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NAGI ―神様と共に私を見つけるまで―  作者: 安藤真司
私編 3 ―end my order ?―
26/72

私が水着を作るまで

誰かが言った。

水着選び。

これは、女同士の見えざる戦争であると。

いや誰が言ったんだそんなこと。


私たちの間では、水浴びという遊びは一般的ではない。

普通、水浴びと聞いて思い浮かべるのは二種類で。

一つは気温の高い日に行われる湯浴びの代わりとしての水浴び。

これは単に体を洗うことを目的としている。

もう一つは、清めとしての水浴び。

こちらも意味合いとしては体、もしくは精神の穢れを取り払うことを目的として行われる。

違いは基本、神様が行ってくれる儀式である、ということくらいかな。

どちらにせよ体を洗うことを指すため、遊びの意味を持つことは滅多にない。

確かに多くの女性は水浴びを好むし、私も含めてもっと羽根を伸ばしたいという気持ちはある。

でも、ね。

如何せん、その水浴びの出来る広々とした空間というものがアンダーワールド、つまりモンスターに襲われる危険性のある場しかないのだ。

これでは誰もやろうとはしないだろう。

まぁ、ハンター同士で見張りをしながら水浴びをすることはある。

そして今回私が巻き込まれたように、ハンターに限らず、何かしら警護をつけてやることもなくはないけど。

結構な特例であることを知っておきたい。

というか普通は警護を付けるのは金銭面でもどうかと思うし、命の危険のある場で遊ぶためという理由で警護の許可が下りるとも思えない。

リアンはその辺を上手く潜り抜けているのだろう。

思えば申請自体は、あくまでパン作りのために必要な水の確保を理由にしていたっけか。

なんて逞しい子。

しかもワンくんの秘書ユヘィアさんの口ぶりから、今回が初めてというわけでもないみたいだし。

そんなガバガバで大丈夫なのかと思って地図を見てみれば、アンダーワールドと言ってもほとんど町との境界くらいに位置する場所だった。

町からある一定の距離を超えだすとアンダーワールドがあるわけだけど、そこに明確な線引きは存在していない。

当然だ。

こちらが勝手に町だのなんだのと定義しているだけなので、その境は町であってもモンスターに襲われることがあるかもしれないし、逆も然り、だ。

いや。

完全に町の中でもモンスターの脅威がないわけでもないんだけど、ね。

その事実すら、逆もまた然り、ということらしい。

アンダーワールドでも、モンスターの出現しにくい場というものが存在していて。

今回リアンが水を汲みに行く山川というのは比較的落ち着いた場らしい。

モンスターはいるが、こちらが争う意思を見せなければ襲ってこないという。

そんなのもいるのね。

あぁでも遊ぶつもりらしい川の中流の辺りは大分まったりした空気感だけれど、実際に汲みに行く上流は少し気を付けた方がいいって言ってたかな。

高くはないけど山を登るので、空から襲われることがあるかも、なんて言っていたけれど。

全く危ない感じが伝わってこない。

そんなんでいいのかなぁ。

リアンにはもっと自分を大切にしてほしいなぁ。

なんて。

思いながら。

私たちは水着選びに来ていた。

否、水着作りに来ていた。


そもそもこの水着に関して、全く全く大問題があった。

そう、水着。

水着そのものだ。

この世界に、水着はない。

理由はさっき話した通り、この世界では遊びとしての水浴びはほとんど存在していないからだ。

で、つまり、その結果。

水浴びとは。

当然。

一切の衣服を身に着けない状態で行われるものである。

有り体に言って裸だ。

ここに、珍しく私の信用ならない記憶が何故か叩き起こされたのか、私と皆の反応に齟齬があった。

私は、外で裸になるなどもっての外だ、水着を当然着るだろうと考えたのだけど。

以下、リアン、ナギ、ベルから。

「へ、問題、あるかなぁ?」

「ボクも警護の人に見られるかもしれないのは嫌だけど、まぁばれないようにしてくれれば?」

「減るもんじゃない、です」

待った待った!

そんなの絶対駄目!

皆の貞操は、私が守る!

と、一念発起した私があれやこれやと理由を並べて、水着なる水浴び用の簡易服を着させることを了解させるのに三十分かかった。

いや、普通に頼んでも別に了解してくれた気はするけれど、つい熱が。

それに、ほら。

今回私たちの警護を担当するのは、ワンくんだし。

や、ワンくんだから何ってこともないけど。

知り合いに見られるのはちょっと、なんか、違うし。

ナギとかベルとかリアンとか、見られたく、ないかなー、なんて。

私も、そりゃ、嫌だけど、ね。

ともかく外で裸なんて駄目ということで水着を買おうと結論を出したものの水着なんて売ってないので、自分達で作ることになった。

皆にどんなのがいいかイメージを言ってもらったり私からも案を出したりして、良さそうなら、私がツナガレで縫っていく。

だから布だけ買っておいた。

リアンが今日は午前だけで生命指南が終わったのですぐに私の家に来てもらって。

この流れで、四人で今から水着を作ろうという段取りになったわけだけど。

集まってからのリアンの第一声。

これが私の小さな戦争を勃発させた。

曰く。


「せっかく作るならカワイイのが良いよね、ザ・ワンさんも一緒に水浴び出来るわけだし」


という発言。

私は理解できずに数秒フリーズしてしまう。

え、え、どういうこと?

なんでワンくんが一緒に水浴びすることになるの?

「なんでワンくんが一緒に水浴びすることになるの?」

頭で考えたことをそのまま口にする。

リアンがぽかんとした表情で返事をする。

「だって、水着?を着るんでしょう?なら別に一緒に水浴びしてもいいんじゃあないの?」

ええと、それは、つまり。

裸じゃないのだから男が一緒でも問題ないんじゃないの?

ってことかな?

あれ、なんか状況が悪化してる気がするよ?

ちなみになんでカワイイのを作りたいのかな?

「ちなみになんでカワイイのを作りたいのかな?」

あ、また考えたことがそのまま口をついて出た。

なんだか脳活動を追い越した気分。

追い越してないけど。

「うーん、私は特に気にしてないけど……」

「けど?」

妙な間を置いて、リアンが私の事をじろじろと眺めてくる。

なにさ。

「ザ・ワンさんて、かっこいいじゃない?」

「ふぇっ!?」

いきなり何言ってるのリアン!?

あぁ、え、もしかしてもしかするの!?

なになにこんな身近に恋の兆しが!?

いやいやでもそんなあのワンくんだしそうかなぁかっこいいとか考えたこともないけれど。

かっこ悪くはないけどね。

で、でも、そうかリアンは、ワンくんが、好きまでいかなくても、その、意識するくらいには好ましく思ってるのか……。

そ、そっか……。

「うんうん、いい反応だなぁ」

「リアン楽しそうだね」

「あ、ナギちゃんは知らないんだ?」

「特殊な三角関係、です」

「え、なんのこと?」

「これはこれは面白い展開になってるねぇベルちゃん?」

「泥沼、希望、です」

「だから何がっ!?」

ハッ、考え事してて話聞いてなかった。

いかんいかん。

とにかく、リアンの事を考慮に入れて、水着作成に取り掛かりますか、ね。

うん、そうしよう。

そうしよう……。


まずは慣れ親しんだナギから。

一番イメージがしやすいのもナギだし、ね。

ナギは綺麗なオリーブグリーンのさらさらな髪をポニーテールにしている。

元が長いのでポニーテールでもそこそこの長さになっている。

それでもあんまり女の子っぽい服装は好きじゃないらしく(私が着せることは多々あるしそれをナギは断りはしないけど)、今も飾り気のないショートパンツを履いている。

まぁその辺のスカートよりショートパンツの方がエロいので私的にはアリですが。

普通のハンターとかなら鎧を着込むものだけど、神様は皆動きやすい格好でいることが多いみたいだ。

何か重石に縛られていたくない現れなのかもしれないね。

さて、そんなナギに似合う水着とは。

「やっぱり白かなぁ」

「ボクはなんでもいいよ、ツナギが考えてくれるなら」

「うーん、じゃ、ひとまず作ってみようか」

集中。

ナギに合わせる水着。

「ツナガレ」

私のイメージを乗せて、ツナガレがものすごい速さでゼロから水着を縫い合わせていく。

作業すること約一分。

ナギ用の水着が完成した。

ナギが大事そうに持ちあげて眺めている。

「うん、すごくかわいい、ボクに似合うかわからないけどこれがいいな」

「何言ってるの、ナギの為に作ったんだから似合うに決まってるでしょ」

「そうかな」

「一応、サイズが合ってるかどうか確認しておいてね」

「うん、ありがとうツナギ」

「いえいえ」


さてお次は。

「私は、えっちぃのがいい、です」

ええと、ベルさん?

どうしたのかなー?

「私、小さいので、せくしぃな水着がいい、です」

「そんな子に育てた覚えはありませんよベル殿っ!!」

「ツナギが壊れた!?」

「この中では一番長生きしてる、です」

「そんなこと認めません許しませんベルはもっと可愛らしくて愛らしくて『ツナギの作った水着、ツナギの匂いがしていい感じ、です』とか言ってくれなきゃ嫌だ!」

「待って繋ちゃんの中でベルちゃんはそんな立ち位置なの?」

「ボクが思うに立ち位置の問題じゃなくってツナギの問題なんじゃないかなぁ」

「とにかく、ツナギ、作って、です」

「うぅ、お姉ちゃん、お姉ちゃんは認めませんからねぇ……ツナガレ」

再び閃光が駆け巡る。

出来上がった水着をナギと同じように持ち上げて静々眺めるベル。

「いい感じ、です」

そして顔を赤らめて、

「ツナギ、ありがとう、です」

とか言ってくれた。

かわいいなぁ。

もう。

「リアンも、機会をくれてありがとう、です」

「……っ」

「どうした、です?」

「……持ち帰りたい」

「駄目だよリアン!?」

ベルはうちの子なんだからね!

ちなみに、だ。

もちろんリアンにはベルがかつて神様序列1位の薄倖の神であることは教えていない。

ただ序列の低くて不思議な力をろくに操れない神様であると伝えている。

騙すようで悪いけれど、それは皆で話し合って決めたことだ。

さすがに付き合い上、ベルがいることそのものを隠すことは難しいので、何か聞かれたときに皆同じような返事が出来るようにと口裏を合わせている。

幸い序列が上がってきた神様ナギの連れを相手に詐欺を働こうという者はずいぶんと減ってきたので今のところはそれで通している。


で、だ。

リアンの水着だけれど。

どうしよう。

これこそ少しセクシーなものを作った方がいいのかな。

リアンはこの中では一番大人っぽく見えるし。

ちょっと、攻めても……。

い、いやぁでもどうかなぁ。

実際ワンくんがそんなことに反応するとは思えないしなぁ。

は、反応するのかな。

いや、しないでしょ。

しないよね。

ワンくん元々恋人がいたわけだし。

じゃあやっぱりリアンにもそういうことは考えずに純粋に似合うものを作った方が。

でもリアンがその気ならそれは尊重した方がいいような気も。

しないでもないようなするようなどうしよう。

「あぁー、ごめんね繋ちゃん」

「へっ、あっ、何が?」

「ザ・ワンさんのこと、別に好きとかじゃあないんだ、繋ちゃんのことからかってみただけ」

「……うん?」

「ほら、あんまり男の人と、神様も含めてだけど、関わりがないみたいだったから、少しからかっちゃったの、ごめんね」

「……あー、そう、なんだ、そっかそっかー、やー、うん、そっかー」

「だからねー、繋ちゃんが思う、私に似合うものを作って欲しいな」

「う、うん、任せて!」

そっかそうだったのか。

なーんだ。

よかった。

……?

何が、よかった、なんだ?

まぁ、いいかな。

いいや。

深く考えたらよくない気がする、ので。

リアンの水着を考えよう。

リアンは瑠璃色の髪が癖なのか、ちょうど良い感じにくるんと巻いた感じになっている。

実際話すと年相応だけど、全体的に大人しめ、落ち着いた感じの服が似合うように思う。

今着ている洒落たダークブラウンのワンピースも少し大人っぽい。

ようし。

「ツナガレ」

再三の閃光が走る。

出来は上々だ。

「ふふっ、ありがとう、すごくかわいい」

「そう言って貰えると嬉しいよ」

でも、とリアンは続けた。

「ナギちゃんとベルちゃんに比べて露出が少ないのは、やっぱりそういうこと?」

「ちがうよっ!!」

「冗談だよー」

もう……。

他意なんて、ないもん。

ね。


「じゃあ、後はツナギだけだね」

「自分のはどうするのか決めたの?」

「うーん、いざ自分のものとなるとどんなのがいいのか難しくて」

「ツナギは、ツナガレの光のイメージが強い、です」

「光かぁ、黄色系ってこと?私には派手すぎない?」

ちなみに私は紛うことなき地味子だ。

と、思う。

たぶん。

この世界だと、特に神様は皆綺麗で華やかな印象を持たせる方が多いので町の皆もそういう雰囲気に寄せることが多いみたいなんだけど。

私にはそういうのはあわないっていうか、ね。

なんか違うんだよねぇ。

ベルも私も同じ黒髪だけど。

艶のあるベルと違って私はそんなに綺麗でもないし。

まぁ妥当なものを作っておけばいいかな。

と、悩みつつも冷静に方向性を固めた私にリアンが神妙な顔で話しかけてきた。

「繋ちゃん、二つだけいい?」

なんでしょ。

無言で先を促す。

「繋ちゃんはすごくかわいいよ、すごくね」

な、何を急に!?

隣でナギとベルもうんうんと頷いている。

「あとね」

そこでまた間を置くリアン。

不思議と私の胸が高鳴る。

な、なにさ。


「ザ・ワンさんが見るんだよ、水着姿」


「…………」

「…………」

「……ツナガレ」

「…………」

「…………」

「何、笑ってるの」

「「いや?(です)」」

「え、どうしたのベルにリアンまで」

「そっかぁ、やっぱり鈍感なんだねぇ」

「不倫、です」

「不倫だねぇ」

「ツナギ、不倫って何?」

「既婚者が別の相手と恋仲になることだよ」

「へぇ、じゃあ二人は何を言ってるの?」

「さぁ、わからない、っていうかわかりたくない……」

「そうだね、知らなくてもいい気はしてた……」

不毛すぎる……。


まぁそんなこんなで。

水着が出来た。

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