ホント、ゴキブリは何処にでもいるな。
「ごめんお兄ちゃん!」
「……どうしてもか?」
「どうしても!」
「これだけ頼んでも?」
「これだけ頼んでも!」
「マジかっ……!」
僕は家に帰るや否や真弓さんの所で聞いた話をそのまま妹に伝え、僕に協力するよう話を持ちかけた。
が、妹の返答はNo。
その理由はと言うと、
「本当にごめんねお兄ちゃん?私も出来るならお兄ちゃんに協力したいんだけど、こればっかりは私も譲れないから……」
考えれば当たり前のことだった。
数々の電化製品や多額の商品券、ましてや図書券でさえも5万円分を景品として出すような大がかりなイベントなんだ。
その景品の中に「ゲームソフトやゲーム機本体」が無ければ嘘なのだ。
このイベント、元々は近隣に住む小学生や中学生を対象に行われていたものなのだ。
今でも多くの小・中・高が参加している以上、その年齢の人が大好きなゲームを景品にしない手はない。
ゲームソフトを手にいいれば本体が欲しくなる。
本体を手にいれればソフトが欲しくなる。
子供はゲーム会社から見ればお金を沢山落としてくれるカモでしかない。
本当に……余計なことをしてくれる!
今は少しでも戦力が欲しいというのに!
…………ん?
いやでも待てよ?
「なぁ夏峰?」
「ん?なぁに?」
「お前、僕に協力出来ないと言ったがそれは何故だ?同じ家に住んでいる以上同じ地区でイベントに参加しなければならないだろう?別に僕はゲームは欲しくないし、なんなら夏峰に丸ごと賞品を流してくれるよう真弓さんに頼んでみるぞ?」
「お兄ちゃんのその気持ちは嬉しいんだけど……やっぱり駄目。この話をお兄ちゃんが先にしてくれていたら協力したんのだけど……」
「誰か先約がいたのか?」
「うん。今日来てたあの3人」
「あの3馬鹿……2馬鹿か!?」
「その言い方はちょっと酷いよお兄ちゃん。でもそう。それでね?あの3人は同じ地区に住んでるんだけど、私だけ違うの」
「まさか夏峰……僕らのチームに入るだけ入って、内部から妨害しようとしているんじゃないだろうな!?」
「そんな下劣なことはしないよ。私は正々堂々戦って景品を勝ち取るよ。……3人と同じ地区に家があるお婆ちゃんの孫として」
「その手があったか!?」
僕らのお婆ちゃん……
祖父母は同じ街に住んでいるが、僕らが住んでいる家と少し距離が離れている。
丁度地区と地区と境目にあたるぐらいの場所だ。
基本的にこのイベントは自分が住んでいる地区の人が集まってグループで参加するものだが、自分が住んでいなくても同じ街に血縁関係者の家があればその地区の人として参加することもできる。
だから去年は味方だった人が今年は敵であるということはわりと珍しいことじゃないらしい。
「それにしてもあの2人め……こんなところでまで僕の邪魔をするのか!?つくづく忌々しい奴らだな!」
「あ、ははは。お兄ちゃんと皆はなんか仲が悪いみたいだね」
「僕はあんな非常識極まりない奴らは嫌いだ」
「う~ん。でもさ、お兄ちゃんが言うほど悪い人達じゃないよ?」
「確かに悪い人ではないかもしれない。が、常識が欠如している時点で論外だ!」
「お兄ちゃんがここまで怒るなんて珍しいね」
「全く……まぁでも事情は分かった。体育大会では夏峰は敵だ。運動系の種目じゃ全く活躍できないと思うが、頭を使う種目なら僕の出番だ。容赦せず夏峰の地区を潰しにかかるから覚悟しておけよ?」
「ふふーんだ!それはこっちの台詞!勉強・漫画馬鹿のお兄ちゃんに私達4人が結束した力には敵わないんだから!ね!皆!」
……は?
皆?
「当たり前だ!我らとサマーピークの力が合わされば100人力!如何なる者でも蹴散らしてくれよう!主に貴様!」
「勿論ですわ。私達が結束して、敵わぬ敵などこの街に存在しませんわ。特にそこの下僕」
「当然。束ねられた絆の力は万物の理でさえも無力。己が無力を痛感せよ。特に兄君。(冬希さんも頑張って下さい)」
「どっから湧いてきたお前ら!?」
「湧いてきたとは失礼な!人を虫扱いするものではないぞ!我らはどこからでも現れる!」
なるほど。
ゴキブリか。
てかマジでどっから湧いてきた?
「そうですわ。いつもいつもなつほうさんの周りにまとわりついてうざったらしい。あなたなんて死肉に群がるウジ虫ですわ!」
その理屈だと妹が死肉になるのだが。
「……呆れて物も言えない」
それは僕に言ってるのか?
2人に言ってるのか?
「虚無」
……おい。
「お兄ちゃんは今度の体育大会でどんな種目があるのか知ってる?」
「……そう言えば詳しいことはまだ知らないな。どんなのがあるんだ?」
「愚かな貴様にこの石動不動が教えてやろう!」
うわっ。
なんか見た目まんまの名前だな。
頑固で石頭の非常識にはピッタリだ。
未だに何故か偉そうだし。
「まずは運動種目!各地区2チームを作って出場する4×100mリレー!出場選手に制限は無し!次に障害物競走!各地区5名を選出し、その出場選手に制限は無し!次に騎馬戦!各地区より最高4人1組のチームを最高5チームまで出場させることが可能!出場選手は男性のみ!次にタイヤ奪い!各地区より最高10名の選手を選出可能!出場選手は男性のみ!そして運動種目の取りを飾るは4×400mリレー!通称マイルリレー!各地区4人一組のチームを1チームのみ選出!出場選手に制限は無し!以上だ!貴様のその馬鹿な脳で記憶できたとは思えないが、親切に教えてやったワシに感謝するといい!」
ふむ。
運動種目はまとめるとこんな感じか。
4×100mリレー 男女参加可能
障害物競走 男女参加可能
騎馬戦 男性のみ参加可能
タイヤ奪い 女性のみ参加可能
4×400mリレー 男女参加可能
「それでは頭脳種目はこの私、千条院美麗が愚かな下僕にお教え致しますわ」
こいつもまた狙ったような名前と性格をしているな。
こいつらの両親は名前通りの子供に育つよう教育してきたのか?
「まずは定番のイントロクイズ!これは男女どちらでも参加可能で、各地区から2人だけ参加が認められていますわ。次に迷路!これは男女1人ずつ参加して特設された迷路の中を協力して脱出するというものですわ。次に障害物競走!これは先の運動系の障害物と違い、コースに設置されてある問題を解かなければ先に進むことの出来ない競技ですわ。これも男女2人ずつ参加ですのよ。最後はガチの頭脳対決!この街に滞在する教員資格を持つ人を集めて作った問題を解くというもの!これは男女いずれか1人が参加するもの。頭脳系で一番ポイントが高い競技ですわ!……まぁあなたのような低能で無能な下僕には縁の無い話ですわね。今私が話したことでさえも頭に入ってないのでは?オーホッホッホ!」
こっちをまとめるとこんな感じか。
イントロクイズ 男女参加可能
迷路 男女1人ずつ参加
障害物競走 男女2人ずつ参加
頭脳対決 男女どちらか1人が参加
それにしても……
こいつ、千条院とか言ったか?
徐々に徐々に典型的なお嬢様キャラになってきてるな。
最近は流行らないぞ?
そのキャラ。
「終焉」
「そうか」
こいつも他二人に引けを取らない時代遅れのキャラだが、とりあえずいい奴なので許そう。
話も聞き続けているうちに慣れてきたしな。
「ふっふっふ」
「ホッホッホ」
「………………………」
「この大会で優勝するのはワシらの地区!」
「下僕がいるような地区になんて負けやしないのですわ!」
「闘気全開」
「さらばだ!」
「ごきげんよう」
「凱旋」
バタバタと騒がしく2匹と1人が家から出ていった。
……結局あいつらはなんだったんだ!
「なぁ、夏峰?」
「ん?ん?なに、か、な?」
「お前、あれでもあいつらがまともだと思うのか?」
「え、えーとねーあのねーでもねーあのひとたちねーけっこう痛い人ぉぉぉぉぉぉ!!?」
「あぁそうだな痛い人だな!」
「違う違う違う違う!痛いのは私の腕!つねらないでぇぇぇぇ!暴力反対」
「非常識反対!動物を家に連れ込むな!」
「動物じゃないもん!友達だもん!」
「そうか!ならもっとちゃんとした友達を選ぶんだな!」
「お兄ちゃんには関係ない!」
「が、僕には迷惑をかけるのなら話は別だ!」
「にゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」
全く……
この恨みは大会で晴らすしかないな。
だがそれにしても……確かにあいつらの言う通り、僕1人じゃあいつらに勝つことは出来そうにないな。
同じ地区の人もいるけど、多分年配の方ばかりだ。
あいつらのあの機動力に勝るだけの知り合いが同じ地区に居たかな……?
『ピンポーン』
「ん?」
「誰か来たよ、お兄ちゃん」
「だな。ちょっと行ってくる」
「はふぅ……やっと解放された。行ってらっしゃい」
「アホ。続きはまた後だ」
「酷い!?」
『ピンポーンピンポーンピンポーン』
「あぁはいはい!すいません!今開けます!」
誰だ?
こんなに執拗にチャイムを鳴らすのなら、セールスや郵便の類ではないだろう。
流石にあの馬鹿2匹+1人ではないだろうし。
……心当たりがないな。
ガチャりと鍵を開け、扉を開ける。
すると――――――
「ふぅぅぅぅぅぅぅゆぅぅぅぅぅきぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「ぬほぁっ!?」
「お兄ちゃん!」
扉を開けた瞬間、弾丸のように1人の女の子が僕の体めがけて突っ込んできた。
前言撤回だ。
僕はチャイムを鳴らしていた人物に心当たりがある。
多分こいつは……
「久しぶり!冬希!」
「あ、あぁ。久しぶりだな。秋音」
「げっ!秋音!」
「あ、居たの?ネクラ引きこもりゲームオタクのクソビッチ女の夏なんとか峰」
「ネクラでも引きこもりでもクソでもビッチでも無いから!それに夏と峰の間に他の名前も入らないから!」
「はいはい。そのツッコミマジウザい♪」
「もーー!!ホント生意気!」
やっぱりそうか。
こいつは河里秋音。
僕達兄妹のいとこだ。