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NAGI ―神様と共に私を見つけるまで―  作者: 安藤真司
断編一
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断編一

陽が昇るまで、まだ小時間を要するような早朝。

二つの人影が示し合わせたかのように一定の距離を空けて町の広場に佇む。

広場の中央にはまだ早朝ということで稼働していない噴水が設置されており、世界が動き出していない様を物語っている。

佇む二人の距離はその噴水をはっきりと挟んでさらに数歩離れた位置だ。

恐らく普通の会話が可能なぎりぎりの距離のはずだが、互いにそれ以上近づきはしない。

他に人影が見えないことを確認したのか、片方が話を簡潔に切り出す。


「どういうつもりだよ」

「なんのことかしらぁ?」

「お前、神の宴の本当の目的、全部知ってて動いてただろ」

「へぇ、どうしてそう思うのかしら?」

「まずはあいつを尾行してる時点で怪しいし、あいつに幾つか誘導するようなことも言ってたみだいだな?」

「誘導、なんのことかしら」

「薄倖の神が危ないなんてどの口が言ってんだよ」

「あらあら、本当に私がそう思っただけなのだけどぉ」

「とぼけやがって」

「あなたこそ人の事言えないんじゃないの?」

「はぁ?何がだ」

「あなたこそ、どうして見ず知らずの女の子に執心しているのかしらね」

「そんなこと」

「あるわよね?」

「…………」

「無反応は何よりも肯定を体現しているわよ、不器用な神様?」

「……お前、どこまで」

「記憶喪失の、不思議な力を操れる、女の子、どこかで聞いたことあるわね」

「お前な!」

「私がどう動こうと私の勝手よ、あなたがどう動こうとあなたの勝手なのと同じにね」

「あぁ、そうだな、俺たちは、神だからな」

「えぇ、誰かの願いを叶える段階なんてとうの昔に終わっているのよ、それこそベルが終わった時点でね」

「それでもまた、世界を乱すようなことをしでかそうってんなら、俺が止めるからな」

「ふふ、楽しみにしてるわ」

「企んでることは否定しろよ」

「やーね、何もしないわよ、それに、私なんかよりも注意すべき相手が沢山いるわよ?」

「他の、神か」

「そうそう、あなたここに来て序列が2位になったんでしょう?」

「お前だって序列3位になっただろうが」

「もちろん、私もしばらくは表になるべく出ないようにしておくわよ」

「そうするのがいいだろうな、序列2位でも下落する、そう考えた神が今後多く出てくるかもしれない」

「まぁねぇ、本当は色々とやりたいこともあるのだけど」

「俺はでも、どうせそういう奴らを止める側だからな」

「ふふ、ちゃんと目を離さないようにしてなさい」

「は?」

「守る気があるなら、あの子から目を離しちゃ駄目よ」

「……別に、守る気なんざ」

「それならそれでもいいけどねぇ、普通の助言に対してくらい素直になったらいいのに」

「……お前こそ、随分と気に入ってるみたいだな、あの子達、じゃなく、あの子を守れだなんてよ」

「あらぁ、言葉の綾よぉ」

「やっぱ何か気づいてんだな?あいつの正体に」

「勘のいい男の子はお姉さん好きじゃないわよぉ?」

「ふん、乗ってやるよ口車に」

「ならいいのよ、乗っておきなさい」

「やっぱり俺はお前が嫌いだ」

「奇遇ね、私もあなたが嫌い」


たった三分強。

それだけの会話をして二人は離れていく。

不思議と二人の会話が終わると同時に、噴水が水をまき散らした。

陽が昇る。

いつも通り。

変わらず。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



とあるギルド内部。

その幹部達が一室に介していた。

ギルドの長から集まるよう命じられたらしい。

その数十人、否、六人と一体と三柱。

つまり、人が六人、神擬きが一体、神が三柱である。

人については女性が一人に男性が五人、その全員が正装を纏っている。

唯一見た目が人為らざるものである神擬きは、まず体が人の倍ほどもあり、それでいて二足歩行をきっちりとしている。

頭は獅子でありながら、背中には先の尖った鋭い羽根が生えている。

手足はどうやら人と同形の造りらしく、五指のようだ。

人々は彼のことを『合成獣キメラ』と呼ぶ。

彼に言わせれば、本物のキメラはこんな生温い性格をしていないし、そもそも合成要素が自分にはほぼない、とのことだ。

また三柱に関しては、もはや外観では完全に人の男と変わりがない。

しかし。

彼らを見て神であると気づけない者はそうはいないだろう。

それほどまでに、彼らは神としての格を持っていた。

序列9位、擬態の神、ニスク。

序列8位、記録の神、チノーイ。

序列6位、大空の神、ソラ。

その三柱全てが神様序列一桁台である。

神様序列一桁台が同じ場に三柱も集まることなどこれもまたそう多くはない。

しかし、そのこと自体よりも驚くべきことは。

この三柱があくまで幹部であるということだ。

言い換えれば。

神様序列一桁の上位神すらを傘下に置くこのギルドとは――。

幹部は皆、緊張の面持ちで椅子に腰かけている。

それもそのはず、長から直々に声を掛けられることなど滅多にないからだ。

記憶では、幹部全員が収集されるのは十年振りくらいではなかろうか。

その時は今後のギルドの方針を再度伝えられ、後は幹部たちに運営を任せる、という簡素なものであったが。

この度は一体どのような案件なのか。

楕円形に並んだテーブルの上手に一席空きがある。

無論ギルドの長が座るべき席だ。

未だ長はいないというのに、幹部は誰も互いに話したりふざけた態度をとる素振りを見せない。

いつ長が現れるかわからないからである。

その正しい姿を確認していたかのようなタイミングで、急に空いていた席にどすっと音が鳴る。

幹部たちはそれを逃さない。

一斉に立ち上がる。

「お疲れ様でございます、幹部一同、ここに」

「あぁ、よい、座れ」

「はっ」

幹部全員で応える、ということはしていない。

代表として序列6位のソラのみが返事をしている。

そのことはこの場では当たり前らしい。

「よく集まったな、我が部下よ」

長はゆっくりと、しかし重みや厚みを感じさせる声で語りかける。

この場にいる全ての生命が、彼の一言一句を聞き逃すまいとする。

「進化の神がやられたらしい、これでまた序列5位までが変動したとみえる」

長の格好は上下派手な赤色に統一されており、その髪すらも燃えるような真紅に染まっている。

だが座っていながら、纏うオーラはこの場にいる他の三柱を遥かに凌ぐ。

「誰にやられたのか、知っている者はいるか?」

これには、チノーイが間髪入れずに返答する。

「直接的には序列3位が……しかし裏で序列4位が関わっていると」

「足りんな、記録の神をしてそれでは困るぞ、チノーイ」

「と、言いますと?」

「関わったのはもう二柱、かつての序列1位薄倖の神、それに序列19位の収縮の神とやら、こっちは無名だな」

少しだけ幹部側に驚きの声が上がる。

記録の神はその名の通りこの世界の事象を記録することのできる神である。

そのチノーイよりも詳しい情報を長が知っている事にはもう幹部は誰も微塵も驚かない。

しかし、関わったのが薄倖の神となれば話は別だ。

「それは、かつての事件のような運びに……?」

かつての事件、ベルの事を知る者ならば、誰しもが危惧する事案だ。

しかし、それには首を振る。

「いや、問題なく最下位のままだったようだぞ」

安堵の空気が流れる。

「それよりもだ、もう一人、いや、もう一柱、我々にとって最も大事な神が関わっている」

「我々にとって、ですか?」

長の含みのある言い方に、幹部たちは首を傾げる。

否、首を傾げる振りをする。

この長は常にそうなのだ。

遠まわしに話を進めて、こちらの反応を伺って楽しんでいる。

質問をしているかのように話すが、実の所、こちらの正解など望んではいない。

振りだけで十分に満足する。

そこまで自分を知って、その反応をしている事実に長は笑い、すぐに答えを言う。

「名は鈴鳴繋と言うそうだ……繋縛の神を名乗っているそうだが……」

そこで一つの間を挟み。

「探していた神だ」

その言葉に、おお、と今度は感嘆が走る。

「ではついに、始まるのですね」


「あぁ、この先の世界に『序列』は必要ない」


そう言って、ギルドの長、支配の神ルルシアは笑みを見せた。

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