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NAGI ―神様と共に私を見つけるまで―  作者: 安藤真司
私編 3 ―end my order ?―
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私が戦争を知るまで 拾:"その一"かく語りき

ヴンシュに願われて。

誰かに願われて。

ムートは変わる。

変容していく。

「死なない、戦争は終わらせる、ずっと、ヴンシュの事、忘れない」

ムートは内から力が漲ってくるのを感じる。

「ずっと、いつまでも、変わらずに、ヴンシュの事、好きでいよう」

強く、一歩一歩、前に進むたびに零れ落ちそうになる自分の欠片を、拾い集めては別の何かを失って。

それでも、大事なものは、失くさない。

「名前を貰おう、これは、神としての俺の、名前」

ムートはこの瞬間。

「ザ・ワン」

"個体の神"ザ・ワンとなった。


「こんな戦争は、もうやめだ」

嫌に、ザ・ワンの声は通る。

そして、纏うオーラからか、はたまた生物としての本能が叫んでいるのか。

誰もが見てわかるように、彼は既に人としての何かを越えてしまっていた。

神としての声が、この場を支配する。

こちらの言語を理解しないはずのタブーすら、圧倒される。

「十秒やる、十秒数えるうちに、この場に背を向けろ、向けなかった奴は――」

ザ・ワンの眼光がするどくなる。

「――殺す」

ぞくり、と味方すらその声に悪寒を感じた。

そして、彼の本気度を理解してしまう。

今生まれ出たこの神は、味方も敵も関係なく、殺すつもりだ。

そう感じ取った瞬間、誰もがその場を逃げるように走っていく。

タブーの生命側でも、それは同じであった。

十秒という言葉を知らずとも、この場から逃げなくてはならないことを瞬時に判断した者は自分たちより隠したであるはずの相手から恥も外聞もなく逃げて行った。

そして、逃げ行く自分の同胞に気付いて、流れるように全てがその場から逃げ去る。

しかし、中にはその流れに反し、神となったザ・ワンに攻撃を仕掛けてくるものもある。

例えば、炎を自在に操るもの。

例えば、地形を自在に操るもの。

それぞれがザ・ワンに向けて自身の能力を発動する。

ザ・ワン周りの地面が急に沈みだす。

その中心にいるザ・ワンに向かって炎が上空から降ってくる。

が、そのどちらも、ザ・ワンの手前で掻き消える。

運よくその光景を見た誰もが目を見開く。

そして、その力を行使したタブーの生命二つが、その場に崩れ落ちる。

「言ったろ、殺す、って」

その一連の流れを見てまで、この場に残ろうとする者はいなかった。

いよいよ本当にそこにいるほぼ全員がその場を離れる。

残ったのは、唯一、ルルシアのみだ。

もちろん、ザ・ワンはルルシアを殺そうとはしない。

「本当に神となるとはな」

「……」

「どうだ、今の気分は」

「最悪、です」

「敬語はやめろ、もはや我と同等の存在なのだぞムート、いや、ザ・ワン」

「……最悪、だ」

「だろうな、こんな下らん戦争、勝とうが負けようがどうでもよい」

その言葉に、ザ・ワンは耳を疑う。

下らん戦争。

今、そう言ったのか。

自分から周りをけしかけて。

使えそうだという理由だけでヴンシュを攫って。

奇襲作戦まで立てて。

それでいて、戦争を、下らないと、そう言うのか。

「我らが欲しいのは、こんなものじゃないだろう?」

「我、ら?」

「あぁ、汝もだ、ザ・ワン」

「俺は、そうだが、ルルシア、は、なら、何が目的でこの戦争を」

「……我もまた、希求しているのだよ」

「何を」

「願いを、だろうな」

それ以上、ザ・ワンとルルシアは話を続けなかった。

願いの内容。

それは恐らく聞いても答えないだろうな、とザ・ワンはわかったからだ。

ようやく誰もいなくなり、真の静けさを取り戻した。

ザ・ワンは一つ、大きなため息を吐く。

落ち着いてみれば、辺りには異臭が立ち込めている。

多くの死体が、そこらじゅうに転がっている。

自分も似たような匂いがしていたのでザ・ワンは気付くことが出来なかった。

「ヴンシュ、イグ」

多くの死体の中の、ただ一塊。

優しく、目を瞑って、互いに寄り添い合って、死んでいる。

不幸だと言っていた。

幸せだとも言っていた。

本音は、どちらだったのだろう。

「わかるわけもないか」

イグは、きっとものすごい努力をしたのだろうか、人型を保ったまま、死んでいた。

後ろに見える大きなスライムのような部分は、ほとんど潰れている。

きっと限界ぎりぎりまでヴンシュを支えるために全力を注いだのだろう。

ザ・ワンは二人の関係をそこまでしっかり聞いたわけではない。

先ほどのヴンシュの願いで初めて聞いたくらいだ。

だが、それだけでも、自分の知る以上の繋がりを感じた。

「よかったな、二人とも、一緒でさ」

その場に墓を作ろうかとも思ったが、父親と母親の所に帰りたいとも言っていたか、とザ・ワンは思い直し、二人を担いで、ヴンシュの両親の墓に向けて歩き出した。


ザ・ワンの眼前。

並ぶのは、四つの墓。

イグ、ヴンシュ、ヴンシュの母、ヴンシュの父、の順に並んでいる。

並べたのはもちろんザ・ワンだ。

実感が湧かない。

自分が神になったらしいということ。

ヴンシュが死んだらしいということ。

そのヴンシュに、好きだと言われたこと。

そうだ。

空っぽだ。

実感が湧かないのは、きっとそのためだ。

何も、処理できていない。

処理できていないから、わからない。

ほんの少し前まではわかっていたように思うのに。

悲しむ気持ちが追いついていない。

自分がこれからどうしたらいいのかわからない。

戦争はどう止めたらいいのだろう。

さっきのようなことをあと数回続けたら終わるだろうか。

それでいいのだろうか。

「……帰ろう」

仕方ないので、帰ることにした。


当然だが、母が迎えてくれた。

外に出て待っていてくれたのだ。

そんなに心配をかけてしまったか。

申し訳ないとザ・ワンは考えつつ。

「おかえり」

「ただいま」

「大変だったね」

「まぁ、そこそこ」

「あんたは、神になったのかい?」

「あぁ、らしい」

「そうかい、それで、ちゃんと、泣いたのかい?」

「泣いた?」

「あぁ、人でも神でもね、しっかり用意されているんだよ、そういう機能が、生命には」

「そういう、機能」

「そう、悩みとかストレスとかを、全部は無理だけど、少しだけ減らしてくれる、そういう機能」

「泣いて、ない」

「そう、泣いていいのよ」

「いいの、かな」

「いいの、辛かったでしょう?嫌だったでしょう?それでいいの、たくさん泣けばいいの」

「いいの、か」

「大声で、目一杯泣いて、それで、そこから何かを探せばいいの」

「いい、んだ」

「ええ、いいのよ、お疲れ様、ムート、いいえ、もう神様なのよね、ザ・ワン」

この時が、最初で最後。

神、ザ・ワンが泣いたのは、後にも先にも、この時だけであった。

ムートは無事、恋人の死を悲しむことが出来た。



そこから先は何も起きていない。

あっという間に戦争は止まり。

あっという間に知名度を上げ。

個体の神は、人々から、人であり神であるとして、広く認識された。

そこから先は、知っている話だ。

誰にでも語れる話だ。

ザ・ワンに語れるのはここまでだね

戦争が終わればそこそこの平和を取り戻すだろう。

ザ・ワンの知名度、影響力も大きくなるだろう。

ただそれだけ。


ただ、それだけのために。

彼は彼女に縛られているのだ。

永遠に。


それほどまでに何もなく、ただの人は。

神へと神化した。


ただそれだけの物語。

何も、起きない物語。


ザ・ワンが、生き延び。

イグとヴンシュが、死んだ。

ザ・ワンは、目の前で死んでいくヴンシュの願いをただ聞いていた。

見殺しにしたのだ。

自分は最愛の人物こそ助けるべきたっだのに。



本当に。

ただそれだけ。

だったんだよな。


たったこれだけのエピローグで。

十分なほどに。


ムートの物語は幕を降ろし。

ザ・ワンの物語が始まる。

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