私が神様と出会うまで
心身を照りつける太陽。
進行を阻害する砂に、道とも呼べないような地面。
一寸先すら靄がかかったように隠してしまう樹木。
なんだ、全然前に進まない。
自分がどこにいるのかもよくわからないので前に進むしかないんだけど、ね。
ただ、いつ食料が尽きてしまうかもわからない、
水も同様にいつ無くなるかわからない、
人がいるのかもわからない、
わからなすぎて何が知りたいのかもよくわからない。
自分のこともわからない私に他のことをわかれという考えの方がわからない。
しかしながらこんな砂漠やらジャングルやらが交互に出現する謎の世界観に放り出されて、ね。
不安を募らせないほど私は異常者ではない。
と、思いたい。
それでもなんとか余裕を持っていられるのは、ね。
「グヒグヒィッ!!」
あ、また来た。
そうそう、この辺は野生生物が住むにはなかなか良いところらしい。
こうして三歩歩けば(誇張だ)美味そうな肉塊が私目掛けてダイブしてくる。
このおかげでギリギリ食料の危機を忘れていられる。
今回もやって来たのは少し小振りな四足歩行の毛皮の厚い獣タイプ。
ちょっと角とか牙とかを削ぎ落とすのが面倒かな。
でもそれを除けば身がつまっていてすごくおいしい。
口の中ですぐに蕩ける柔らかさ。
そのまま焼いて食べて十二分においしいけれど、すこしコツがある。
こう、まっすぐ私に突進してくる時に、思い切りよく。
私に噛みつこうと口を開けた一瞬を見逃してはいけない。
その瞬間私は後ろ手に隠し持っていた木の棒を削って作成した槍を喉に突き刺す。
これを如何に的確なポイントに刺すことができるかどうかが鍵。
「グヒュッ!?ヒュー……」
うん、この鳴き声は成功の証。
槍から臙脂色の血が滴る。
ごめんね。
私のために無惨にしちゃって。
せめておいしく食べるからね。
南無三。
……。
南無三ってなんだっけ。
いつもご飯を調達するときについ言っちゃうんだけど。
どういう意味なのかしら。
暫く苦しむ小さな獣さんを突き刺した槍ごと持ち上げ、近くに即席で木をすべる。
位置的にはちょうど森林を抜けて湖のほとりみたいな場所。
木材を並べつつ、水があることに安堵する。
飲めるかどうかわかんないけど。
それはいいとして、先ほど捕まえたこちらのお肉。
これはお昼ご飯なのです。
せっせと小さな火を起こし、それを組んだ木材に移して十分な火力を得る。
どうせ毛皮はあとで剥くのでとりあえずポイっとまるごと焼いてしまう。
そのまま待つと徐々にいい香りがしてくる。
んー、いいね。
狩りに成功したときにはこの時点で良い匂いがしてくる。
これが失敗すると、こう、広がり方が足りないんだよね。
期せずして獣の狩りかたに精通しつつある自分を逞しく思いつつ。
ついでに自分の手で命を奪う尊さも学びつつ。
ではではいよいよさてさてと。
おいしそうに焼けているのを確認して、火を消そうとしたその時。
「わーっ!!助けてーっ!!」
と、そんな声がした。
目覚めてから動物と自分の声しか聞いていなかったから。
すぐにそれが自分以外の人の声だとはわからなかったけど。
これは、確かに。
人の声だ!
さっさと火を消して(きちんと水は用意しているのだ)しまう。
どこから聞こえたのだろう、すぐそこだったようだけど。
と、予想通りすぐに次の台詞が聞こえてきた。
「あ、そこのかわいらしいお嬢さん!」
しかも都合のいいことに私目掛けて走ってきているみたい。
かわいらしいだなんて。
まったく。
しょうがないなぁ。
ちょっとまだ自分の顔を見たことはないんだけれど、ね。
乗っかってしまおう。
かわいいと言われて喜ばない女の子はいないので。
ね。
声のする方向をしっかり見ると、確かに誰かが私の方に来ている。
私からもちょいと声をかけてみる。
「あのー、ここです!」
でも走ってくる音がなんだか大きい。
そもそも普通足音って響かないよねここ。
こんなドスドス。
なんだか良くない空気が流れてきた気がする。
その考えに至ったと同時に走ってくる人から予想通りの返事が返ってきた。
「にーげーてーっ!!」
「やっぱりなんかに追われてたかー」
はぁ、とため息をつく。
もう、せっかく人に会えたと思ったらトラブルかい。
ぐんぐんと近づく足音。
見ればもう走ってきている人の顔が少しはっきりと見えるくらいには近づいている。
あらあら。
あちらさんもかわいらしいお嬢さんではありませんか。
これはもう助けるしかないね。
幸い、後ろを追っかけてきてるモンスターは今しがた私が食べようとしていた獣さんの倍程度のサイズだ。
人からしたら十分大きいけど。
倒せないほどじゃない。
ただ。
さすがに木の棒程度で倒すのは骨が折れそうなので、私はふぅと息を吐いて集中する。
全神経を走ってくる獣の近くにある木々に注ぐ。
一向に逃げようとしない私に向かって女の子が何か懸命に叫んでいるけれど、とりあえずは気にしない。
集中。
そうそう。
私には一個だけ特技がある。
特技というか。
なんだろ。
必殺技かな。
こうやって集中しているときだけ出せる必殺技。
狙いを定めたポイントを女の子が通過したその時に、私は開放する。
名付けて。
「ツナガレ」
その一言を言い終えると同時にぴたっと騒音が止む。
よし。
ちゃんと私のイメージ通りに繋がっている。
急に襲われた時のために事前に準備しておいてよかった。
それで、っと。
4足ながら前につんのめる様に体勢を崩している獣さんがまた動き出す前に仕掛けてしまおう。
私が獣さんに向けて走ると女の子とすぐにすれ違った。
女の子は今の今まで自分を追っていたモンスターが急に動きを止めたことに驚いているみたい。
ポカーンとした顔で私のことをみている。
その説明はあとあと。
さっさと近づいて獣さんの顔に一度触れる。
これでおーけー。
もう一度意識を二点に集中させる。
獣さんの額と、すぐ近くに生えているやや大きめの木の根元。
二つを強く思い浮かべ、そして、もう一度繰り出す。
「ツナガレ」
瞬間、光の束のようなものが思い浮かべた二つのものを繋げていく。
そして、繋がったと同時に、固定する。
位置関係を。
これでもうしばらく獣さんは動くことはできないだろう。 これこそ私の必殺技。
ツナガレ。
名前の由来は言わずもがな。
ツナガレって念じたら二つが繋がるからツナガレ。
しかも繋がったルート上には、光の線の束が張り巡らされ、その領域を完全に遮断してしまう特典付き。
さっきは走ってくる獣さんの通り道の両端に位置していた木と木を繋ぎ、道を光の束という壁で塞いだのだ。
我ながら良い作戦だ。
まぁただし、繋げられるものには条件があって、どうやら予め繋げるつもりで触れたものしか繋ぐことはできないらしい。
それに結構前の日に触れたものなんかも繋げられない。
でも、一度繋いでしまえば5分くらいは繋がったままになる。
もちろん私の意思で解除することもできるみたい。
この必殺技が使えることを知ってからというもの。
ずいぶん食料調達が楽になったかな。
って。
いけないいけない。
それよりこの獣さんを早くお肉にしないと。
頭全体を固定された獣さんに為す術などあるはずもなく、それはすぐさまおいしいお肉へと変貌した。
でもさすがに大きかったので上手に狩ることができず、ちょっと大成功とは言えなさそうだ。
残念。
ようし、とりあえずお食事の続き(というか始まっていなかったけど)だ。
と、さっきまで焼いていたお肉を食べようと振り返ったところで女の子の存在を思い出した。
あ、そうじゃんせっかく人に会えたのでした。
んー。
女の子の方はいまだになんかポーッとしているみたいだし。
ご飯に誘ってみようかな。
「一緒にお肉、どう?」
女の子は「へっ?あっ」とかあたふたしてから、それでもまだ疑問符が消えないような顔で頷いたのでした。
かわいい。
さっき一度火は消してしまったけれど、たぶん十分さっきのお肉は仕上がっているはずなので、もうお肉解体作業に取り掛かる。
少し厚い毛皮を慣れてきた手つきで剥がし、そのままシートというかお皿代わりに地面に敷く。
食べれる部分をしっかり刃物で裂き、その毛皮の上に並べる。
いい感じ。
「ささ、とりあえずどうぞ」
「う、うん、うーん?」
「いただきます」
「えっ、ええと、はい、いただきます」
私が食べないと向こうも食べづらそうだし、ね。
さっさと食べてしまおう。
あ、おいしい。
ちらっと反応を見ると女の子もいい表情してる。
よかったよかった。
「こんな形で食べるの初めてだけど、おいしい!」
「そっか、よかった」
私もそうだけど、疲れていたみたいなのでものすごい勢いでお肉を食し、あっという間に食べきってしまった。
「ふぅ、ごちそうさまでした」
「いえいえ、ごちそうさまでした」
「あの、さっきは助けてくれてありがとう、ええと」
あ、名前か。
「私、鈴鳴繋、よろしく」
「つなぎ?つなぎって言うの?」
「え、うん」
「珍しいこともあるもんだね!」
女の子が私の名前を聞いたらぱぁっと輝く笑顔になった。
どうしよう。
すごくかわいい。
「ボクはナギって言うんだ!だから、よく似てる名前だなって!」
ほほう。
一人称がボクだなんてどうしよう。
すごくかわいい。
この、ナギと名乗った女の子は確かに、
ペリドットのような鮮やかなオリーブグリーン色(この綺麗な色を黄緑色と表現したくないのよ)の髪を少し短めに揃え。
やたらとポケットの多い七分丈のズボンに同じくポケットの多いパーカーを羽織っている。
それでも少年と見間違えるほどではなく、遠目でもまぁ女の子とわかるくらいには髪も長いのかな。
ちなみに胸は私よりゲフンゲフン。
とにかく、私も私で聞きたいこと、というか相談がたくさんあるんだ。
「よろしくね、ナギ」
「うん、よろしくツナギ」
「それでね、結構聞きたいことがたくさんあるんだけど」
「あ、ボクも結構あるんだけど、ならツナギからどうぞ」
「うん、ありがとう、でもどこから話したもんかな……まず人に会えたのも初めてなもので」
「あー、一応これでもボク神様なんだけどね」
「へ、神様?」
「うん、そうなんだ」
えへへーっとはにかむナギがかわいいけれどそれはさておき。
神様、って、あの。
なんだろ。
私のない記憶でも神様がいないことくらい知ってる。
いや、いるいないはどっちでもいいんだけど、少なくともこんなかわいい女の子の姿で存在はしていないはず。
しかもこんなピンポイントで出会わないでしょ。
あとそんな凶悪でもないモンスターに追われて逃げる全知全能とかないない。
冗談かな。
それとも。
「えっと、神様って、本当に?」
「そうは見えないって、ボクも思うけどね」
「この世界をお創りになられた祝福を与えてくれるGOD系なの?」
「うん?なんだって?」
「っていうか神様って女の子だったの?」
「え、ツナギ何言ってるの?」
あーやっぱり噛みあってないな。
じゃあ私が何か忘れているのかな。
どの道私のことを話してもっと人のいるところまで案内とかお願いしようかなって思っていたし、先に話してしまおうか。
「ごめん、実は私ね、記憶が全然なくって、ついこの間からのことしか覚えてないんだ」
そこからざっくりと。
私が記憶喪失であること。
自分の事に加えて唯一持っていた手紙に出てくる『私』と『彼』の事を知りたいということ。
その手紙から名前をとったということ。
ナギがかわいいということ。
記憶のない私の彼女になってくれないかということ。
むしろ彼氏になってくれてもいいということ。
私とナギが愛を育むのに神様とは如何なる存在なのか聞きたいということ。
その辺を話してみた。
「えぇ、いや、ボクそっちの気はないよ」
本気で引かれた!
「でも記憶がないなら確かに何がなんだかわからないかもね」
おお、たぶん記憶喪失の説明って「私神様なんだ」と同じくらい信じがたい内容だと思うけど。
ナギはすぐに信じて何か考えてくれているみたい。
ありがたや。
「でもそしたら、さっきファングの動きを止めたのはどうやったの?」
あぁ、あのお肉ファングって名前だったんだ。
「あれは私にもよくわからないんだけど、必殺技でね……」
こちらも説明を重ねる。
ナギは「ほへー」と気の抜けた返事を交えつつもちゃんと話を聞いてくれた。
「記憶喪失、必殺技ツナガレ、それに手紙、か」
「何か思い当たることでもあるの?」
「ううん、ないけど、ボクが思うにそれって……」
と何か思案顔を浮かべる。
なんだろ。
間を空けた後、何かが閃いたかのように手をポンと叩いてみせるナギ。
「なるほど、だからツナギはそんなぼろぼろの服にぼさぼさの髪だったのか」
そこかい。
「かわいいんだからちゃんと手入れしないとね」
それはほんとそう。
まったくまったくだよ。
っていうかなんか誤魔化されたかな。
何も浮かばなかったのかも。
「ま、助けてくれたお礼も兼ねて、ちょいとボクのことを説明しようか、はい手」
すっと手を差し出してきたのでなんの疑いもなく手を握る。
そのままナギはすぐ横の湖に体を向ける。
「さっきここに逃げてきたのは、この湖には大樹の一部が沈んでいるからなんだ」
「大樹?」
「うん、あそこ」
ナギが指差した方を見ると、確かに湖の底の方にぼんやりと不思議なオーラを放つ木が沈んでいる。
「あれが、なにか?」
「あれはね、アドバルンって呼ばれている大樹でね、これも行けばわかる、よ!」
「とっ、わっ!?」
ナギが私の手を引っぱって、そのまま湖にダイブした。
もちろん引っぱられた私も湖に吸い込まれていく。
が、ナギがそのアドバルンとかいう木に触れた瞬間、体から重力や水中感の一切が離れていく。
視界も一気に眩しくなり、思わず眩暈がする。
なんだなんだ。
何が起きたの?
ようやく体から浮遊感がなくなり、目を開けてみると先ほどまでの景色はそこにはなかった。
代わりに見えたのは地平線の彼方まで何も見えない草原と、目の前にそびえ立つ、先が見えないほど大きな木であった。
これは大きい。
さっき言ってた大樹、アドバルン、だっけ。
これがそうなのかな。
「よいしょ、大丈夫?」
ナギはまだ私の手を握ってくれている。
「うん、大丈夫、だけど、何が何やら」
「あはは、まぁ細かいことはさておき、そう、この大樹がアドバルン、世界各地にこの大樹の一部分が散り散りになってるんだ」
「アドバルン……」
心地よい風が私の一切の手入れもしていない髪も、ナギの草原の中でも映えるほどよく短い綺麗な髪も流していく。
そして無論、アドバルンと呼ばれる大樹の枝が、葉が風に応えて音を立てる。
まるで私とナギの訪問を喜ぶかのように。
「アドバルンに触れることで、ボクたち神はこの場所にやってこれるんだ」
「ボク……たち?」
「そう、ボクたち」
ナギはそう言って私を大樹の根元まで連れてきた。
そこでようやく私の手を離すと、ナギは可愛らしい仕草でアドバルンの大きな大きな幹を人差し指で小突いた。
するとそこから優しい光が泡のように飛び出して、ナギの前に小さな文字列を作る。
それを少し悲しそうな目で見つめてから、また思い切りよく笑顔になってナギはすぐ横にいる私を流し見る。
その横顔は何故か大人っぽく映り、また風に流れるナギの髪の輝きも相まって、思わず見とれてしまう。
それは心が奪われるほどに。
心が焼き付くほどに。
綺麗な光景だった。
そんな私の内心を知らず、ナギは自身について、世界について語り始める。
「ここでは神様は当たり前のように他の生物と一緒に生活している」
その声すら、今の私の心をすり抜けるほどに透き通っている。
「正確には、生活させられている」
「させられている……誰に」
「わからない、でもたぶん、このアドバルンに」
「この……木、に?」
「ボクたちには序列が与えられている、そのまま衒わず神様序列と呼ばれるランク付け」
ほら、と言ってナギは目の前に広がる光の泡を指差した。
そこには『Nagi 32』と書かれている。
「この数字が神様序列、序列が高ければ高いほど、ボクたち神は本来の力を取り戻すことができる」
「本来の、力、ならナギは力を制限されてるんだ?」
うん、と頷くナギ。
「この序列はこのアドバルンが教えてくれる、判断基準はよくわかっていないけど、恐らく他の生命への影響力だと言われてる」
「でも、32位ならもう結構いい順位じゃない」
「あはは、この序列はたくさんいる神を32ランクに分けたものなんだ、つまり序列32位は最下位」
「そう、なんだ」
「色んな神がいるよ、いい意味でも悪い意味でも影響力の大きい神、人の姿じゃない神もたくさんいる」
ああ、これは。
「序列を気にしない神、逆に是が非でも序列を上げたがる神」
この語り口は。
「表に出なくとも圧倒的力でモンスターを倒すことで高い序列を誇る神」
この表情は。
「取り戻した力でこの世界の構造そのものに干渉しようという神」
この声色は。
「それに、自分を取り戻したいと願う神」
私によく似ている。
気づけば私もナギも、目に涙を浮かべている。
出会って間もない私たちだけど、心の底に抱える想いは全く同じだった。
それが痛いほど伝わってくる。
「ツナギは、記憶が数日しかないって言ったね?」
私は、無言で首肯する。
「ボクにはね、人の姿でこの世界に生きる前の記憶がないんだ」
ナギの涙に触れて、アドバルンから零れていた光の泡が弾ける。
「ツナギと違って、もうこの状態で何年も何十年も何百年も何千年も過ごしてきた」
でもね、と繋ぐ。
「ボクは、本来のボクを知りたいんだ」
弾けた光の泡は粒となって私とナギの間を泳いでいく。
さっきからずっと。
こんな真剣な話をしているというのに、私の心はこの光景に奪われてばかりだ。
もっと、ナギを知りたい。
この神様のことを知りたい。
だから私は、手を伸ばした。
「ねぇ、一緒に探そう?」
その手は、思ったよりもすぐにナギの手に触れることができた。
すぐ隣にいるんだ、当たり前かもしれない。
「私たちが、私たちを取り戻す旅、一緒に行こう?」
ナギは、すぐに握り返してくれた。
「でもボクは、ずっと探してきたのに、見つかるのかな」
「見つかるよ、きっと、私と一緒なら」
根拠のないことを言ってみた。
でもそれはちゃんと伝わった。
「そうかもね」
「うん、そうだよ」
もう、涙は止まっていた。
再び風が流れ、アドバルンの枝葉が大きな音を立てる。
ナギが髪をかき分けて笑う。
「行こうか、まずは、ツナギの身なりを整えに」
あはは、それはお願いしたい次第だ。
でも、それより先に、ね。
聞いとかないと。
「ね、ナギはどんな神様なの?」
「ああ、ボクはね」
と、そこにアドバルンから落ちてきた葉が一枚、ナギの手にひゅるりと収まった。
ちょうどいいや、とナギが呟く。
ナギはその一枚の葉っぱを片手で優しく握ると手の中から淡い、やっぱり薄く緑がかった光が漏れる。
光が収まるとナギは握り拳を私の目の前に突き出して、開いた。
すると、先ほどまでちょうど掌に収まる程度の大きさだった葉っぱが、その半分よりも小さいくらいのサイズまで小さくなっている。
ナギは小さくなった葉っぱを息でふっと吹き飛ばした。
「今のボクには、両の掌で収まる程度の大きさのものしか扱えないから本来の力がどんなものかはわからない」
全く。
「だからこれもツナギの名前と一緒で、ボクが勝手にそうだと名づけただけなんだけどね」
本当に。
「ボクは“収縮の神”ナギっていうんだ、よろしく!」
似た者同士だなぁ。
思わず笑っちゃうほど似ている境遇だ。
笑うのは堪えず。
泣いてるのも恥らわず。
「私は“繋縛の神”鈴鳴繋っていうんだ、よろしく!」
私も恰好良く応えた。
まぁ。
私は神様じゃないんだけど、ね。