私が宴の中で出会うまで
「ねぇ、あなたは知っているの?私が、何者なのか」
私は問いを繰り返す。
ジャンベルは答える。
「知らない、だからこそ、君と融合したいんだ」
「今の私と融合してもわからないんじゃないの?」
「確かにね、しかし知の探究とは常にそういうものだよ」
「わざわざ、そのためだけにこの神の宴を?」
「君の事はただのきっかけさ、確かに君を連れ出すための策ではあったが、どの道いつかは行う予定だった」
「なんで」
「なんで?わからないかい、理由は二つだよ、二つ」
「さっき言っていた、退屈、とか?」
「その通り、まずは退屈だったのでね、暇つぶしというのが一番の理由だね」
「もう一つは?」
「無駄だと感じたんだよ、神が」
「神が、無駄?」
「多すぎるとは思わないかね、この世界に神が、私は思ったんだよ、神とは人智を超えた概念であるべきなのだと」
「多すぎる、って、そりゃ、神なんだから」
「序列下位の神などもはやただの人や神擬きと変わらないだろう、そんな神は必要ないと言っているだけだよ」
「神は誰かの願いから生まれるんでしょ、それを勝手に殺していいわけない」
「その誰かから願われない神が減ったところで、誰も困らないだろう?」
「そんなこと、ない」
「君には、わからないだろうね、君には自分というものが存在していない」
「……何を」
「もちろん知っているよ、君に記憶がないことも」
「その君には何もわからないだろう、自分を保つことすらできない神など、神ではないんだ」
「でも、ナギは、自分で立っている!」
「あぁ、君と一緒にいる収縮の神だったかな、彼女も記憶がないらしいな、ハッ、記憶喪失の神などとんだ笑い草だ」
「ナギを馬鹿にしないで」
「なら聞こう、彼女は今序列19位だが、誰に願われているのか知っているのか?」
「そりゃ、町の皆、とか」
「そうじゃない、概念として彼女は誰に何を願われて神となっているんだ?当然覚えていないんだろう?」
「それが何」
「収縮の神、という表現も自分で勝手に決めたらしいし、彼女も本当に神なのかどうか怪しい」
「ナギは、ちゃんと、神様だ、願われてるさ、私に」
「ほう、記憶のない君に願われることが神様たる由縁だとでも?」
「嘘じゃない」
「ふふ、面白いことを話しなさる、ますます融合してみたくなったよ、さぁお喋りはここまでだ」
「くっ、結局こっちの話はほとんど流されてるし」
私はものの数十秒しか時間を稼ぐことができなかった。
当然といえば当然かもしれない。
数十秒でも充分すごいことなんだと思う。
でもそれもおしまいだ。
ジャンベルがこちらに歩み寄る。
ワンくんが力を込めるのが分かった。
それらを見て、なぜか私は自分自身について考えだしていた。
私とは誰なのか。
私とは何なのか。
私は『私』を知るために生きているけれど。
そうでなくたって知っている人なんているのだろうか。
自分が誰なのか。
記憶があったら、わかるのだろうか。
私に記憶が戻ったら、わかるのだろうか。
ナギに記憶が戻ったら、わかるのだろうか。
わかってしまったら、どうすればいいのかな。
その時私は、私でいられるのかな。
例えば今目の前にいる二人はどうなのだろう。
序列が2位と、3位。
ほとんど神としての力は十分に振るえるはず。
進化の神はそれでもまだ私と融合したいと言っていた。
その好奇心こそが自分なのかもしれない。
個体の神は助けを求められたら放っておけないと言っていた。
でも、彼も彼で色々あるのだろうか。
人が神になる、そんなことがどう起きるのか私にはわからない。
そんなに古い神じゃないって言っていたけど、なら彼は神になってからどれくらい経っているのだろう。
少し気になる。
すごく気になる。
なんでか気になる。
そんな他愛もないことを考えている間に、ジャンベルとワンくんは結構な動きを見せていた。
というか打開策を考えてなくて大丈夫かと自分に突っ込みを入れたいくらい。
でも、そうやって目を背けていなくちゃ、悔しさで胸がいっぱいになっちゃう。
それほどまでに二人の戦闘は高度なものだった。
私が横槍を入れることができないくらい。
ワンくんなんて自分の能力を封じられてるのに。
ジャンベルと十分にやりあっている。
その事実に私はかなり愕然としているけれど、ジャンベルはそう驚いていないみたい。
……。
いや、冷静になんでワンくん生身でそんな戦えてるのさ。
「相変わらず……純粋に戦闘だけなら君には到底およばないですねぇ個体の神?」
「なんだそれ嫌味かよ」
「いえいえ、尊敬に値しますよ」
ジャンベルは正直、なんでもありの攻撃を行っている。
基本的に彼は空間という概念を捻じ曲げている。
突如何の前触れもなく私たちに向けて飛んでくる無数の弾丸をしかし、ワンくんは見事に石剣で撃ち落とす。
ジャンベルの攻撃には予備動作と呼べるものが一切ないけれど、ね。
どんな神経してんだワンくん。
弾丸のような目視が難しそうなものから、火の玉のように目線を誘導するようなものまで、その全てを逃さない。
特にワンくんの持っている石剣に秘密がある風ではない。
あの剣が何かしらの不思議を起こしているわけではないみたいだ。
まぁよく考えたら普段からワンくんが使っている武器なんだ。
不思議を無力化する彼が不思議を扱う武器を使用するわけがない。
にしても、縦に横に、文字通りの縦横無尽にワンくんは剣を振り続ける。
そしてジャンベルは攻撃の手を休める気がないらしい。
防戦ばかりじゃやっぱりダメだ。
何か、この状況を一気に変えられる何かが必要だ。
どうしたら、どうしたらいい――!?
「お前はとにかく考えろ!繋!」
ワンくんが叫ぶ。
雰囲気で私の焦りを感じたらしい。
「正直このままじゃもうもたねぇ!なんとか考えてくれ!!」
「ほう、個体の神がそんなことを言うとはね、何か思う所があるんですか、その少女に対して、例えば、恋慕とか」
私の思考がストップする。
……そうなの?
「馬鹿言え、からかうのもいい加減にしろ、お前だって俺の事はよく知ってんだろ」
「これは失敬、いえ、知っているからこそ、どことなく『彼女』に似ているような気がしましてね」
「うるせえよ!!」
今まで最小限の動きで石剣を動かしていたワンくんが急に大きく跳ねた。
その動きにようやく若干の戸惑いを見せつつも、すぐにジャンベルが何かしらの攻撃を仕掛ける。
いや、仕掛けているはず、なのに、だ。
何も起こらない。
石剣で防いだとかではなく、何も攻撃が発生しない。
私が変だなと思うのと。
ジャンベルが今度ははっきりと驚愕に目を見開くのがほとんど同時だった。
寸でのところでジャンベルはワンくんが振り下ろした石剣を避けた。
地面が以上に抉られる。
どこまで密度が高い物質で作られているのか、石剣に崩れている箇所は見受けられない。
「ははぁ、考えましたね、跳躍したその一瞬は地面に、いや『この建物に』触れていないですからね」
「まぁ、それでも消しちまう危険性はあったけどな、そこは俺の認識の力が強く働くもんだと思って賭けてみたが……普通にすぐ避けやがって」
「いえ、ここに来て改めて素晴らしい判断力ですよ、思わずあなたとも融合したいと思えるほどにね」
どういうことだ。
空中にいる間はこの建物に触れていないから、無効化を発動できた、とかそんな感じ?
でもそれって色々無理があるような、ないような。
って!
今!まさに!
ジャンベルが不意を突かれて意識が完全にワンくんに向いている!
何も考えていないけど、何かしなきゃ!
この一瞬しか私が動くことはできないはず!
なにかしなきゃ。
なにができる。
なにが、できるの。
私に。
いや。
それこそ一つしかない。
いつだって。
ピンチの時もそう。
余裕がある時もそう。
目的は違くても、方法は一緒だったじゃんか。
そうだ。
私にはこれしか力がない。
何をするかはもうわかりきっていることだ。
ほら。
私。
いつものように叫ぶんだ。
私の。
必殺技を。
「ツナガレ」
私から、光の束が噴き出す。
気のせいか、いつもよりも黄緑色に近い発光をしているような気がする。
今度はジャンベルに止められることなく発動することができた。
よし、じゃあ、どこに繋げよう。
私と何を繋げよう。
少しだけ考えた。
考えるまでもないことに気付いた。
そうだ。
私は、何がしたいのかを見失ってたな。
そうじゃん。
天候の神、ツユキに襲われた時もそうだった。
私はツユキを倒したかったわけじゃない。
今もそう。
私は序列2位のジャンベルを倒したいわけじゃない。
私は、そう。
「ナギを助けたい」
光が一筋、どこかへと消えていく。
「ベルを助けたい」
光がもう一筋、どこかへと消えていく。
決まってる。
私が繋がりたい相手なんて、ナギとベルに決まってる。
そうして待つことたったの2秒。
それだけの時間で、私は再会できた。
私の大好きな神様に。
空間を飛び越えて、私のツナガレが二人をここへと誘った。
私の目の前に空間の裂け目のような何かが現れ、そこからナギとベルが引っ張り出される。
よかった。
できた。
「わわっ!?なになに!?」
「ここは……む、ツナギに……ザ・ワンに、ジャンベル、です」
「え、あ、ツナギ!!大丈夫なの体、は……?」
私も無事に会えたことをゆっくり喜びたいけど、そんな暇はない。
少し慌てているナギを目線とジェスチャーで抑えて、周りをよく見てもらう。
「お二人をここまで連れてきたわけですか……あの能力、今空間を飛び越えましたねぇ」
ジャンベルがまったりとそんなことを話す。
「あそこまでの力が、序列19位にあるのか?」
ワンくんの疑問にはそのままジャンベルが答える。
「そりゃあ、序列19位には無理でしょう、ね!」
ジャンベルに弾かれてワンくんが私たちの所まで戻ってくる。
また私たちとジャンベルとの間に数メートルの距離が空く。
縮まらず、広がらない距離が。
「ツナギ、神の宴は最悪だよ、神同士が互いを殺し合ってる」
「うん、わかってる、あいつが原因、序列2位のジャンベル」
「こんなところにいたのか、です」
本当にナギとベルは下の神の宴の会場にいたんだ。
少し悲しい気持ちが大きくなる。
あんな場所に二人をいさせてしまったことに胸が痛む。
「あぁ、あんたが噂の収縮の神か、悪いが力を貸してくれるか?」
「え、うん、ボクが収縮の神ですけど、あなたは?」
「俺は個体の神、ザ・ワンだよろしくな」
互いに状況を鑑みて簡素に挨拶を済ます。
ワンくんとベルは特に挨拶を交わさない。
「色々あると思うけど、あいつを撃退するのに力を貸して欲しい、ナギ、ベル」
「ん、わかった!」
「もちろん、です」
1対4。
そんな状況でも余裕を崩さないジャンベル。
全神経をジャンベルの攻撃に注いでいるワンくん。
すぐに状況を理解して戦闘態勢に入るナギ。
やっぱり止めたがっているのだろう、ベル。
そしてそのナギとベルの横に立つ私が。
激突する。
ちなみに私はベルの横に立っていたから。
ベルの瞳が異様に赤く染まっていたことに。
気づくことができなかった。
気づいてあげられなかった。




