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NAGI ―神様と共に私を見つけるまで―  作者: 安藤真司
私編 2 ―神の宴―
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私が神様に願うまで

「そーんなところで何やってるの、ツナギ」


とある夜中。

私は家の屋根の上で滔々とこの世界の事を考えていた。

意外と屋根ってしっかりしてるもんだ。

そりゃそうだけど。

私たちの住んでいる町はセレスのギルドの本拠地がある町なだけあり、こんな夜遅くでもまだ相当数明かりが灯っている。

おかげで夜空はいまいち綺麗に見えないし、どことなくざわざわと声も聞こえる。

でもそんな雑音を気にせず、神様序列や自分自身の事を考えていたら、ナギが声をかけてきた。

振り向くとナギも窓から屋根に降りてきて、ゆっくりと私の横に座りこむ。

ここ最近はいつもベルも一緒だったから、二人きりになるのは久しぶりだ。

柔い風が髪を撫でる。

私はずっと肩にかかる程度の長さで揃えているが、ナギは随分と伸ばしているみたい。

初めて会った時のことを思い出して思わず笑みがこぼれる。

「どしたのツナギ?」

「ん、なんでもない」

ナギも私を見てくれている。

そのことが嬉しくて堪らない。

ナギが言葉を繋げる。

「風が気持ちいいね」

「うん、そだね」

「ツナギは何考えてたの?」

「ちょっと序列について、ね」

「あぁ、ボクもようやく19位まで来たもんね」

「どう、まだまだ先は長いけど、少しは思い出すこととか」

ナギは首を横に振る。

「いやぁ、なーんにも」

「そっか」

気にするほどでもない間。

沈黙。

それだけでナギが何か言いあぐねているのがわかる。

もう今更気を遣うこともないのに。

「ツナギはさ、これでよかったの?」

「……何が?」

「本当はもっと積極的に、その手紙の『私』と『彼』のこと、『鈴鳴繋』のことを調べたいんじゃないかな、って」

「う、ん……どうなのかな」

どうなのかな。

本当のところ。

今の私は、本当に、知りたがってるのかな。

「ナギ、今から私、自分でも整理できてないこと言うね」

「うん、いいよ」

「私、今ね、自分が怖い」

「……」

「知ってるよね、結構前から私がたまに自分を制御できなくなる時があること」

「うん」

「それに、最近急に意識がなくなること、とか」

「うん、知ってる」

「たぶん、ナギの序列が上がるたびにひどくなってると思う」

「ボクもそうじゃないかなって、ごめん、思ってた」

「私ね、今の生活がそんなに嫌いじゃないの、ううん、すごく好きで、すごく大切」

私は語る。

「今の『私』が、すごく好き」

本心を。

「ナギと、ベルと一緒にいるこの空間が大切」

本音を。

「私は『私』を知りたい、『彼』を知りたい、『鈴鳴繋』を知りたい」

きっとまた全てを言葉になんてできないけど。

「でも、そのために今の私がいなくなっちゃうのは、嫌だな」

私の想いをそのまま言葉になんてできないけど。

「だから、このまま前に進んでていいのかなって、不安だし、悩んでる」

言葉にしたって、全部がナギに届くわけもないけど。

「でも、私はナギの行く道を進みたいよ」

届けたい想いがあることくらい、きっと伝わる。


「だから、前に進む力を貸してほしいな、私の神様」


「その願い、ボクが聞き入れたよ」

言って、ナギが思い切りよく立ち上がる。

その勢いで屋根が揺れている。

ナギはそのまま右手を高く空にかざした。

開いた掌に流麗なオーロラが落ちてきたかのように光が溢れ出る。

「鈴鳴繋さん」

急にフルネームで呼ばれた。

「は、はい」

「ボクは収縮の神、ナギ」

その口調はどこかわざとっぽい。

「あなたのその願い、叶えてみせよう!」

掌に集まった光が一瞬小さな球状に縮まって、そして閃光と共に遥か上空へと打ち上げられる。

勢いよく空へと放たれた光球はやがて破裂、幾千もの数に分かれて夜空を照らす。

その美しい翠色に染まる空をただ見つめることしかできない。

ナギが放った光が完全に消えるまで僅か十数秒、私は息をすることすら忘れていた。

「今はこれしかできないや」

その言葉で現実に還る。

なにさ。

十分すぎるよ。

「ボクもね、本当は不安なんだ」

ナギが私の目を見て語りだす。

「本当にこのまま序列を上げて、自分の記憶を取り戻せるのか、ってね、でも」

ナギが二歩、私に近寄る。

目と鼻の距離にナギが来る。

そのままナギが優しく私を抱きしめた。

「ツナギがいてくれるから、ボクも強くいられるんだ」

ナギの体温が伝わる。

体温だけじゃない、ただ体を触れ合わせてるだけなのに、心の内にある想いまで伝わってくるようだ。


「だからボクはずっと、君だけの神様であり続けるよ」


「ん、ありがとう、神様」

そう言って、私もナギの体をそっと抱きしめる。

それ以上は、何も言わない。

何も要らない。

それだけで、全部伝わった気がするから。

と、そこに後ろから視線を感じる。

「やっぱり二人、ただならぬ関係、です」

ベルの声がしたと同時に私もナギも慌てて手を離す。

見れば、いつの間にかベルも屋根に降りてきている。

「な、なんのことかなー?」

「よくわからないなー何言ってるのかなー?」

顔が熱い。

「別に女の子同士でも問題ない、です」

「「だからそういうんじゃないってば!!」」

そのまま三人、がやがやと雑談に入っていく。

時間も気にせずに、ね。



きっと本当は全部伝わってないんだろう。

きっと本当は偽物でしかないんだろう。

きっとただの気休めでしかないんだろう。

私は私のままでいいわけがないんだろう。

私は私のままで前に進めるわけがないんだろう。

でもたぶん、ね。

それでいいんだよね。

ナギ、ありがとう。

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