私が宴を開くまで
夜闇に鐘の音が響く。
カーン、カーンと、一定のリズムで。
寸分違わぬ、全く同一の音が。
何度も。
何度も。
「気持ち悪いな……」
全く同じ音で、しかも全く同じ長さで響く不気味な鐘の音に私は不快感を拭えない。
「どうせジャンベルの野郎が"再現"してんだろ、自分の中にある音を」
未だ私と手を繋いだままの(なんでだ)序列3位、ワンくんが説明を加えてくれる。
「あぁ、進化の神の、融合の力、ね」
今私とワンくんは絶賛空をかっ飛ばして、序列2位のジャンベルの元へ向かっている。
というか私が空をかっ飛ばして序列3位のザ・ワンを引き連れている。
丁度ジャンベルが神の宴用に創りあげたらしい城の中心部が見えてきた所で鐘が鳴った。
宴の開始、ということだろう。
ぎりぎり間に合わなかったみたいだ。
早くナギとベルを探さないと。
いよいよ目下に城の中心部が広がる。
その外観は意外とシンプルで、趣味の悪い神が創ったにしては装飾が少ない。
城、というよりは塔の方が近いのかもしれない。
そのところどころに、中へと続くテラスが用意されている。
まるで私を待ち構えていたかのように。
行くしかない。
「突っ込むよ!」
「あぁ!」
私はそのままテラスの一つにツナガレを伸ばし、一気に縮める。
「中で何が起きているか、正直見当もつかない、気をつけろ」
ワンくんが早口に注意を伝えてくれる。
それはもちろんわかっていることだけど、ね。
今はそんなこと言っていられない――!!
思い切りよく私とワンくんは神の宴の会場へと足を踏み入れた。
私は外に通じているテラスから入ったのだけど、会場はそこからかなり下の階にあるらしい。
落下防止用だろうか、柵越しに目を凝らす。
あの見間違えようのない麗しきオリーブグリーンの髪を探す。
だが私の思っていた以上に神は会場で思い思いに食を楽しんでいた。
皆、場に相応しい一張羅を着込み、互いに微笑みあっているらしい。
私とナギは行かないことを即断したけれど、案外来ている神は多いのか。
そんなことに感心している私の後ろに、険しい顔のワンくんが続く。
まだ警戒態勢を解いていないのかな。
まぁ私も勿論警戒自体はしているけれど。
何さ、普通に宴してるじゃんか。
「そんなに嫌そうな顔して、どうかしたの?」
思わず尋ねてみると間髪入れずに答えが返ってきた。
「お前、あれ見て何も思わねーのか?」
「え、結構談笑してるじゃん」
なんかむしろこれまでの事が全部ドッキリでしたとか言われたら信じるレベル。
「見えてないのか……なら少し覚悟しろよ」
「へ」
そう言ってワンくんが私の背中をポンと叩く。
一体、何を――。
そう思って、ワンくんを見ようと振り返る、と。
その階下に。
先ほどまで、ただ神同士が仲良く宴を開いていた、そのはずの場所が。
血に染まっていた。
「シネェェ!!」
「貴様がな!!」
「俺が!俺が序列を上げるんだ!!」
「私のために死ねよ!ほら死ね!!」
「や、やめてくれ!俺は別に序列を上げたいなんてこれっぽっちも……!?」
「誰か!ここから瞬間移動できないのかよ!!」
「俺たちの序列のために死んでくれよぉ!!」
「イヤダ!!シニタクナイ!!」
「神が死んだらどこへ向かうのかなぁ!!教えてくれよなぁ!!」
「嬉しく思えよ、お前らジャンベル様のおかげで序列が上がるんだからよ!!」
「食べないでくれ!お願いだお願いだ!!」
…………。
「おい、大丈夫か」
ワンくんが背中をさすってくれる。
「ちょっと……ごめん」
吐き気と数秒戦ったのち、ナギとベルを頭に浮かべてなんとか止まる。
「これ、どういうこと?」
「はじめ繋が見てたのは幻覚みたいなものだったんだろ」
「あぁ、そうなん、だ」
ちらっと足元を覗き見る。
やっぱり神同士の争いが、いや、争いなんてもんじゃない。
狩る側と狩られる側が明確に存在している、一方的な蹂躙が。
そこにはあった。
その全てがきっと、同じ神だというのに。
醜く。
互いに罵しあって。
貶めあって。
自分だけが助かろうとして。
結局全員死んでいく。
そんな光景がそこにはあった。
「くそっ、これだから序列しか考えてねー神は……!!」
ワンくんが静かに、しかしかなり鋭く呟いた。
でも、なんでこんなことになってるんだ。
大丈夫でいて、ナギ、ベル。
と、最悪の光景から目を逸らすようにしていると。
「楽しんで頂けているかな?神の宴、いや、The Last Supperを」
同じテラスをカツカツと音を立てて歩いてくる男がいた。
服装はわかりやすい、白のタキシードに赤いシャツが覗く、ベタな感じの男。
顔自体は端正な印象があるが、半端に長い金髪と、にやついている表情が癪に障る。
私の隣に立つワンくんの殺気が辺りに立ち込める。
私も、言われなくてもわかってしまった。
この男だ。
この男が。
ジャンベルだ。
「おい序列2位、これは一体どういうこった」
「おやおや序列3位あなたも宴に参加して頂けるのですか?それは大層助かりますねぇ」
ますますワンくんの声がドスの効いた感じになっていく。
「神の宴ってのはこのことか」
「もちろん、最高ではありませんか」
ジャンベルが声を高らかに語りだす。
「世界は退屈だ、既にほとんどの森羅万象と融合を果たした私がこの先どう進化していけばよいものか」
クイズの答え合わせを楽しむ子供のように、ジャンベルは笑顔のまま私たちに話しかける。
「そこで、ひとまず暇つぶしに神同士を本格的に争わせてみせようと思ったんですよ」
ワンくんが拳を握るのが見えた。
私も思わず唇を噛んだ。
「他の神を殺せば殺すほど私が序列を上げるお手伝いをしましょう、とか言っておけば皆すぐに殺し合う」
神とはこの世界では序列がすべてだ。
自分の存在の在り方が序列で決まる。
そして他の生命への影響力で変わる序列が変動することはもう久しくなかったとされる。
そんな状態の神様に、序列が上げる手伝いをする、と序列2位の神が話して上手くいかないわけがない。
それを暇つぶしだと、そう言って。
実践したというのか。
私は理解した。
ジャンベルに言葉は通用しない。
よくわかった。
こいつは、屑野郎だ。
ワンくんも私以上にブチ切れる。
「てんめぇ!!」
「おっとぉ、やめた方がいいですよ序列3位」
動き出そうとしたワンくんに対し、慌てることなくジャンベルが静止を求める。
「確かに君の力なら下の神たちの殺し合いをとめられるでしょう、ですが、この建物はそもそも私が能力で創ったものですよ?」
「!」
「あなたの力で殺し合いを止めたら、こんどはこの建物すべてが無くなるということだよ、わかったかい?」
仮にワンくんが個体の神として、その能力を行使すれば、当然この建物はなかったことになり。
結果地に落ちていく多くの神が、やはり死ぬ。
優しいワンくんにそれはできないだろう。
ワンくんの性格まで加味した、徹底的なワンくん潰しだった。
そして。
「よく来たね、鈴鳴繋さん」
セレスとは全然違う、別種の冷えた声に私は恐怖する。
「それに、どうして私のフルネーム」
「そりゃあ、主賓だからね」
「主賓……?いや、まさか!?」
急にワンくんが声を荒げる。
「え、どうしたの!?」
「最初からこいつ目当てだったのか!?」
え。
こいつって。
私?
どういうこと?
「まずい逃げろ繋!!」
「逃がすわけないだろ?」
混乱しすぎて頭が回らない私に向けて。
ジャンベルは事も無げに言い放った。
「私は君と融合したいんだよ、さぁ楽しませてくれる、よね?」
序列2位が私の前に立ちはだかる。
ほんの僅かな笑みと。
目一杯の絶望と共に。




