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NAGI ―神様と共に私を見つけるまで―  作者: 安藤真司
私編 1 ―出逢い―
3/72

私が資産を得るまで

「ほら、ここボクの家だよ!」


だよ!

だよ……。

だよ…………。


あっれー、おかしいな。

つい先刻すごくいい雰囲気で最初の一歩を踏み出した私とナギ。

そのナギが「とりあえずボクの家に泊まりなよ、どうせ行く当てもないんでしょう?」と言うので。

私はお言葉に甘えてナギの家に案内されてきた。

大きな大きな樹木、アドバルンからナギの家の近くまで再度ワープをした私たち。

本当に木に触れるだけで別の場所に行けるのだから不思議だ。

やってきたのはイメージしていた町、よりは随分と廃れているようだ。

一応不思議がまかり通っているだけあって、地面だけでなく空の交通量もなかなかのものだ。

ぱっと見ると人間のように見えるのが7割。

あとは獣に近かったり、鳥っぽかったり、爬虫類ぽかったり。

それで何か差別があるというわけでもないらしい。

ただ、全体的に活気はなく、どこか下を向いて歩いている印象がある。

その中でも大通りなのだろう屋台が立ち並ぶ道を抜けていくと、ナギの家はあった。

ナギの家なのだから、さほど大きくはないかわいい一軒家がそこに。

あるはずだと思ったんだけど、ね。

なにこれ。

目の前にはどう見ても脆そうな家屋。

そして汚れた看板。

「収縮……屋?」

収縮屋。

戸口に立てかけてある縦書きの看板にはそう書かれていた。

なんだろう。

すっごく頭悪いお店があるなー。

「そう、ボク実は、ここでお店やってるんだ」

うわー。

「ね、ナギ、なんでお店?」

「やー、神様序列を上げたいっていうのと、単純に生活費を稼ぐためにね」

なるほど、確か神様序列って他人への影響度で変わるって言っていたっけ。

いやその安易な考え方が既に残念な感じを醸し出しているけれど。

「なんでこんなにボロボロなのかな?」

「そりゃー、改修するだけのお金がないからねー……」

「さいですか……」

いきなりつまづいた感。

というか神様こんなでいいのかい。

お金が稼げない神様。

なんて空しい響きか。

「えー、じゃあ食料はやっぱり自分で調達した方がいいのかな」

ファングって言ってたかな、あのおいしい獣くん。

あれだけでも私は十分生きていけそうだ。

と、ナギが何かに気付いたかのように声をあげた。

「あーっ!そうだ、食料!」

な、なんでしょう。

もうナギのキャラがわからないよぅ。

きらきらした顔もかわいいけれど。

ナギの瞳はその髪よりも濃い、綺麗なエメラルドのような緑色を放っている。

もうずっと見ていたい。

これなら家のぼろさも気にならないかもしれない。

それはないか。

で、何の話だったっけ。

「さっきさ、ファングの希少種を一瞬で倒してたよねナギ?」

「はい?」

ファングの希少種?

あぁ、ナギを追いかけてたちょっと大きなお肉のことかな。

あれね。

確かにおいしそうだった……あ。

持って帰ってくるの忘れてた!

なんてこった!

「ひょっとしてあれ、希少な味がしたんですか……」

「え、味?味はよくわからないけれど」

味はそうでもないのかしら。

ならいいけど。

「あれね、ボクが弱いことを差し引いても結構強いんだよ、そこそこ熟練したハンターじゃないと狩れないくらい」

「そうなの?」

「そう、だからツナギがあれくらい余裕で狩れるなら相当楽に良い物と交換してくれると思うよ」

「交換って、お金に?」

「お金の記憶はあるんだ?ここじゃ普通、生活に必要なものは物々交換がされてるんだよ」

そうなんだ。

変なの。

同じくらいおいしいなら別に交換しなくても。

「同じものばかりじゃ飽きちゃうからね」

論破早いな。

確かにそうかもだけど。

まぁいいや。

私もナギの家でごろごろする気はなかったし。

「じゃあいっちょ前においしいお肉を狩りますか!」



「わーこんないい所に家を建てられるなんてねー」

「そうだねーあっという間だねー」

「ボクの何千年が無駄だったのかと思うほど驚異的だよー」

「そうだねーあっという間だねー」

……。

いやいやいやいや。

こんなでいいのか私たち!

くっ、ちょっとナギと愛……否親交を深めている間にお金がここまで貯まるだなんて。

正直拍子抜けだ。

私の記憶だとお金を稼ぐって、もっと地味で辛い作業を何年も継続しないといけないはずなのだけど。

ここでは、最も手っ取り早い金稼ぎとして、やっぱりハンターが挙げられるらしい。

少なくない数のモンスターが町はずれに生息している。

時に人や物資が集まる集落を襲うモンスターを狩る仕事はいつの時代でも需要が高い。

ちなみに、倒すべきモンスターと、人と共に生活を行っている生命とは全く別物だという認識があるそうな。

基準は、意志相通が図れるか否か、らしい。

当然といえば当然かもしれないけど、ね。

意思疎通のベースが人にあるあたり、少し闇が深いようにも思う。

意思疎通が取れる生命は総じて神擬きと呼ばれている。

擬き、なんて悪口のように聞こえるけれど、当の生命たちは喜んで受け入れているらしい。

で、その神様はまた特殊で、神の中には神擬き以外の生物と会話することが可能なものもいるとのこと。

これもナギ曰く、

「ボクが言うのもなんだけど、神って常識が通用しないものだと思った方がいいよ、物理的にも精神的にも」

らしい。

それ身体的にどうとかじゃなくて物理法則が通用しないってことなのかな。

是非会いたくない。

あと神様に性別があるのかどうか早く確認したい所存。

でも異生命間の婚約が許されているこの世界ならたぶん私とナギの仲を引き裂くものなんて何もないよね。

ピシッとしたスーツを着せた後にお色直しでウェディングドレスを着せたい。

むしろその後脱がしたいくらい。


あー、話を戻すけど、お金を稼ぐにはモンスターを狩るのが早いんだけど。

モンスターもそう簡単に倒せるものじゃない。

だから、普通はモンスター討伐を専門にするギルドに所属するみたいなんだけど、これがかなり怪しい。

具体的には、このギルドという簡易組織。

大小様々なギルドがあるが、神様が指揮を執っているものが多い。

表向きにも、裏向きにも。

少し考えればわかることなのだけど、神様はその序列が上がれば上がるほど神本来の力を取り戻すことになる。

そして神様序列を上げるためには他の生命への影響力の大きさが関係する。

つまり、神様としても強い人を募集しつつ自分でもモンスターを狩るのが、影響力でも自分の取り戻した力を確認する意味でも理に適っているのだ。

そのため、大手ギルドは大体神様が関わっているそうなのだけど。

そもそも。

何故神は上位を目指すのか。

自分の力を誇示するためか。

自分本来の力を取り戻すためか。

理由は神それぞれによるのだろうけど、どうにも胡散臭い。


取り戻した力で神様は何をしたいのだろう。


力を正しく使える人間なんてそうはいない。

神様といえど、今や人間と共に過ごしているのだ。

しかも、自分の力をセーブさせられているとあれば不満もあるだろう。

そんな神様が、凶悪なモンスターを倒せる優秀な戦士を囲って自らの力を蓄えている。

よからぬ噂が絶えないのも無理がないと思う。

ナギはこの状況を、かなり勘繰っているようで、誰かが仕組んだのではないかと思ってるみたい。

私はそんなに興味ないんだけど、ね。

とにかくそんな事情を聞いた私はなんの迷いもなくモンスター狩りに明け暮れてみた。

みたら。

なんか。

がっぽがっぽ貯まってた。

それはもう。

いい感じに。

私の「繋げる力」は確かに強力だった。

狩りだけでなく単なる捕獲にも適していたので自分で勝手に行くだけでなく、そのうち依頼も来るようになった。

一度プラスのサイクルに入ると嘘のように回るのが仕事というものだ。

無我夢中で前に進んでいたらもうこうなっていた。

どうしようこれもう記憶蘇らなくてもいいかもしれない。

私にはナギがいればそれでいいかもしれない。


「私にはナギがいればそれでいいかもしれない」

「ちょっと、何言ってるのツナギ」

はっ。

そうだそうだ、私たちは新居へ第一歩を踏み出そうとしていたのだった。

「私とナギの、新生活、か」

「だからさっきからどうしたのツナギ」

「一緒にご飯食べようね一緒にお風呂入ろうね一緒に寝ようね」

「それ今までと変わらないよね」

「そうだねーいつまでも新婚のような幸せだね」

「ばっ、新婚って……あのねツナギ」

ナギがなんかため息ついてる。

どうしたのかしら。

でもちょっと照れてるかわいい。

なお年齢の事は私の中でもうセーフ認定を出している。

ちょっと千歳くらい年上でもいいじゃない!

そんな程度の年月、愛の前には無力!

「じゃ、行こうかツナギ」

「あ、はい」

と豪勢な新居に踏み込もうとした矢先。


「あんたが収縮の神かい?」


となんかいかにもって風貌の男三人が話しかけてきた。

ふむ。

最近少し有名になってきたのか、こういうことが増えてきたんだよね。

だから新居を構えたってのもあるんだけど。

こんな目立つ道の真ん中で手に持つ刃物を隠そうともしてこない辺り、ただの賊だろう。

実の所こうした暴力沙汰は珍しくない。

ひとえに格差がありすぎることが原因なんだろう。

刃物に気付いた周りの住人がそろそろと離れていく。

そのことを確認してから、ナギが応える。

「うん、ボクが収縮の神だけど、なにかな」

男たちはへらへら笑いながらゆっくりと近づいてくる。

「いやぁ、ここ最近一気に有名になられた神様の恩恵を俺たちも受けたいなぁと思ってねぇ……」

別の一人が続ける。

「こーんな綺麗な家が買えるだけの大金があるなんて羨ましいぜ、ちょっくら、分けてくれ、よ!」

と言うが否や三人同時に大声をあげて突っ込んでくる。

先行してきた二人は短剣をかざし、そこから一歩引いて刀身の長い刀を持った男が大振りで迫る。

ふむ。

二人で隙を作って、後ろの男が一気に切りつける形か。

賊にしてはオーソドックスな戦闘法な気がする。

けど。

それじゃ届かない。

ナギどころか、私にさえ。


「ツナガレ」


その一言で、走ってきていた三人の男、その全員の動きが固まる。

そして一切の抵抗を無効化させる。

「な……んだ……!?」

「全然ダメだよ」

「お前は、一体」

「ん、私?私はね、収縮の神の付き人、知らなかった?」

私はここのところ、この名乗りを行っている。

理由はこれまた単純明快、ナギの知名度を上げるためだ。

「この、力、は」

「それは知らなくてもいいよ、ただね覚えておいて」

私は、地面と空気とを繋いだ光の束に力を集中させる。

この、空間同士やより大きなもの同士を繋ぐ力が私が練習して得た、新しい力だ。

そして私は、ナギに危害を加えようとするものに、容赦はしない。

一気に男三人の体を、光の束で締め上げる。

少しすると男の悲鳴も聞こえなくなる。

「ナギに近づかないで、二度と」

「ほらほら、ツナギ、やりすぎだってば」

ポンとナギが私の肩を叩いた。

それでようやく我に返る。

おっと。

いけないいけない切れてしまうところだった。

「充分切れてたよ……」

それは向こうが悪い。


と、気持ちが弛緩したところで、ようやく新しい我が家に入ることができた。

そこまで広すぎても仕方がないので、大きさはそこそこのところを買ったのだけど、まだ荷物のほとんどない空間はやけに広く感じられた。

なお寝室にはちゃんとベッド(一人用)が鎮座している。

一人用で二人寝るのがロマン。

ナギの温もりを感じながらじゃないともう寝れない体になっちゃてるよぅ。

と、新生活を楽しみにする私を横目にナギが、


「このままで大丈夫なのかな」


と小さく呟いたのを、私が聞き逃すはずがなかった。

でも、何も聞けなかった。

ナギが何を案じたのか。

なんとなく。

わかってしまいそうだったからだ。

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