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NAGI ―神様と共に私を見つけるまで―  作者: 安藤真司
私編 3 ―end my order ?―
28/72

私が"その一"の過去を訪ねるまで

私の神速のアッパーカットがワンくんを襲ったのち。

すぐに水着を着直してわかったことが一つあって。

さっきは私の着替えをリアンに任せていたけれど、彼女が水着というものに慣れておらず結びが甘かったのではないかということだ。

もちろんそうやって何かに責任をなすりつけたいだけのような気もする。

もしかすればベルが集めなくなった不幸が私に降りかかっただけかもしれない。

どちらにせよ。

わ、私の。

その、ね。

む、胸を見られたことに変わりはないわけで。

もう私駄目かもしれんね。

恥ずかしすぎて溶けて無くなっちゃいそう。

まぁ、本気でワンくんに私のパンチがヒットするわけもないから、ね。

ノリでちゃんと吹っ飛ばされてくれるあたりはさすが。

しかし神様のくせになんだか随分ウブなのかしらん。

いや、無反応なのもそれはそれでなんかいらっとするけれど。

人間だった頃の感覚のままなのかもね。

や、別に、あれよ。

感想を聞きたいとか。

そういうんじゃない。

そういうんじゃないから。

聞きたくないわけではないけど聞きたいわけではないから。

あぁもうなに言ってるのかよくわかんなくなってきた。

一つだけびっくりしたのは、ね。

すごく。

すごぉく。

ホントにホントにすっごーく。

恥ずかしくて恥ずかしすぎて恥ずか死ぬくらいなんだけど。

意外と。

気分そのものは悪くはないことに。

びっくり。

そんな私にびっくり。

ワンくんと出会ってからまだ大して経ってないけど。

ワンくんといると退屈しないね。

記憶がないことなんてどうでもよくなっちゃうくらい、新しい私だらけだ。

ナギといる時とも。

ベルといる時とも。

全然違った私が発見できる。

それが、なんでなのかはわからないし、この感覚が一体どういうものなのかはわからないけれど。

不思議と心地いいのだ。

なんでだろうね。

私に関する不安も。

何もかも。

一気に吹っ飛んじゃうくらい、頭の中がいっぱいになっている気がして。

それが全然嫌じゃない。

むしろそんな私を好きになりつつある。

かも。


そんな私の水着事件を終えて。

私も皆に混じって水浴びを楽しむ。

実際私も川に入ってちゃぷちゃぷしてたら皆がテンション上がる理由とか、リアンがわざわざ水汲みついでに水浴びしている理由がよくわかった。

これ確かにすごく気持ちいい。

普段体洗う目的の水浴びとは全然違くって、ただただ冷たい、とか、足元を水が流れる感触とか、それだけで楽しい。

思わずテンションが上がって皆と水かけあいっこに興じる。

あぁ。

この様子をちゃんと魔石で記録できてよかった……。

いやその役目はワンくんに押し付けたわけだけど。

それは罰ということで、ね。

しかし、可愛い女の子が三人(プラス私)仲良く水浴びをしている風景。

そうか。

ここが楽園だったんだ……。

あははは。

うふふふ。

えへへへ。


という時間を過ごしていたら、いつものあれがやってきた。

まだそんなに長い事遊んでないのに。

でも今回ははっきりと出てきたから助かる。

意識を失っちゃう直前の、突然視界がぼやけてくる現象。

でもひょっとしたらただ遊び疲れて眠くなってきただけかもしれない。

なんにせよ少しお休みしようかな。

なるべく皆に心配をかけないように、表面上はいつも通りを心がけて。

「あ、なんだかテンション上がりすぎて私ちょっと疲れてきちゃった、向こうで少し休んでくるね」

「ツナギ、もしかしていつもの?」

わぁあっという間にばれた。

さすがナギ。

私の事よく見てるなぁ。

でも今はそんなに緊急じゃない気がする。

私の感覚がそう言ってる。

まだ普通に受け答え出来るのがその証だ。

「ううん大丈夫、さっきのこともあって余計に疲れてるだけだよ」

「そう?休むにしても見える範囲にいてね?」

「うん、すぐそこにいるよ」

足をタオルできちんと拭いてから、その辺の岩場で別のタオルを敷いて寝転がる。

微妙にひんやりとしていて岩が気持ちいい。

これならすぐに、眠れそうかな。

楽しかったなぁ。

でも、せっかくだからもう少しだけ皆と。

一緒に。

遊んでいたかった。

かなぁ。

そして少しずつ視界が暗転していく。



テンポの良い自然の音が耳に突き刺さる。

水の流れる音がはっきりと届いてくることを認識した辺りで私は目を開けた。

映るのは風に揺れる木々と、そこから覗く青空と、隣に座るワンくん。

よいしょ、と私は体を起こす。

あれれ、水着のままばたりと倒れた気がするけれどなんかシャツを着ている。

一応帰り用に持ってきたシャツだけど。

誰かが着せてくれたのかな。

ぐるっと周りを見回してみると、さっきまで元気よく遊んでいた皆も少し離れた岩場でばったりと倒れている。

ベルなんかリアンの体に乗っかるように寝ている。

きっとたくさん遊んで疲れたのだろう。

そかそか。

ワンくん以外皆寝ちゃってたわけか。

「おう、起きたか」

「うん、ごめんね、いやありがとうか、ちゃんと見守っててくれて」

「そういう仕事だしな、だが特に襲われる気配もないし、そんなに労苦もねぇよ」

「そっか」

沈黙。

ここに来る前の、嫌な沈黙とは違う、切り出し方を伺っているような空気。

でも、そうだよね。

さっきワンくんは言ってた。

『ま、後でな』

って。

待ってるとは言ったけど。

私から聞くのがやっぱり礼儀か。

実際、知りたいのは私の方だし、ね。

でもすぐには切り出せないので二つ咳をして、心の準備をする。

ようし。

「ね、ワンくん、さっきの続き、さっきのっていうかさっきと、今朝の続き、聞いてもいい?」

「あぁ、そうだな」

「私もナギも昔の事は全然知らないから、その背景も含めて知りたい、かな」

「ナギは俺よりももっと新しい神なんだっけか」

「うん、それに加えてこの世界に墜ちてくる前の自分の記憶がないから」

「ベルヴェ……ベルには聞かないのか?」

ベルの事を隠す一環として、基本、ベルヴェルクっていうフルネームで呼ばないように注意してもらっている。

そのことを思い出したのだろう。

「ベルはあれであんまり、多くを語らないから」

「そうなのか……ま、話すって言ったからにはちゃんと話すが」

「が?」

「あんまり気持ちのいい話じゃねぇぞ」

「それは、覚悟してるよ」

だって、最低限のことは私だって知ってる。

「現神様序列2位、個体の神ザ・ワン、元は人の身でありながら神に進化した、否、神化した者」

ワンくんの反応を見ながら、まずは私の知っている状況を整理する。

「神としての出自は、とある戦争中、恋人に不死を願われて生まれたと、言われている……合ってる?」

「そんなところだな」

「私が知ってるのはそのくらい」

これっぽっちしか、知らない。

命を助けてくれた相手の事を。

裸を見られた相手の事を。

いや別に見せたわけではないからね、そういう仲であるという話ではない。

あー思い出したら少し顔が熱くなってきた。

でも、今はそういう事を考えている場合じゃない。

これからワンくんの話す一言一句を逃さないように集中しよう。

と、でも先に聞いとかなきゃ。

「あのさ、元々は人間だったんだよね?」

「そうだ」

「そしたら、名前は、なんて言う名前だったの?ザ・ワンじゃない、よね?」

「そりゃあな、ザ・ワンは特に意味も知らずにあいつが適当に付けたからな」

「え、と、意味?」

あいつ、が誰なのかはもちろんわかる。

でも、あえて聞かないでおく。

私からは。

「あぁ、『私にとっての唯一』って意味を込めたかったらしいが」

「ちょっと違う、かな?」

「だよな、で、俺の名前か、俺は元は"ムート"ってんだ」

「ムート……」

ムート、勇気(ムート)か。

いい名前だ。

「良くも悪くも人を捨てることになったからな、今は神としての名を使ってるよ」

そうなんだ。

「今でもはっきりと思い出すんだ、あの戦争の事は、あの惨劇の事は」

そしてワンくんが語りだす。

「それに、あいつのこともな、もうあれから何千年も経ってるのに」

「何千年……」

「あ、実はこれ神様ジョークらしいぞ、実際には何千年は嘘だ」

「今そういうのはいいから」

「いや、知ってるもんだと思ったら意外とそこに喰いついたからよ」

「あぁ、でも確かに今がちょうど神様が墜ちてきてから千年と少しくらいらしいね」

「知ってるなら反芻すんなよ」

「ごめんごめん」

それはいつだかナギに聞いた話だ。

この世界が出来てそこまで歴史があるわけではないらしい。

でも、何百年だとインパクトが薄いので、派手好きの神様の間では、自らの歴史を語るときには何千年と話すらしい。

っていうか神様ジョークて。

あなた今人間だったんでしょうが。

全く。

「まぁ、これでも結構気恥ずかしいんだよ、恋人だったことは周知だし」

「それは、そうかもね」

「あいつは、ヴンシュは、なんつーか変な奴だったよ」

そこから始まる物語はもう。

その目はもう。

その声はもう。

私に向けられていない。

たぶん、きっと。

私の知らないあの人に向かっている。

わかっていたけど、そのことが何故かとても苦しい。

「結局俺は最後まであいつに何もしてやれなかった、そのことを今でも悔いている」

今でも、か。

ワンくんもまた、過去に縛られているのだろうか。

あるいは出会った時のベルと同じく、願われた自分に囚われているのだろうか。

「あー、いざ話そうと思うとどっから何を話せばいいのかわかんねぇな」

「いいよ、ムートさんとヴンシュさんが出会った時から、何があって、どう終わりを告げて、今のワンくんが生まれたのか、全部話して」

「……結構長いぞ?」

「うん、そのつもりで聞いてる」

「そうか」

ようやくワンくんも気持ちを固めたのか、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。

「じゃあ、そのつもりで俺も話すが、先に、結論だけ言っておくぞ」

「結論?ワンくんが神様になるってことじゃなくて?」

あぁ、とワンくん。

なんだろ。

そしてワンくんが放った言葉は。


「神になった俺がヴンシュを見殺しにして、独り戦争を終わらせる、そんな結末だ」


私の想像よりも重たかった。

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