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NAGI ―神様と共に私を見つけるまで―  作者: 安藤真司
私編 3 ―end my order ?―
24/72

私が町と冥界と不可侵域を定義するまで

この世界は大きくは三つの町によって構成されている。

というか冷静に考えて、その程度の範囲内でしか生命が息づいていない。

相当に狭い範囲で、相当に少ない生命しかいない。

なんでそれしか世界を知らなくて、「狭い」「少ない」と言えるのかは後に回すとして。

三つの町。

それらは遠すぎず、しかし干渉することのないほどには離れて存在している。

基本、町と言えばギルドと同義だ。

序列1位、支配の神ルルシアが統括する町。

序列2位(元3位)、個体の神ザ・ワンが統括する町。

序列3位(元4位)、慈愛の神セレスが統括する町。

その三つ、だ。

かつて神様序列2位だった進化の神ジャンベルは自身への吸収、融合、進化を繰り返していたためギルドというものを作らなかった。

また、現序列4位の次元の神グォールもまた、時空間を操れるためか、気ままな性格故か、ギルドを作っていない。

その他上位序列を担う神々は言う。

既に町はその三柱によるもので十分であり、それらを乗っ取ることは難しい。

と。

また、新たに町を作る余裕は、この世界にはない。

とも。

そのため上位序列の中で町そのものの運営を担っているギルドは大きくこの三つということだ。

大きく、とは、小さな範囲でそれを行っているギルドもなくはない、ということで。

自分たちのルールが通用する隔絶された町を作っているギルドも、あるにはある。

しかし結局そこに人が集まることは稀なので、そういったギルドを率いる神は序列が低い。

上位を狙うとなれば、町の中で、どのようなギルドを作るか、が鍵なのだろう。

それは今はいい。

大きな町、には名前はない。

ギルドの名前を言えば伝わるためだろうか。


支配の神ルルシアはその力で持って、町のルールを支配下においている。

その原則は『商いの弱肉強食』。

この町ではいくらでも自由に店を出していい。

どんな手段を使っても基本は構わない。

禁止されているのは唯一、暴力等による脅迫のみ。

それ以外であれば、例えば巧みな話術で相手を騙すことは許されている。

曰く、騙される側が騙す側よりも弱かっただけ、ということらしい。

このわかりやすくも戦略性に富んだ商業の町で一儲けしようという者は多い。

その中には無論神も含まれる。

なお、ルルシアが率いるギルド『オール』は、文字通り何かに特化したギルドではなく、どんなタイプの生命でも広く受け入れている総合ギルドだ。

ハンターも経営者も研究者もいる、多様なギルドを目指しているらしい。

個体の神ザ・ワンは警護ギルドの本拠地を構えている。

そのため、彼が管理する町は、世界で最も安全な場所と呼ばれている。

弱小モンスターに襲われればひとたまりもない一般人には住みやすい場だ。

常に警護ギルド『ルール』の面々が町の周辺を見回ってくれているし、何か起きた時にこの『ルール』に連絡するシステムが整っている。

『ルール』に連絡を取ることが出来る魔石を町の各所に設置してあるのだ。

町民同士の助け合いも比較的多く、互いに思いやりを持てる町といえる。

慈愛の神セレスは医療ギルド『マーシー』を統率している。

こちらも警護ギルド同様、とにかく怪我や病気を治療してもらえるのだ、一般人にはありがたい。

ただ、一つ違いがあるとすれば、一般人よりも大きな怪我を負うことの多いハンターがどうしても優先的に扱われるため、問題が生じている。

一般人とて、負傷したハンターを見殺しにする気はないのでそれ自体は大したことにはならないのだが。

自分たちが偉いと勘違いしたハンターが治療の順番等に文句をつける光景が日常的に見られるのだ。

それを快くなく思う者は多いため、そうした者は他の町に住むことが多いだろう。

しかし問題はあれど、唯一無二の医療ギルドが近くにあることで安心感を増すことは間違いない。

なお、私たちは今このセレスの仕切る町に家を建ている。

理由はやはり、ハンターとして活動をするのに最も適していたから、だけだ。


さて、それぞれの町を囲むように、あるいは町同士の間に点在するように中小ギルドがあることは言うまでもないのだが。

問題は、それら三つの町の外だ。

町の外は居住不可域、『UnderWorld』と呼ばれている。

この場合、アンダーワールド、とは文字通りの地下世界という意味ではなく、恐らくは冥界として使われているのだろう。

死者の彷徨う世界、という意味で。

簡潔に事実だけを述べるならばアンダーワールドにはモンスターが蔓延っている。

モンスターが住みやすい環境が広がっている。

例えば足元の掬われる雪山もやけに深い森林も終わりの見えない砂漠も、全てはこのアンダーワールドに位置している。

つまり神、および神擬き、人が文化的な生活を送ることが困難である領域なのだ。

この世界ではモンスターのいるアンダーワールドでの死者が最も多い、とか。

普通ハンターはここでモンスターの狩りをしている。

ちなみに私が最初に目覚めたのもアンダーワールドに区分される場所だ。

ただ、アンダーワールドというのはあくまで町の外全体を表す言葉なので、やっぱり「雪山」とかくらい具体的に言ってあげる方が多い。

それで、だ。

アンダーワールドは、アンダーワールド自体はさほど問題じゃない。

問題じゃない、っていうのは、ね。

このアンダーワールドは、あくまで『居住不可域』なのだ。

住むことが出来ない、領域。

つまり、住むことは難しくても立ち入ってモンスターを狩ることは出来る、そんな領域を指している。

そう、ここで先ほどの話に繋がるのだけど。

私たちの住む世界は狭い。

何故なら、私たちの住む町を囲むように存在する『アンダーワールド』、さらにその先には全く様相を異とする世界がある。


不可侵域。

『Taboo』。


その世界には、立ち入ることすら許されない。

アンダーワールドを知らず知らずに進んでいくと、空気が急に変わる瞬間が訪れるらしい。

そのことを即座に理解できた者は迷うことなく背を向けて走り去る。

そのことを理解できない者、あるいは理解そのものに時間がかかった者を襲うのは平等に死である。

きちんと相見えて生還した例がほとんどないため謎に包まれてはいるが、一説には神をも超える何かがそこには存在しているようだ。

きっと上位の神であればそれを調査することもできるのかもしれないが、あえて危険を冒してまでタブーに踏み入ろうとする神はいない。

自分がタブーに行く時点で、自身のギルドを放置することになり、他の神から狙われやすくなる上に、相手が何者ともわからない。

そんなハイリスクローリターンに挑もうなどと、誰も考えやしないのだ。

さらに言えば、タブーの存在は不安感こそ煽るものの、こちらから踏み入れなければ何も起きない。

過去にタブーから何かが襲ってきたなどという事例は見られない。

あくまでこちらがタブーに入った時に襲われる。

そのため、厳重に行かないようにこの世界では言われているし、そもそも手練れのハンターでないとアンダーワールドとタブーの境目に届くわけもない。

結果、被害そのものはそう多くはないのだ。

そのため、死亡率自体はアンダーワールドの方が高い。

身の丈に合ったモンスターと安全マージンをとって戦っていけばタブーに行くことなど、ないのだ。

誰だって、タブーになんか行きたくはない。


とにかくこんな理由で、私たちの世界は広いようで狭い。

そんな世界に住んでいるのだ。

わかったかい。



「はい、パンを四つ、お待たせしました」

「ん、どもども」

「今日は繋ちゃん一人なの?」

「うん、一人の用事があってね」

「へぇ、珍しいね、聞いてもいい?」

「うん、ただ『ルール』に行くだけだよ」

「なんでまた『ルール』?」

「そこのリーダーさんにちょいと相談が、ね」

「あれ、ザ・ワンさんと知り合いだったの?」

「まぁ、いつだか共闘したことがあるってだけ」

「そっかぁ」

「あ、はいこれ今日の分の材料」

「うん、いつもお世話になってます」

「こちらこそ」


私はパンを二つだけ入れた袋を二つ受け取る。

中身は全くおんなじ二種類だ。

もちろんこれから向かう場所への差し入れだ。

代わりに私はお肉や山菜、魔石の欠片等を渡す。

相手はカウンター越しに丁寧に受け取ってくれた。

少し薄い橙色のエプロンに白い三角巾がやけに似合っているやや背の高い女の子。

後ろで一つに結んだ瑠璃色の髪が絶妙なカーブを描いている。

また、髪と同じく深い瑠璃色の瞳が清楚な印象を全体に与えている。

しかし清楚な印象とは対称的な思い切りのいい笑顔が時折覗くその様は、パン屋の看板娘としてこれ以上ないほどに見る者の心を奪っている。

彼女の名はリアン。

私たちの家から徒歩五分ほどの近場でパン屋『ベーカリーホーム』を夫婦で営んでいる、そこの長女。

たまに朝や夕方にこうしてお店を手伝っている。

パンの原料となる小麦を自分たちで栽培しており、私たちハンターからパンに挟む材料やパンをおいしく焼くための魔石の欠片等と物々交換をしている。

彼女のパン屋はパンそのものは自分たちで作っているためか、比較的安いうえにおいしい。

ついでにリアンがかわいい点も高評価。

私達はこの町に来てからというもの、ほとんど毎日ここのパンを朝の食事にしている。

それくらいに常連なのだ。

そんなわけで、すっかり互いに仲良くなっていて、リアンとも、もちろんリアンのお母さんにお父さんともよくお喋りをしている。

そのリアンは今十五歳。

生命指南施設のグレード九だ。


生命指南施設。

名前がだいぶ簡潔に施設の役割を説明してくれているけれど。

この世界で生きていくためのあれやこれやを教えてくれる教育機関だ。

この施設はこの世界に一つしか存在しておらず、三つの町の丁度中央部、ぎりぎりどの町にも属さない場所に建てられている。

世界の仕組み、神様、ギルド、物の価値、アンダーワールド、タブーなどなど。

その教える内容は多岐にわたっている。

この施設のトップは普通の人間らしいが、教える先生の中に神様も交じっているとのこと。

六歳から十六歳までの十年間、この施設に通うことを推奨されている。

実際、通わない者など1%もいないので推奨という言葉が正しいのかどうかはわからないが。

十年間の間に様々なことを学び、そして卒業するとこの世界ではその者を一端の大人として見るようになる。

そう、この世界での人は16歳から全員大人と見なされる。

結婚ができるようになる。

酒が飲めるようになる。

自分の仕事を始められるようになる。

大体は親の仕事を継ぐことになるが、中には他の神と共に道を歩むような者もいるらしい。

とにかく十年間、この施設で様々なことを学んでいるわけなのだ。


「生命指南は今日はないの?」

「あはは、もう少しだけ手伝ったらもちろん行くよ」

「そかそか、じゃあまた明日ね」

私の買い物は終わったのでささっと挨拶だけ交わして次の人に譲ろうと思うと、リアンに止められた。

「あ、そうだ『ルール』に行くなら、これ、渡してきてもらえない?」

と言って、小さな魔石を渡された。

なんだろ。

「メッセージ、というか、申請書が入っているからこれをザ・ワンさんに渡して貰えると嬉しいな」

そんなのがあるのか。

いや、メッセージを飛ばせる魔石の存在はそりゃ知ってたけど、ね。

それをワンくんに渡すなんて珍しい。

まぁ、そのくらいは余裕で頼まれようか。

「わかった、渡しておくね」

「ありがと、一応渡せたら帰りに家少し寄ってきてよ」

「おっけーい」

魔石は魔石で袋にいれてしまう。

ワンくんに渡す方の袋だ。

手を振ってリアンと別れる。

リアンはすぐさま私の後ろに並んでいた客の対応に移る。

というか私が喋りすぎたな。

申し訳ないことをした。

どうにも人が少ない時と同じように話してしまう。

私も気をつけなきゃ。

何故かすごーく小さな声で、

「よっし」

ってリアンが言っていたような気がするけど、気のせいかな。

かな?

僅かに疑問を残しつつも、ワンくんの住む町を。

ワンくんの住むギルドを目指して、私は歩く。


「さて、なんだかドキドキするなぁ……」


いざ行かん、ワンくんの待つ警護ギルドへ。

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