけで、その時いた人たちが何を願ったかなんて、わかるわけがないんだけど。
さすがに間違えようがないことも、確かにそこにはあったはずで。
「すごく悲しいお話だったけど、すごく幸せなお話だったなって、思いました」
「あぁ、そういう人生だったからな」
「神様のくせに」
「神生なんて言葉あるのか?」
「知らないよ、ムーくん」
「ムーくんはやめろ!?」
「何さ、ムーくん、別に私があなたのことを、あだ名で呼んだって問題ないでしょう?」
「さっきの話聞いておいてどの口があだ名とか言いやがるやめろ戻せ最初の呼び名に!」
「ザ・ムー?」
「混ぜんなよ頼むから普通にしてくれ、俺は一応、ムートって名前は使わないことに決めてんだ」
「嫌だ、そんなことだからいつまで経ってもムーくんは彼女できないんだよ」
「どこからそんな話になったんだつーか彼女自体はいたっての」
「何百年前の話してるのムーくん、時効だよ時効、そんな過去の栄光を振りかざすなんて駄目だよ」
「てめぇな」
ワンくん、じゃない、ムーくんをからかうことで私は精神を落ち着ける。
ふう、やっと落ち着いたぜい。
でも、気分は悪くない。
ムーくんが、既に乗り越えているからだろうか。
そこまで後ろ向きな話には聞こえなかった。
もちろん、実はまだまだ縛られているのかもしれない。
というか、こんなに細かく覚えているんだ。
まだまだヴンシュさんの願いの効力は持続しているみたいだ。
一気に話してもらったから、本編に関係ないようなところで聞きたいこともあるけれど。
今日の所はいいかな。
枝葉末節は気にしなくっても、ね。
例えば、結局ルルシアの願いとやらはなんだったんだろうね、とか。
どんな流れで今の町が出来上がったの、とか。
そんなことはこれからゆっくり聞けばいいだろう。
結構長いこと話してもらっていたので、そろそろ帰るべき時間になっていた。
岩の上で寝ている皆を起こす。
おーい、起きなさーい。
朝ですよーっと。
朝じゃないけどねー。
と、中々起きない皆をなんとかかんとかムーくんと二人がかりで起こしていく。
遊び疲れたのだろう。
かく言う私も結構眠い。
これは帰ったらすぐに寝てしまおう。
そんなことを考えながらいるとようやくのろのろと皆が起き始めた。
「うわー、もうこんな時間?」
「よく寝た、です」
「……はっ、私たちが寝ている間にラブコメの匂いが!?」
「しないから!」
「ほら馬鹿言ってないで帰るぞ支度しろ」
と、何も言わずにその場を離れていくムーくん。
あ、そうか。
私たち水着のままだったか。
水着、ね。
…………。
わ、忘れないんだからね。
絶対なんかおごってもらうまで許さないんだからね。
許さないんだから。
そう思いつつ、私たちから言う前にさっと姿を消すのはさすが気遣える男だ。
気遣える男はモテるよ。
これ豆知識。
まぁ、私からしたら気遣ってることを気付かせない人が真にモテると思うけど。
でも結局どのタイミングかでこっちが絶妙に気づくようにしてほしいよね。
なんだそれって自分でも思うけれども。
乙女心ってそんなもんということで。
「いやぁ、ボクこんなに水浴びが気持ちいいだなんて知らなかったよ」
着替えつつ、ナギがまだ中々高いテンションでそう話し出した。
確かにあんまり、こういう意味での娯楽って私たちは縁がなかったような気がする。
今度私から何か考えてみようかな。
「そう言ってもらえると、誘った甲斐があるよー」
リアンも嬉しそうに返す。
こちらもまだまだ元気そうだ。
唯一、ベルだけは眠そうにしている。
小っちゃいからね、しょうがないね。
「それでさ、実際どうなの?繋ちゃん?」
「へ?何が?」
「ナギちゃんは、本当に気づいてないんだよね?」
「へ?何が?」
図らずも同じ返答をする私とナギ。
いや、なんとなく私はリアンが何を聞きたいのかわかってはいるんだけど。
「ツナギとザ・ワンが、いい感じの件について、です」
「!?」
さっきまで眠そうだったのに急に食いついてきた!?
「いい感じ?」
まだナギはピンと来ていないらしい。
なんと純真。
って、別に私はそういうわけではごにょにょにょ。
「だから、繋ちゃんとザ・ワンさん、いわゆる男女の関係として、恋愛関係として、いい感じじゃないって話」
「うん?……えぇっ!?そうなの!?」
「わー本当に鈍かったんだねー知ってたよーナギちゃんはピュアすぎるんだよねー」
「えぇっ、だってあの人と会ったのって、ついこの間の、神の宴の時だよね?あ、でも確かに初めて会ったにしては仲が良かったような」
「愛に時間は関係ない、です」
「ベルがなんか悟ってる!?」
「ツナギ、そうなの!?お付き合いしてたの!?」
「しっ、してないしてないから!!そういうんじゃないんだってば!!」
あーもう。
どうして皆こういう話にしたがるのさ。
好きだよねホント。
全く全く。
「ふーん、例えばさっき私たちが寝てたとき、先に起きてたよね?何か話したりしてたんじゃないの?」
「それは……まぁ、ちょっとムーくんの過去のお話を聞いたり」
「ムーくん?誰新たな男が出てきたよ?」
「あっ、いや、間違えた、ワンくんの過去の話をね、少し聞いてただけ!」
しまった口が滑った!
危ない危ない、自分で勝手にムーくんて呼ぶことにしたんだから気を付けないと。
でもザ・ワンって名前から連想できるものでもないし、ばれてない、よね?
「個体の神は人間の頃、ムートって名前だった、です」
「ベルさあああああああああんっ!?」
ちょっ、なんで知ってるのこの子!?
「ほっほぅ、確かザ・ワンさんって元は人間だった神様なんだよね?その人間の頃の名前をさらにあだ名で呼んでるんだーへーえ」
「ツナギ、私たちの間に隠し事は駄目だよー」
「私も、ツナギの気持ち、知りたい、です」
「あぁもう、わかった話す話すから!」
怒涛の追撃を受けて、ようやく諦めがつく。
もー、まだ整理できてないんだけどな。
「まずはね、やっぱりまだ会ったばかりだから、よくわかってないんだよワンくんのこと」
「ムーくん」
「……だけど、なんだか、ワンくんのこと色々知りたいなって思うの」
「ムーくん」
「それで、まぁ今回は私から、ワンくんがどんな過去を過ごしてきたのかなって話を聞いてみたの」
「ムーくん」
「ムーくん」
「ムーくん、です」
はぁ。
「ムーくんが!好きとか、そういうはっきりとした気持ちはまだ持ってないの」
恥ずかしいなぁ。
こんな話をするなんて。
顔が熱い。
「それじゃ、さっきのお節介も無駄じゃなくてよかったぁ」
「ちょっとリアンあれわざと紐緩めてたの!?」
「違うって、その前に体押したところだよ、さすがにあれはわざとじゃないって」
「うぅ、もうお嫁にいけない……」
「いやだからムーくんに嫁入りすればいいでしょ」
「しないって、それに……」
「それに?」
「あ、ううん、何でもない、かな」
「今更隠し事?」
「そうじゃないの、ちょっと、圧倒的な敗北感を感じていて、ね」
ヴンシュさんに、ね。
圧倒的なんて表現じゃまだ足りないくらいには。
ぼろぼろに負けてしまっている。
そもそも勝ち負けの土俵に立てていないし。
というかなんの勝ち負けなのかもわかんないけど。
「とりあえずは、さ、そぉっと応援してくれてると、嬉しいかな」
「仕方ないなぁ、応援してあげるよ」
「リアンは露骨すぎるから」
「ボ、ボクも応援するよツナギのこと」
「にやにや、です」
「あはは、早く着替えよ?」
そんなその日の帰り道。
やっぱりナギとベルとリアンの三人はきゃっきゃと仲良く歩いている。
たぶん、行きとは違って私とムーくんを二人にしたいって思いもあるような気もする。
ま、甘えておこう。
それでもさすがにお互い気恥ずかしくて、あんまり会話は弾んでないけど、ね。
ほんのちょっぴり、行きよりも縮まったような気がする距離が。
行きよりも遠いような気がするのは、やっぱり。
心境の変化ってやつだね。
でも私だって、いくらなんでも何百年も前の人に遠慮するとか、そんなことをするつもりはあんまりなくて。
ムーくんとヴンシュさんの繋がりはよくわかったから、ね。
私だってもっと、今のムーくんを知っていきたい。
知っていたい。
こうやって、微妙に手の届かない距離を保って、もっともっと良い気持ちで並んで歩けたら。
いいな。
なんて。
少しだけ幸せな未来に浸っていたら。
急にムーくんが私を後ろに隠すように手で軽く押してきた。
「伏せろ!」
鋭くムーくんの声が通る。
私はその声色から切羽詰っていることをすぐに察してフォローに回る。
「ツナガレ!」
前を歩く皆にツナガレを繋げようと、した、ら。
ぶちっと、ツナガレが切断された。
え、今何が起きた?
ひとまず私も落ち着いて伏せる。
一瞬の間。
から。
ギィン、と唐突に大きな金属音が響く。
ムーくんが何もない空間にいきなりあのいつもの石剣を振り上げたと思えば。
そこからいきなり赤い人が出てきて、剣を振り下ろしていた。
「え、は、なに?」
さすがに混乱してしまう。
ダブルで意味が分からない。
何もない空間から人が現れたことも。
それに反応したムーくんも。
なんだなんだ。
こないだのジャンベルが復讐にとか来てないよね。
鍔迫り合いにはならず、その一打で距離をとるムーくんと、誰か。
……あれ。
誰、だか。
知っている、ような。
あれ、うん?
なんだろ、この感じ、は。
見たこともない、赤い髪の、人じゃない、きっと、神様だ。
この、男の人、なんで、既視感が。
あ、れ。
「久しいな、相変わらず腕は鈍っていないようだ」
「何しに来た、ルルシア」
「ル、ルルシア!?」
ナギが驚きの声をあげる。
無理もない。
私も驚いている。
ルルシア。
神様序列1位。
支配の神。
なんで、こんなところに。
っていうか、なんで私は、支配の神に、既視感、が。
ある、んだ、って、なんで。
また。
意識、が。
さっきも、飛んじゃったばっか、なのに。
こんな短い間隔で起きるなんてそんなこと今まで、なかった、のに。
「丁度、時間だと思ってな」
「なんの」
「汝が話したのだろう、その過去を」
「――っ、聞いてたのか」
「そして、思っているはずだ、鈴鳴繋は」
「おいルルシア、今度は繋を使って何をしようってんだ……いやまさかジャンベルもお前の差し金じゃ」
「ふふ、進化の神のおかげで我も見つけることができたのだ、感謝はしているが我は奴の行動には関与していない」
わ、私?
やっぱり、ルルシア、と、何か関係があるのかな。
私は。
あ、でも、もう駄目。
かも。
「繋ちゃん!?」
「リアン、ベルお願い、ツナギを連れて離れて」
「え、あ、うん!」
「了解、です、でも、ナギはどうする、です?」
「ツナギに何か用、序列1位」
「収縮の神か、用か、いや、そこの鈴鳴繋に用はない」
……そ、こ、の?
「どういうこと?」
「さて、そろそろだな、汝、鈴鳴繋」
ルルシアの声が、私に向けて発せられているのがわかる。
「申し訳ないと思っている」
何、が?
「だが、俺の為に、連れてきてくれ」
誰、を?
「本物の鈴鳴繋を、頼んだぞ」
本物の。
鈴鳴繋。
誰だ。
私が探している人じゃんか。
っていうか。
やっぱり。
本物がいるのか。
つまり。
私は偽物か。
そうだね。
偽物だ。
人としても。
神としても。
私は。
ずっと。
偽物だった。
だから。
憧れていたんだ。
本物に。
本物の神である。
私の神様。
ナギに。
ベルに。
でもよかった。
私が。
私なんかが。
本物じゃなくって。
そんな風に考えたところで。
意識が無くなっていった。
視界が真っ黒に染まる直前。
私は誰かに。
「ごめんね」
そう、呟いた。
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誰かが言っていた。
いつだって急に物語は終わる。
誰が言っていたんだっけ。
なんて、話したことのある人、神なんてそう多くないや。
だから言われた記憶はないけれどきっと、彼女が言っていたんだろう。
彼女のおかげで強くなれた。
彼女が願ってくれたから、今の自分がいるんだ。
「ねぇ、ツナギ、あなたは、いつになったら、また、ボクに願ってくれるのかな」
ボクが初めて皆と水浴びをして、ツナギの恋の片鱗を覗いたあの日から。
ルルシアと初めて出会ったあの日から。
あの時ツナギが意識を失って倒れてから。
ツナギが目を覚ますことは。
なかった。




