私が傾ぐ彼女を眺めるまで
「招待状?」
「それもあの序列2位のジャンベルからね」
あくる朝。
ナギとベル宛てに手紙が来ていた。
送り主は現神様序列2位、進化の神、ジャンベル。
手紙には『神の宴(The Last Supper)』と題した催しの開催日時が記されている。
いや最後の晩餐なのかい。
それ参加したら駄目なやつじゃないの。
なぜそんなルビを振ったのか、その真意はわからないけれど神様を集めてパーティを開くみたい。
当然神ではない(と思われる)私には招待状は届いておらず、ナギとベルだけが招待されている。
「急になんなんだろうね?」
神というものは基本、相容れぬものであるらしい。
絶対、というほどではないので友誼を交わしたり時には恋慕を抱いたりがないわけではないそうだけど。
単に馴れ合っても得がないのだ。
この世界に来る前はそもそも概念的存在であったらしいので他の神との交流は勿論なかった。
この世界でも神様序列を上げるのに必要なのはあくまで影響力、という曖昧なもの。
他に影響されない神とコネクションを持っても自身の序列向上には変化がないのだ。
また、神は自身に絶対的価値観を置いている事が多いため、他の神の存在自体認めにくいらしい。
そして最も神同士において危険視されるのが、つまるところ死である。
この世界において神は死ぬ。
他の神と同じ空間にいるということは、死と隣り合わせであることと同義である。
そんなリスクを背負ってまで神同士で仲良くやろうとする神様は確かにそう多くはないだろう。
だというのに。
今回はその神を招待しているというのだ。
一体何があったというのだろう。
「うーん、そもそもどうして序列19位のボクや、今の所序列32位のベルにまで招待状が届いているのかなー」
ジャンベルであれば、ナギとベルヴェルクが同じ場所に住んでいることを察知することは不可能ではないらしい。
なので、二人に同時に招待状が届いたことには驚きはないみたいなのだけど。
招待状が来たことそのものが怪しいとのこと。
「ボクの19位だってまだかなりたくさんの神がいるよね、全ての神に送っているとは到底思えないけど」
そう、神とは一体どれだけの数がいるのか誰一人として知る由もない事柄だ。
一部世界と融合しているらしいジャンベルなら把握することはひょっとするとできているのかもしれない。
でもそれにしたって全ての神を招待しているとは思えない。
場所は確かにジャンベルがこれから”作成”するらしいので、広さ等は問題ないのかもしれないけど。
何の意味があるというのだろう。
色々と不明瞭な点が多すぎる。
「何かあった、です?」
微妙な裏事情をナギと話していると、ベルがのろのろと歩いてきた。
今起きたところみたい。
ホント神様には見えないよなぁ。
ナギがどうしたものかという顔をしつつも、招待状をベルに渡す。
「ジャンベルからの、招待状、です?」
「そうみたい、何をしたいのかはわからないけど、ね」
ベルは微妙に首を傾げたままだ。
まぁいいか。
「今リスクを負ってまで行く必要はないよね?」
「うーん、まぁ、ボクも同意見かなぁ」
ベルはやっぱり首を傾げたままだ。
なら大丈夫かな。
「ご飯にしよっか」
「だね」
私とナギは二人で朝ごはんの支度にとりかかる。
ベルはちょこんとソファーに腰かけてまだ招待状を眺めている。
あのかわいい姿でナギよりも永く存在している神様だ。
何か思う所があるのだろうか。
簡単に朝ごはんを作り、三人で卓を囲む。
私は最近この時間が堪らなく好きだ。
食べている、ただそれだけで幸せな気持ちになる。
大好きな二人が一緒ならなおさら、ね。
と、そんな幸せな時間を鈴の音が遮る。
カランコロンとドアの所で鳴っている。
ん、お客さんかな。
「ちょっと行ってくるね」
「うんお願いツナギ」
トトッと小走りで玄関に向かう。
「はーい、どちら様、ん?」
ドアを開けると本当に見たことのない男の人が立っていた。
もしかしてナギ狙いの賊かな。
それとも。
「朝早くに申し訳ありません、私はセレス様のギルドの者です」
そういってやや大きめの魔石を取り出した。
その場に小さな映像が映し出される。
映し出されたのはセレスだ。
なるほど、遠地との通信用なのかこの魔石。
いやそんな遠くはないけど。
「あらー、ツナギちゃんお久しぶり」
「はぁ、どうも」
「その後元気してるかしら?」
「おかげさまで、それで、今日は何の用で……ひょっとして神の宴のことで?」
「そうそう、それそれ~」
「出ませんよ、ナギもベルも」
「あらそう、ならいいんだけど」
「止めに来たんですか?」
「さぁ、どうかしらね、それで、あなたも行かないの?」
「私は誘われてすらないし……」
「ふぅん、そうなんだ、ジャンベルくんが誘わなかったんだ?へぇー」
「さっきから引っかかる言い方で、本当に何しにきたんですか?」
「ふふふ、忠告よ」
「忠告?」
「参加するにせよしないにせよ、あなた達が自分を探すつもりがあるなら」
セレスはそこで一度言葉を切った。
私は無言で先を促す。
「たぶん逃げられないわよ」
……え?
何、から?
何故かその言葉に血の気が引く。
いつだかのように、セレスから狂気が溢れているわけでもないのに。
私は今の言葉の何に怯えているというのだろう。
セレスがそれだけ言うと、プツンと音をたてて映像が切れる。
「え、あの」
「では失礼します」
男の人は映像が切れるとさっさと走り去ってしまう。
その姿が完全に見えなくなっても私はしばらく呆けていた。
「ツナギ―っ?何かあったーっ?」
居間からナギの声が聞こえる。
そうだ、ご飯の途中だ。
戻らなきゃ。
「大丈夫ツナギ!?なんか顔色が悪いよ!?」
「あ、ううん大丈夫、ちょっと急に立ちくらみがね」
「大丈夫じゃないよほら横になって」
「うん、ありがと」
「誰が来たの?」
「ううん、ただの雑誌販売の人、いつもよりしつこかった、だけ」
「そう?とりあえずゆっくり休んで」
「うん」
私は何故か、嘘をついた。
今のセレスとのやりとりを教えてはいけない気がした。
だって。
セレスが言った言葉。
たぶん逃げられない。
何から逃げるのかもわからない、何が起きるのかもわからない。
でも。
その"何か"から逃げられないような気が、私もしてしまったから。
言えなかった。
眩む視界の端。
せっせと私に濡らしたタオルを乗せてくれているナギと。
ご飯を食べる手を止めて、首を傾げることなく招待状を見つめるベル。
二人が対称的に映って思わず笑みがこぼれてしまった。




