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NAGI ―神様と共に私を見つけるまで―  作者: 安藤真司
私編 3 ―end my order ?―
27/72

私が水着に着替えるまで

誰かが言った。

水遊び。

これは、女同士の見える戦争であると。

いやホントに誰が言ったんだそんなこと。


「ようし、まずは水汲みを先に終わらせてしまおうか」

リアンが先導して、それに並んで付いて行く。

まずは当初の目的である、リアンの家のお店用に澄んだ上流の水を汲みに行くらしい。

山というからどんなものかと思っていたけど、さして危険と呼ぶほどの急な斜面もなく、しかし整備はされていない道をだらだらと歩く。

「水汲みまで手伝わせてごめんね?」

「いいよ、皆でこういうのも楽しいし」

「ピクニック、です」

「ありがとう二柱とも」

ついでにリアンがくるっと後ろを、というか私たちの方を向いて微笑む。

「もちろん繋ちゃんとザ・ワンさんもね」

対する私たちの反応はといえば。

「……おう」

「……うん」

と、テンションの低いものだ。

まぁ、ね。

なんというか。

なんというか。

一言で私の今の心境を語ろうか。

ええとね。

気まずい。

すごく、とっても。

気まずすぎて誰か私たちの間に入ってきてよと思っているんだけど。

リアンを先頭にナギとベルが並んでほぼ三列に進んでいるせいでだ。

私とワンくんが並んで歩く状態になっている。

気まずい。

二重の意味で気まずい。

一つはもちろん今朝の話で私は少しだけワンくんの過去に迫ってしまった。

あの時は秘書のユヘィアさんが来たからなんか流れたけど。

思い出せばなんであんなこと聞いちゃったんだ私!

と叫ばずにはいられない。

叫ばないけど。

たぶんワンくんも同じことを思って気まずそうにしてるんだと思う。

おかげで会話がまだ集まった時の、

「やほ」

「おう」

しか交わしてない。

交わせてない。

ついでに私はさっきまでの水着のやりとりを思い出して若干気まずいのも加算している。

これまた今になって思えば完全にリアンに振り回されている。

何故あんなに挑発に乗った私!

しかし私の記憶が確かならそもそも挑発されていない。

ごめんねリアン、脳が勝手にあなたを悪者にしちゃってるよう。

とにかくそんなわけで非常に気まずい。

いやぁ、男なんだからそっちから喋って欲しいなぁ。

こういうのはそっちの役目でしょ。

いつも通り話しかけてきなさいよ。

……。

あれ。

話しかけてるのは大体いつも私の方か。

あらら、驚愕の事実。

仕方ない、ここはならば私から話すのが正解か。

「ね、なんか、面白い話してよ」

あ、なんか話題ミスったかも。

「しねぇよ」

あう。

やっぱり。

どうしようかな。

「ほ、ホントに来てくれたんだね護衛に」

「依頼、ユヘィアが勝手に受理したからな」

「あー、そっか、そうだったね」

終了。

な、なんだよぅ。

これはやっぱりワンくんが悪いんじゃないかな!?

なにさ、私と会話したくないってか。

もう怒ったよ。

怒った私は怖いよ。

「具体的には毎日寝る前に小指の爪が数ミリ剥がれていく呪いをかけてやる」

「なんだその怖ぇ呪いは」

「ワンくんにかける」

「やめろよ、つーかなんでだよ」

「ワンくんが全然話してくれないからです」

「そんなことで呪いかけられてたまるか俺は元々口数多くはねぇだろ」

「そんなこととはなんだー、私が一体どんな気持ちでこの場にいると、思って、る」

「……?」

「……?」

互いに首を傾げる。

ん?

なんか違うな。

「そんなこととはなんだー、私に気を遣わせるなんてワンくんはひどい奴だ―」

「やり直すのかよ……いいけどよ」

「ひどい奴だー」

「ちゃんと付き合ってやってるだろ」

「……?」

「……?」

再度互いに首を傾げる。

ん?

なんか違うな。

「ちゃんと今話してやってるだろ」

「確かにそうだね」

「だろ」

「じゃあいいや」

「いいのかよ」

「いいかもしんない」

「はっきりしねぇな」

「それよりなんでまたその袴?動きにくくない?」

「いや、これが慣れてるんだよ」

「そうなの?」

「あぁ、案外動きやすいぞ」

「珍しいよねそれ、誰かに頼んで作ってもらってたりとか?」

「だな、今はユヘィアに頼んでもらってる」

「ユヘィアさんに作ってもらってるの!?」

「違ぇよユヘィアが見立てた店で作ってもらってるってことだよ」

「あぁ、ならよかった」

「……?」

「……?」

「……」

「……何がよかったんだろ」

「俺が聞きてぇよ」

「さぁ、わかんないね、色々」

「そんなもんだろ、生きてれば」

「そうかも、わかんないことだらけだ」

「あぁ」

「だから、知りたいんだよ、私は、『私』のことを」

「そっか」

「それに、あなたのこともだよ、ワンくん」

「……は」

「あなたのことも、知りたいなって思うよ、ワンくん」

「……そうか」

「うん、そうだ」

「なら……」

と、いつもの調子に戻った私たちの腰を折るようにナギが私たちの事を呼んだ。

「おーい、この辺でまず水汲みだってー!!」

思わず笑ってしまう。

今朝といい。

相変わらずタイミングが悪い。

どうしようかな。

せっかくまたきちんと聞けたのに。

とか思っていると。

「ま、後でな」

と、ワンくんが先に進みだした。

そう、後で、ね。

「そ、待ってる」

私もナギの方へ少し走る。

またしてもその先でリアンとベルがにやにやしてる気がするけれど、今は気にしない。


それから少し、水汲みを手伝って。

ナギがいたのでそれはリアンが思っていた以上に早く終わった。

簡単な話だ。

収縮の力で水を収縮すれば一気に量が溜まる。

そしてしばらくは重さも気にならない。

その素晴らしい力を前に、リアンは

「もう家に来ない?」

と誘っていたけれど。

駄目だってば!

全く全く。

少し目を離したらこれですよ。

私の家族はどこにもやらん!

と私の家族愛が深まったところで。

ついに。

ようやく。

やっと。

件の。

川の中流くらいか。

流れがかなり穏やかになっていて、かつ川幅が結構あるリアンのお気に入りの遊び場に到達した。

辺りには岩場もあって、いちおう衣服も並べておけるみたいだ。

妙な緊張感が走る。

さて、誰から脱ぐ……?

って、何をそんな悩んでいるんだ。

今の私たちには水着があるんだからね。

脱ぐだなんて大した作業じゃあないね。

ははは。

はは。

は。

誰か先に脱いでくれないかなぁ。

いやー。

厳しいよう。

「じゃあ俺は辺りの見回りに行ってるから気がすんだら連絡してくれ」

「ちょっと待ったぁああああ!!」

…………。

…………。

やっちまった!?

何故止めたし私!?

このまま行かせとけばよかったじゃないか私!?

「なんだよ」

「いやー、実はねザ・ワンさん今回さすがに男の方一柱なのでどうかと、"繋ちゃんから"話がありまして」

なんで私を強調してるのかなリアンちゃん?

「水着なる、水浴び用の衣服をツナギが作った、です」

「水着?つーかつまり何が言いたいんだ?」

「あぁ、だからボクたちと一緒に遊べるよって話だったね!」

リアンからのパスをベルが繋ぎナギがゴールした。

そんな流れ。

「いや俺はいいよ邪魔だろ」

「いえでも繋ちゃんの気持ちを無駄になされるんですか?」

「つっても非常識だろ」

「せっかく可愛く繋ちゃんが用意したのにですよ?」

「なぁお前もなんか言ってくれこいつ話聞いてねぇぞ」

ふむ。

ここは私が。

きっちり話してやろう。

任せなさい。

「や、ここにいたらいいんじゃないのかなー」

「お前もかよ!?」

やっぱり駄目でした!

ごめんねワンくん!

「さ、ベル行こっか?」

「いい水浴び日和、です」

早速その横でまずはベルが衣服を脱いで岩場に放り投げている。

もちろん中に水着を来ているからこそ出来る行為だ。

この辺りは考え方が甘いようにも思うけど。

それを隣のナギがしっかりキャッチしてきちんと畳んで並べてあげている。

「一番乗り、です」

そう言ってベルがちゃぷちゃぷ川に足を踏み入れる。

背の小さなベルでも膝までは全然ない程度にしか水深はないみたいだ。

そのことを安心していると、次いでナギも川に入っていく。

「わー冷たくて気持ちい!」

「最高、です」

とすぐに水をかけあったりして戯れている。

思わず持ってきた魔石でその様子を記録する。

記録の神とかいう神が創った魔石を使うと、その場の風景などを魔石に記録できるのだ。

今日の水浴びが決まって皆で集まる前に買ってきておいてよかった。

ベルの水着はせくしぃに、と言われたけれどそれはどうにも納得がいかなかったので、最低限セパレートにしておへそを出す作りにしておくことでせくしぃとしておいた。

普段からフリルが着いたスカートが好きみたいなので、ふりふりが可愛い琥珀色の水着がベルによく似合っていると思う。

そしてナギは気を衒わずに、直球勝負だ。

戦わないけど、ね。

ナギの白い透明感のある肌にはそのまま白いビキニが間違いなく似合うと思った、その予想に違わぬ可憐さだ。

人離れしているほど白い肌に浮かぶ、翠色の瞳にオリーブグリーンの髪が神秘的なまでにこの光景に華を添えている。

あぁ生きててよかった。

「おい、おい繋」

あ、なんか話しかけられた。

目の前にいるワンくんがそっぽを向いている。

どうしたんだろう。

「ん、なに?」

「なにじゃなくて、いやあいつら普通に、その、駄目だろあの格好」

「え、あぁ、あれは水着だよ、水着」

「なんだそれ、その、あれだろなんか、し、下着的な」

「ちっ、違うって!!」

確かに遠目は似ているかもしれないけれど。

ていうか何、ワンくんあの二柱の事そんな目で見てたの?

「私たちも知らなかったんですけど、ああいう水浴び用の衣服があるらしいって、繋ちゃんが用意してくれたんですよ?」

そう言ってリアンは自身の服をぽんぽんと軽く叩いた。

リアンは完全に体のラインを隠すワンピース型。

全体的には動きやすいようにゆったりと作った。

ただ、どの角度からでも胸はしっかり隠すようにそこは注意をして。

リアンも大人っぽいので白でいいかなって思ったけど、やっぱり少し水色系統がいいかなと思って、薄ら染まっている。

っていうか、なんでこの子たちは水着で来てるんだろ……。

普通中に着たりとか山登りに水着は着ないって。

「ささ、繋ちゃんも繋ちゃんも!」

「ま、待って私は中に水着着てないから!五分、五分待って!」

「よし、じゃあザ・ワンさん五分後にまたここに来てください」

「だから俺は別に」

「ベルちゃんナギちゃん、彼と一緒に五分後戻ってきてもらえる?」

「らじゃー、です」

「おっけーだよ」

「いや、俺の言うことを頼むから聞」

「来てくださいね?」

あぁっ、リアンさんの笑顔が怖い。

ワンくんも苦笑いしている。

その目は既に諦観が浮かんでいる。

申し訳ないぜ、ワンくん……。


五分後。

「ホ、ホントにこれで水浴びするの?」

「自分で作っておいて何言ってるの繋ちゃん、ほら行こ?」

「で、でもさ」

私が着替えてから川に入るのを渋っていると。

「戻って来たよー」

「来たよー、です」

ベルに手を掴まれたワンくんがやってきた。

なんで手を掴まれてるんだろ。

手を繋いでいる。

ではなく。

掴まれているのがポイントだ。

すぐにまた川に戻るナギとベル。

とっても楽しそうだ。

私の正面に残されるワンくん。

なんとなく気まずい雰囲気が再び。

その空気を。

リアンが。

「ていっ」

と壊した。

物理的に。

「へっ?」

「おいっ!」

リアンに背中を押された私は突然の事に対応できず前に倒れそうになる。

それを、ワンくんが正面から抱きかかえてくれた形。

ぎゅっ、と。

ワンくんの大きな胸に飛び込んでしまう。

おかげで倒れずに済んだけれど。

けれど。

今の私は水着を着ているから。

支えてくれてるワンくんの手が私の肩から背中辺りにきっちり触れていた。

今、どんな顔してるのかわからない。

自分が。

そう思った瞬間に私は数歩飛び退く。

顔は下げたまま。

飛び退いて、しゃがみ込む。

丸まって、なるべく自分を見せないように。

右手だけ伸ばしてリアンに抗議する。

「あ、ご、ごめんね、ワンくん、っていうか、リアン何するの!危ないでしょ!」

「ごめんごめん、あ、じゃ、私も水浴びしてるね」

言うだけ言ってその場を離れていくリアン。

しゃがむ私と立ち尽くすワンくんだけが残される。

ワンくんの足元を見れば下駄を履いている。

動きにくくないのかな。

なんて一瞬だけ現実逃避をして。

「や、ご、ごめんねワンくん」

「別に、もう十分迷惑はかけられっぱなしだっつの」

「そうだよね……うん、ごめん」

ハァ、とため息が聞こえる。

私の体が無意識にびくっとなったのを感じる。

「あー、だから、今更気にすんなよ、本気で嫌なら無理にでもここには来ねぇって」

「へ、ワンくん?」

「あれだ、ユヘィアの言うとおり、ちょっと疲れてるみたいだよ俺は」

そう言って、その場に胡坐で座り込むワンくん。

「ほれ、行って来いよ俺はここで休んでる」

「……うん、そうする」

顔を上げる。

たぶん、すごく恥ずかしい顔をしていると思った。

今の自分は。

だって、顔が熱い。

さっき触れられてたところが不思議と熱い。

なんでかわかんないけど。

ワンくん以外で男の人(ワンくんは神だけど)と話すことなんて今の私にはほとんどないから、もうどうしたらいいのかわからない。

でも、ちゃんとこれだけは言わなきゃ、ね。

「ありがとう、ワンくん」

「いいって」

「ん」

そこまで言ってもらって、ようやく川に私も行こうと。

立ち上がろうとしたその時ふと頭に一つの疑問が浮かんだ。

恥ずかしい疑問だとわかりつつもぶつけてみる。

恥ずかしいからしゃがんだままだ。

「あとさ、これ、水着、どう?」

私は、ナギとお揃いの水着にした。

と言ってもお揃いなのは形だけで。

色は結局黄緑色にした。

ナギの髪や瞳ほど綺麗なものではないけれど、少しお揃い感を出したかったから。

そんな黄緑色のビキニを着た私を見て、るかどうかはしゃがんで俯いてるからわからないけど。

ワンくんは答えてくれた。

「ま、悪くはない、つか似合ってるんじゃねえの」

「そ、ですか」

顔がますます熱くなるのを感じる。

もうなんなんだよう。

不思議とこのままここにいたいと思うけど、やっぱりすぐにこの場を離れたいとも思う。

そんなわけで逃げるように私は立ち上がって早口でお礼を言ってしまう。

「さっきは倒れるの助けてくれてありがとう、あと、似合ってるって言ってくれてありがとう」


と、川で遊ぶ皆に混ざろうとしたら。

ふぁさりと。

音がした。

今の私は。

ナギとお揃いの形。

色は黄緑色の。

ビキニを着ていて。

その、上側と言いますか。

胸を隠す側と言いますか。

その、二つの三角のような丸のような形の布が地面に見える。

それが地面に見えるのだから。

つまり。

それが意味するところ。

さきほどの"ふぁさり"という音。

これらから導かれる現在の状況とは――。


「いやぁあああああああああああああああああああああああああああっ!!??」

「ごふっ!?」


誰かが言った。

水遊び。

これは、女同士の見える戦争であると。

嘘だった。

私とワンくんの戦争だった。

それも私の一方的な、ね。

いやそれ戦争じゃないな。

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