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NAGI ―神様と共に私を見つけるまで―  作者: 安藤真司
私編 3 ―end my order ?―
37/72

私が戦争を知るまで 玖:"その一"かく語りき

「聞いて、私の、物語を」


「聞こえてますか、届いてますか、感じてますか」


「私は、私の名前は、ヴンシュ」


願いヴンシュの名の元に、この願いを遺しています」


「この世界に向けて、伝えたい」


「意味のない争いばかりで、意味のない殺戮ばかりで、なのに誰もそれをどうにかしようとしない、そんな世界」


「私は今、戦場にいます、知っての通り奇襲によるタブー制圧、その初手となる行動を担っていました」


「先に言っておきます、この作戦は失敗しました、私が裏切ったからです」


「私は友達に作戦内容を全部伝えました、そして、一緒に逃げてしまおうと提案しました」


「結果、こちらの奇襲は上手くいかず、この戦場では多くの命が散っています」


「全部、私のせいなんです」


「だから、罰を受けることにしました」


「私も他の命と同じく、死と言う罰を」


「私のお腹を、友達の手が貫いています」


「痛いです、苦しいです、辛いです、思考がうまくできないし、目の前がぼやけて白いです」


「だというのに、不思議と気分は悪くないです、言葉はすらすらと出てきます」


「何を話しているのか、自分でもよくわかっていないかもしれませんね」


「そして、私を殺してくれる彼女もまた、もう直に死んでしまうでしょう」


「彼女は、私の友達、名を、イグ」


「本当は、生きて欲しかった、こんな形で戦争になんて巻き込むんじゃなかった」


「彼女に対しては、後悔しかありません、でも、その彼女に殺してもらえるのは、少し嬉しいです」


「私は、たぶん不幸な人生を送ってきたのだろうと思います」


「まず、小さな頃の記憶がありません、本当の親の事を知りません」


「物心ついた時には、私の知っている両親がいて、生命指南施設に入る歳でしょうか、丁度その事実を言われた所くらいからしか記憶がないのです」


「私は、捨てられていたようですね」


「そして少し経つと、お父さんが亡くなりました、病気でした」


「私もお母さんも出かけていて、たまたま休暇を与えられていたお父さんは誰もいない家で倒れ、そのまま死んでしまいました」


「もしもあの日、私がもう少しでも早く生命指南施設から帰っていたら、セレス様の所に連れていけたのではと、ずっと後悔しています」


「その生命指南施設で、私はいじめを受けていました、理由は単純です、私は、聞こえないはずの声が聞こえていたから」


「私には、この世界のありとあらゆる者の声が聞こえます、意思の疎通が出来ます」


「人とも神擬きとも神ともアンダーワールドの生命ともタブーの生命とも、森羅万象のすべてと会話できる」


「この力のせいで、気味悪がられていました、除け者にされていました、友達と呼べる人は一人もいなかった」


「そんな時に出会えたのが、瀕死のイグで」


「決して出会いは必然じゃなかった、私はこんな世界に嫌気がさして、自殺しようとタブーに一人向かったんです」


「そうしたらそこに、傷を負ったイグが倒れていて、私は何故か助けてしまったのです、死ぬつもりだったのに」


「でも、結果的にあの時、イグを助けてよかったなって、だって今、私を殺してくれているのは彼女だから」


「こうして私は初めての友達を得ました、生命指南施設なんて結局十年通えば終わりです、イグが現れてからはいじめなんて気にしませんでした」


「もちろん、生命指南施設でのことはお母さんには話していません、でもきっと、察していたんじゃないかと思います」


「イグのことは喜んで話しました、たぶん、お母さんに話したことのほとんどがイグについてです」


「お母さんは不安がってました、私の力のことは知っていたけれど、友達がタブーの生命というのは、中々この世界に生きる人には複雑でしょう、当然の心配だとは思います」


「それでも、私に友達が出来たことは喜んでくれました、生命指南施設を卒業する頃には、心配の対象は他のタブーの生命に襲われないかということで、イグについては心配していなかったように思います」


「そのお母さんも、少し前に亡くなりました」


「目の前で、タブーに住まうグリズリーによって」


「ううん、私のせいで」


「私はその時、ルルシアに攫われて、地下に閉じ込められていたんです、それで家から帰ってこない私を心配して、タブーに、ハンターを雇ってまで向かってしまったんです」


「そして、そこで、お母さん達はグリズリーに襲われて、死にました」


「最後の言葉は、こうです」


「これから先、楽しいことも悲しいこともたくさんある、優しい人になって欲しい、ちゃんと恋もして欲しい」


「そして、ありがとう、って」


「そんな言葉を、遺されました」


「私は、あの時ほど悲しい想いをした時を、きっと知りません」


「お父さんが亡くなって、唯一の家族のお母さんまで亡くなって、私は、一人ぼっちになっちゃった、と」


「それで、たくさん、ひどい言葉を吐き出しました、本当に汚い言葉を」


「彼に、向けて」


「彼は、私にこう言ったんです」


「私のお母さんの願いを叶えるって」


「私を優しい人に育てるって」


「私の監視役だから、離れてやらないって」


「全く、意味がわかりませんでした、何を言ってるんだって、どこまで本気なんだって」


「まぁ、私の考えを蹴散らすかのように彼は、私に温かい場所をくれました」


「とっても温かくて、でも、とっても寂しい場所」


「そこでの生活が、私にようやく馴染みだしたと思えば」


「この戦争が、始まりました」


「醜い戦争、まるでタブーに踏み込むことが美挙だとでも言わんばかりの洗脳」


「挙句、私は友達を利用した作戦を強要され、今、その友達も致命傷を受けてしまっているという状況に身を置いています」


「私の人生は、どうでしょうか」


「空しく思うでしょうか、残念だと思うでしょうか」


「私は、私自身は、そう思っています」


「なんで、どうして、自分だけがこんな目にあっているんだ、そう問い続けた人生でした」


「ずっと、探していたんです」


「自分の、帰るべき場所を」


「やっぱり、家族と一緒にいるべきなんだって」


「私はそう思います」


「だから、ここで死ぬ、そんな人生の幕引きは、悪くない」


「それに、同じくらい、きっと良い人生だったんだろうなって、思います」


「何度だって言います、友達、イグがいる」


「彼女がいてくれた、こうして最後の瞬間を見てくれている、それだけでも、とっても幸せ」


「それで、それでね」


「彼が、いてくれた」


「お母さんの死んだ原因の、一端になる、彼」


「憎くて憎くて憎くて、それで、大嫌いな、彼」


「いつも何考えてるのかわかんなくて」


「急に惚れたとか言い出す、わけわかんない彼」


「嫌いだって、二度と会いたくないって言ってるのに、全然話聞いてくれない彼」


「ホントに、大嫌い」


「たったの二ヶ月くらいしか一緒にいないくせに、私のことを見透かしたような発言をしてくるし」


「私が泣きそうな時は、空気読めてない発言をしてくるし」


「私が弱ってるときに限って、彼も弱ってて頼りにならない、彼」


「私だって、そりゃあ、好きだと言われるのは、初めてではなかったけど」


「友達もいない私に好きだなんてこそっと言ってくる人間を信用できるわけもなかったし」


「第一、喋ったこともない人が、私の何を好きになるんだって」


「だから、今までそういうことは避けていました」


「彼も、会ってからろくに経ってない癖に告白してきたから、やっぱりなんなんだって思ったけど」


「無関心だった今までの人と違って、彼のことは大嫌いだったから、なんか逆に気になっちゃって」


「大嫌いな彼のことが、彼の動きが、彼の発言が、なんだか目に留まって」


「こんな戦争中だっていうのに、彼とずっと一緒にいれることが、なんだか嬉しくて」


「私って、こんなわけわかんない人といるのが、嬉しいのかなんて、微妙に悩んだり」


「まぁでも、大嫌いなのは、大嫌いなまま、なんだけど」


「その彼がいてくれたから、このほんの短い時間がとっても幸せに満ち溢れてた、かな」


「悲しいことはたくさんあった」


「楽しいこともたくさんあった」


「私は優しく生きれたでしょうか」


「私は恋をできたでしょうか」


「わかりません」


「私は、何も、知らないから」


「自分について考えることを、蛇蝎のように嫌がって、逃げてきたから」


「私には、自分のことだって、何もわからない」


「わからない」


「でも、でも、ね」


「願うことはできるの」


「自分には力がないから」


「何もわからないから、願える」


「わかりたいなって」


「知りたいなって」


「こうであったらいいのになって」


「たくさん、願えるの」


「今までも、たくさん願ってきた」


「でも、願いはただの願い」


「それらが、私一人の力で叶うことなんて、ない」


「だから、だからね」


「誰でもいい」


「人でも、人でなくても」


「神でも、神でなくても」


「タブーとかタブーじゃないとか、そんなのどうでもいい」


「誰でもいいから、願って欲しいの」


「私の」


「こんな寂しい私の、最後の願いを、願って欲しいの」


「叶えたい」


「絶対に叶えたいんだ」


「他のどんな願いも、もう要らない」


「もうすぐ死んでしまう私の未来だって、要らない」


「要るのは」


「欲しいのは」


「彼」


「彼の気持ち」


「彼の気持ちが、欲しい」


「最後に、彼の気持ちが、欲しいの」


「大嫌いな、彼の、感情を知りたい」


「だから、死なないで」


「この戦争を終わらせて」


「それで、その後で、私に、さ」


「想ってることを」


「考えてることを」


「私のどんなところが好きなのか」


「私とこれからどんなことをしたいのか」


「全部、全部」


「教えて欲しいな」


「私はそれまで生きることができないから」


「だから、きっと、ずっと、あなたは私に縛られるの」


「私はあなたの全部を知りたい」


「私はあなたの全部が欲しい」


「ずっと、好きでいて欲しい」


「ねぇ、あなたは、人を超えるの」


「優しい、私の神様になるの」


「私の神様になって、ずっと、私の事を想っていて欲しい」


「ずっとは、ずっと、何年も、何十年も、何百年も、何千年も、何万年も」


「私の神様になって欲しいな」


「ねぇ、あなたに、その勇気は、ある?」


「あるなら、ほら、前を向いて」


「前に進んで」


「あなたの力を解放して」


「私に願われた、あなたの力を」


「私以外の誰かにも願われた、あなたの力を」


「その力で、このくだらない戦争を、終わらせるの」


「私の幸せな日々が、これから始まるんだから」


「あなたにとっては、私にがんじがらめに縛られる、可哀想な日々」


「初めは可哀想だった、あなただから」


「これから先も、可哀想でも、いいよね」


「本当は、幸せな日々だって、思ってもらえたら、いいんだけど、それはいいや」


「さぁ、願われて」


「私に、願われて」


「私の願いを、受け入れて」


「お願い」


「世界にとっての、ただ一つであって」


「それ以上に、私にとってのただ一つであって」


「ムート」


「あなたに、名前をあげる」


「私の神様の、名前を」


「ザ・ワン」


「あなたは、ただ、"その一"であって」


「いつまでも、ずっと」


「私を、忘れないでね」


「私を、好きでいてね」


「ねぇ」


「私の」


「大嫌いな」


「恋人」


「ムート」































「大好き」

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