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NAGI ―神様と共に私を見つけるまで―  作者: 安藤真司
私編 3 ―end my order ?―
25/72

私が"その一"に迫るまで

「たのもうたのもう」

<<なんでそんな不思議な尋ね方なんだよ>>

「や、なんか警護ギルドって入りにくいんだよ、なんとなく」

<<だからってなんで魔石で連絡をとる理由がどこにある>>

「えー、あなた以外に見られたくない的な」

<<切るぞ>>

「待ってホントに大丈夫なんだよね普通に入って!?」

<<大丈夫だって言ってるだろ、早く来いよ>>

「はぁーい……」


警護ギルドに着いたはいいが少しまごついて。

やっとの思いで入ればすぐに筋肉むきむきの男の人が「お待ちしておりました」とか言ってワンくんの部屋まで私を連れてきてくれた。

なんだ優しいじゃんね。

知ってたけど。

ほら、罪悪感ないのに見たら逃げちゃう現象だよ。

あるあるさ。

若干誰だあいつはみたいな視線があったのはたぶんワンくんが全員には言っていないんだろう。

私が来ることを。

まぁそれはいいとして。

早速ワンくんのいる部屋に入る。

ギルドの最上階に位置するワンくんが指定した部屋はやけに広い。

広い部屋に謎いくらい大きな机がどかっと鎮座している。

謎だ。

初めて来たときもこの部屋だったけど、来客用なのかな。

机と椅子以外なんもないけどね。

ま、私はあんまり気にしないからその辺は置いておこう。

「ども、失礼します」

「おう、で、急に何の用だ」

早いな。

もっと色々あるでしょ、こう、世間話?とか、さ。

いや、ないけど、ね。

私も私で今朝いきなり連絡を取って、空いてる時間ないかーって押しかけてるから強くは言えない。

そもそも魔石による連絡の、その連絡先を知っているあたり、

いつ交換したっけ?

と思わなくもなかったけどそこも気にしない。

ここは本題に入ってしまおう。

「私の事で、相談があるので、とりあえず聞いてください」

「そうか、ま、座って話してくれ」

促されるので遠慮なく座ってしまう。

ワンくんも横に三つくらい空けて座る。

横並びになれば顔を見なくて済む。

ワンくんなりの気遣いなんだろう。

何から何まで理解が早くてありがたい。

「この間、ナギの序列が16位になりました」

「そうか、よかったな」

「それで、その日から、私の状態がよくない、っていう話で」

「体調、じゃなく、状態って使ったのに意味は?」

「ある、詳しい症状で言えば、意識が保てない時間が長くなった、その前兆が以前より弱くて突然来る」

「意識……こないだの急にぶっ倒れるやつか」

「そう、それ、あれが起こりやすくなってる」

「記憶がないのと関係はあるのか?」

「わからない、ってのが現状かな、全くないとは思えないけど」

「だよな……それで?」

「二つ相談、一つはやっぱり、この症状について何か思い当たることはないかなって、もいっこは、これをナギとベルに話した方がいいのかなぁって」

なるべく率直に話を進める。

私にはかなり深刻な話だ。

思わずふざけてしまいたくなるくらいに深刻な。

そんな私の空気を読み取っているのか、ワンくんの方も無駄口を叩いてこない。

あとは、私の抱える、もっと深い闇がありそうみたいなぼんやりした話も今はやめておく。

心が何か黒いものに侵食されている感覚がある、だなんて話、伝わる気がしないし、ちゃんと伝えられる自信もない。

だから最低限のことを相談できればいいだろう、ね。

「まずは一つ目だが、正直わからないな、急に意識が無くなるなんて話聞いたことがない、セレスにも治せなかったってのがヒントになる気はするが」

「確かにそうだね」

もちろんセレスに私の体を見てもらったことはある。

ひょっとすると、と期待もしていたけれど、何も変化がなかった。

しかし、あのセレスに治せないものなど普通はない。

セレスの能力は元の状態に還す力なのだから。

それってつまり、この問題が、元の私にも存在していたのではないかって。

あるいは、この状態こそが、今の私のあるべき姿なのではないかって。

そう言われた気がした。

「二つ目は、知らん、自分で考えろ」

あ、怒られた。

そりゃそうか。

「つーか言わなくてもすぐばれんだろ、むしろもうばれてるだろ」

「それはそうかもだけど、ほら、なんか、あるじゃん」

「ねぇよ、少なくとも俺には関係ねぇ」

「そんなこと言わずにさー」

「なんだよ馴れ馴れしくすんな、ほれもう帰れ俺は俺で仕事があんだよ」

「待ってじゃあ、一つだけ」

本当に立ち上がってどっか行こうとするワンくんの正面に立って進路を邪魔する。

これだけは聞いておきたい。

切実に。

「そ、その、ナギとベル、は、ちゃんと私の事受け入れてくれると、思う……?」

さきほどとはニュアンスを変えたその言葉。

自信がないんだ。

私には。

今の私には、二人(二柱だ)がとっても大事だから。

だからこそ、二人が離れて行ってしまうことが怖い。

信じているけど、信じた分だけ恐怖は増すんだ。

不安定な気持ちをどうにも制御しきれない。

その私の内心を感じてか否か、ワンくんはこんな言葉を投げつけた。

「その気持ちをそのままぶつけてやれよ、俺なんかに最初に相談すんな、家族が泣くぞ」

暗に。

問題ないに決まってる、って。

そんな言葉が含まれていた。

そんなの、わかってるもん。

ナギとベルなら、大丈夫だって、知ってるもん。

知ってて悩んでるのに。

そんなことを一瞬思って、でも。

やっぱり私の問題か、と納得もした。

そうか。

私の気持ち次第か。

でも怖いなぁ。

わかってるけど不安だなぁ。

「まぁ、話を聞くだけなら聞いてやるが、相談はすんな、俺には何も答えられない」

「なにそれ、話聞いてくれたらそれはもう相談だよ」

「違うっての」

「やっぱりワンくんに相談してよかったよ、ありがとう」

「そうかよ」

ワンくんはいつもそうなのだろう。

自分に正直で。

私相手にも正直で。

嘘をつかない。

自分の正義が揺るがない。

真っ直ぐ生きていける強さを持っている。

でも。

なら。

「ワンくんも、悩みがあったら私に話してくれていいんだよ?」

と、また無意識に声をかけてしまっていた。

あー、やっちまったー。

何を上から物を言ってるんだ私は。

今の今まで悟らされてたくせに。

恥ずかしい恥ずかしい。

顔を隠してそっぽを向いてしまう。

どうしよう穴があったら入りたい。

ツナガレで地面って掘れないかしら。

とか思ってあたふたしていたら、ワンくんが一言、

「そうだな」

なんて、小さな小さな声で言うもんだから。

私は続けてしまった。

質問を。

「悩み、あるの?」

知りたいって思ったから。

なんでか、気になったから。

今度は、意図的にだ。

「何か、後悔があるんだね?」

ワンくんが常にない険しい表情を浮かべる。

わかるよ。

それくらい。

そんな顔してるもの。

でさ。

それって。

やっぱり。

「神になった時の、こと、だよね?」

「それ、は……」

なに。

何があったの。

ワンくんが、神様になったときに。

恋人の女の子に願われたときに。

戦争の最中に。

一体何が。

「知りたい、私」

全部、聞きたい。

全部、知りたい。

全部、解りたい。

全部。

教えて――。


「ギルドマスター、そろそろお時間です」

「おぉうっ!?」

「ほぇあっ!?」

「……なんです、そのふざけた声は」

「あ、いや、すぐ行く」

「はい、お客様との歓談中失礼致しました」

「いやぁ、確かに、ノックは必要だろノック」

「はぁ、数回しても返事がございませんでしたので」

「そ、そうか?」

「はい」

「あ、あははーお仕事なら仕方ないね、また来るよワンくん」

「お、おぉ、そうだなー」

と、私たちの会話は部屋に入ってきた女性に邪魔された。

いや、邪魔っていうか、たぶんギルドの人だろうけど。

仕事って言ってたし。

……。

あれ、でもワンくんに直接伝達に来るだなんてこの人は誰なんだろ。

と、眼鏡とスーツに身を包んだすらっと背の高い女性に目をやると、それにすぐ気づいたらしい女性がぺこりと一礼してきた。

私もなんとなくお辞儀しかえしてしまう。

「失礼しました、ギルドマスターの秘書を務めております、ユヘィアと申します」

「あ、鈴鳴繋、です」

なるほど秘書か。

確かにそれっぽい感じは出てる。

すごく綺麗な人だし。

ううむ。

先ほどの流れを思い出して少しだけ頭が痛くなる。

どこまで聞かれてたんだろうなぁ。

やっぱり恥かしい。

もう帰ろう。

そう思って部屋を出ようとし、まさに出る寸前で思い出した。

ワンくんに渡しておいて欲しいと言われてる物があったんだった。

気恥ずかしさをなんとか深呼吸で落ち着かせて、ゆっくり噛まないように喋る。

「そうだ、これ、友人からワンくんに渡してほしいって頼まれてて、魔石」

空気を確認するように話しながら、リアンから預かった魔石を小さなバッグから取り出す。

「なんか、申請書?とか言ってたかな」

「あぁ、では私が」

すぐに部屋の入口にいたユヘィアさんが私の方に来て、受け取ってくれた。

「今確認してみましょうか……ふむふむ」

なにやら魔石を見て頷くユヘィアさん。

私には角度的にユヘィアさんが何を見ているのかわからない。

たぶんずっとそっぽ向いてるワンくんにもわからないだろう。

少しするとユヘィアさんが優しく笑みを浮かべて頷いた。

「えぇ、いいでしょう」

「へ、何がですか?」

「受領します、アンダーワールド内にある川までの行き帰り、その護衛ですね」

「アンダーワールド?リアンが?」

なんでまたアンダーワールドなんて危ない場所に。

「彼女小麦を作ってるパン屋の娘さんでしょう?時折こうしてアンダーワールドの川に水を汲みに行くのよ」

「わざわざアンダーワールドに?」

「なんでもすごく澄んだ水が汲める場所があるらしくてね、でもアンダーワールドだからこうして護衛を依頼に来るの」

「へぇ」

そうだったのか。

全然知らなかった。

まぁ小麦の話なんてしないからなぁ。

「それで、今回はあなたも付いて行くらしいわよ、繋さん?」

「へっ?聞いてないよ?」

「でしょうね、でもほら、繋さんとナギさんとベルさんも一緒に依頼人の中に」

そう言って魔石に浮かぶ文字列を私に見えるように傾けるユヘィアさん。

確かにそこ書かれた依頼人の中に私たちの名前が入っている。

どれどれ。


『依頼書

 ギルド『ルール』へ

 

 依頼主

 リアン(H)、鈴鳴繋(H)、ナギ(G)、ベル(G)


 依頼内容

 護衛(本日)


 領域

 アンダーワールド


 場所

 マーシーの西南の方角にある山川

 

 目的

 水を汲むため


 備考

 依頼主の両親が営むパン屋用に栽培する小麦を育てるのに必要

 時間は要相談

 可能ならギルドリーダー殿に願いたい

 強さは下程度で十分と予想

 』


ほほう。

たぶん名前の後ろの(H)はHuman、(G)はGodだろう。

あとは場所とかかぁ。

護衛の強さも下でいいならそれほど凶悪なモンスターは出ないということなのだろう。

って、んん!?

『可能ならギルドリーダー殿に願いたい』!!??

ギルドリーダーって、ワンくん!?

いや何してんのリアンちゃん!?

そんな弱くてもいい場に来ないよ!!

普通来ないよワンくんそんなところに!!

我儘もいいところだよ!!

こんなの人づてに渡そうとしたの!?

やめてよ私の評価が下がったらどうするのさ!!

とユヘィアさんが崩さない笑顔でワンくんに話しかける。

「もう、これで通しますので、お願いします」

「「え!!??」」

期せずして声が重なる。

通しちゃうんだ!?

これで!?

「お、おいおいユヘィア俺には色々仕事が」

「いえ、いい機会ですのでたまには羽根を伸ばしてきてください」

「は?羽根?」

私にもわからない。

護衛に行くのに羽根を伸ばすってどういうことなんだろ。

ユヘィアさんが私たちの疑問を、あぁそんなこと、と軽く答える。


「ここほとんどモンスターが出ないから水汲みついでに川で水遊びすることが多いのよ」


「それワンくんが護衛するの!?」

「それ俺が護衛すんのかよ!?」

「わかった?」

「「は……はい」」

二人しての反対を、たった一言で無惨に切り捨てるユヘィアさん。

なにこの脅し。

笑顔が怖いよう……。

向こうが一方的に間違っているはずなのになぜか何も言えない。

「リアン、はめたなぁ?」

仕方ないので、私は目の前の秘書ではなく、今頃授業を受けているパン屋の看板娘を呪うことにした。


ついでに。

水着を用意しなくちゃいけなくなった。

…………。

今すぐ買いに行かなきゃ、ね。

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