避難した先には希望の言葉
ズガガガガガガガッ
タァンタァン…!
タタタタタタタタン!
ヒュゥゥゥゥゥゥ……ズドォォォォォン!!!
響き渡る騒音。
反響する銃声。
唸り猛る轟音。
何故だか知らないが、僕はこの現状にデジャヴを感じている。
平和だった自宅が突如として線上と化してしまったような臨場感。
そしてどれだけ耳を塞いでも聞こえてくる騒音、銃声、轟音。
結果として妹はあいつらを止めることはできなかった。
それどころか同調してさらに面倒なことになっている。
この煩さがその証拠だ。
僕はこの煩さから逃れる為に妹の部屋に行き4人を厳しく注意する――ということも考えたがそれは大間違いだ。
もし、これが初めてのことなら僕は注意だけで終わらしただろう。
しかしこれが初めてではない。
それどころか複数回されてきている。
温厚な僕でも流石に怒りの沸点を越えた。
では、注意するのではないのだとしたら何をするというのだろうか?
暴力はご法度。
部屋のドアを思いっきり叩くのも勿論アウトだ。
じゃあ何をするのか?
考えるまでもない。
僕の知る限り、ゲーマーがもっとも恐れるべき事態で、それを意図的にやられれば本気で頭に来ることをする。
僕には経験がないから分からないが、皆さんにはこんな経験がないだろうか?
テレビゲームをしていて後ちょっとのでゲームクリア!という時に雷が落ちて停電してしまったということが…………
『ぬぉぉぉぉぉ!?画面が!?真っ暗に!?何事!?』
『え、あ、いやぁぁぁぁ!!?私の苦労がぁぁ!?』
『我、落胆す。これぞまさにGotohell』
『電源が消えた……?テレビもゲームも?なんで??』
悲鳴や慌てている声が妹の部屋からよく聞こえる。
僕が今やったのは本当に簡単なことで、部屋のすぐ近くにあるブレーカーをちょっとガチャンと落としただけだ。
たったこれだけのことで煩いゲーム音は消え失せ、あいつらの慌てふためく声を聞くことができる。
いやぁ…………
スッキリするなぁ……
とりあえずブレーカーは元の位置に戻しておこう。
そいっ。
『ぬぉぉぉぉぉ!?画面が!ついたぞ!?』
『でも……データはやはり消えてしまったのですのね……』
『これはもしや……天誅……?』
『天誅……?あぁ!もしかして!お兄ちゃん!?』
『なに?あやつがどうかしたのか?』
『あのようなものを兄と呼ばなくてもよろしいのですのよ?』
『失念』
『お兄ちゃんがブレーカーを落としたかもしれない!』
『くっ……!舐めた真似を!』
『一度あのクズにはお仕置きが必要なようですわね』
『同罪……』
ふむ。
思った以上にあいつらは賢いみたいだな。
こんなにすぐに気づくとは。
正直このままあいつらの言い分に応戦してもいいのだけれど多分相当面倒なことになると思うからあんまり相手はしたくないんだよな。
特に筋肉マッチョとお嬢様を筆頭に。
このまま外に避難してもいいんだがどうしたものかな。
『こうなれば志し半ばで消えてしまったジェイクの弔い合戦だ!』
『賛成ですわ!私の麗しきジェイク……』
『ね、皆?もうちょっと冷静になろ?いつもの二人らしくないよ?沙空夜君も何か言ってあげて?』
『ジェイク。それは我らの救世主』
『……皆?』
うん。
妹もなんか対処しきれないみたいだし、別の所に避難した方が良さそうだな。
後は任せたぞ。
~山中工務店~
「こんにちは」
「あら?どうしたの?また何か欲しいでもある?」
「あ、と、ごめんなさい。今日はそうじゃなくて、今ちょっと家に居たくないので来させてもらいました」
「あら~?もしかしてお母さんと喧嘩しちゃった?それとも見られたらまずいものでも見つかっちゃった?」
「違うんです。夏峰が友達?を3人連れてきてそいつら異常なまでに煩くて。礼儀はなってないし、理不尽で、ギャーギャー騒いで煩いし、人の話を聞かなくて、それなのに煩いし、煩いし、煩さくて。」
「……うん。要はその人達が煩くて仕方がないんだね」
「そうです!」
「あっははは!冬希もなんだか大変だね」
「ごめんなさい。迷惑でしたら別の場所に避難します」
「あ、ううん。気にしないでいいのよ。今の時期はお客さんもあんまり来ないから私も暇だし。ほとぼりが冷めるまでここに居ていいわよ」
「ありがとうございます」
……とはいえ、あいつらいつまで家に居るつもりか分からないからな。
あまり希望は持てないが一応妹に電話してみるか?
遊びに夢中なら絶対出ないだろうし、それどころか今家に居るかどうかすら分からない。
あの筋肉馬鹿とお嬢様馬鹿なら僕の後を追って外に出るくらいのことはしそうだ。
そのついでに妹と沙空夜?だったかな?もつられて一緒に。
……それならそれで全然いいんだけどな。
先に僕が家に帰って鍵を閉めればいいだけだし。
はぁ……
どっちにしてもそれが分からない以上はここに居させてもらうしかないか。
「あ、そうだ冬希」
「ん?なんでしょうか?」
「冬希は来月の町民体育大会って出るの?」
来月の町民体育大会……?
もうそんな時期か。
僕達が住む町には町民全体で参加する、いわゆる体育祭のようなイベントが存在する。
わりと大規模なイベントのおかげで中小企業のスポンサーが数多くつき、競技や賞品も充実している為参加する人数はとても多い。
ただ僕は運動が苦手な為あまりこのイベントに参加したことはない。
このイベントは地区ごとに参加したメンバーをチームとして出場し、各地区が順位を競いあうのだがその最後の順位によって得られる賞品が変わってくるのでわりと皆ガチで勝ちにいくのだ。
運動が苦手な僕からしたらたまったものじゃない。
テレビや冷蔵庫、商品券から米、野菜、果物など幅広く賞品は用意されているが、どれも僕の欲しいものではない。
あっても邪魔になるだけ。
毎年似たような賞品だから今回も参加しないつもりでいる。
「いや、参加しないつもりですよ」
「んーそっかー」
「どうかしたんですか?」
「いやさ、今回の優勝賞品に業務用の最新式の電動工具があるからそれが欲しいなって。多分私以外に必要な人はいないし、人数が多ければ多い程優勝しやすいじゃない?だから同じ地区の冬希も参加してくれたらなーって思ったのよ」
できるものなら参加したい。
でも、本当に駄目なんだ。
ちょっとした運動ならいいけどあそこまでガチなイベントについていける気がしない。
学校の体育祭でも一杯一杯なのに。
「ごめんなさい。できることなら参加して少しでも戦力になりたい所なんですけど、運動が本当に苦手なので遠慮させて頂きます」
「あーあー気にしないでいいのよ!ちょっとそう思っただけだから。それに冬希にも利益があるからもしかしたらの気持ちでいたから!」
……?
僕に利益?
「僕に利益とは?」
「ん?冬希、あんた確か漫画好きだったわよね?」
「ええ。よく覚えてますね」
「常連客のことは結構覚えているのよ。……それで、ちょっと待っててね。」
(あれ?どこにやったかな?……ん?つい最近見たような気がするんだけど……)
店の奥へと何かを探しに行く真弓さん。
何を探しているんだ?
(あ!あった!)
「はい!これ。今年の賞品の一覧」
真弓さんが持ってきたのは町民体育大会のチラシだった。
そしてその裏面には今年の景品がズラリと並んでいた。
やっぱり多いな。
これ全部がスポンサーの会社から贈られていると考えると恐れ入る。
勿論その会社の商品の宣伝も兼ねているのだろうが、それでも相当な額にはなっているはずだ。
これでどれだけの利益を得ることができるのかは僕にはまだ分からないが……
逆にマイナスになりかねないと思うのはきっと僕だけではないだろう。
「それでここ。この賞品を見て」
「ん?」
・優勝賞品 図書券5万円
・準優勝以下 図書券3千円
なんだと!
優勝賞品……図書券5万円分だと!
漫画の新刊がどれだけ買えると思っているんだ!?
「でも、冬希は参加しないから関係ないか。他にも本が好きな常連さんはいるからその人に……」
前言撤回。
このチャンスを逃す馬鹿はいない。
「参加します。意地でも参加します。戦力になるように頑張ります。だから他の本好きに声をかけないで下さい」
「勿論♪それじゃ私の方で登録しておいてもいいかな?」
「はい!」
「これで一人戦力確保っと。詳しい競技のスケジュールが決まったらまた家の方に連絡するね。今年は私が地区の代表だからさ」
「地区の代表ってことは……賞品の分配も決めるのも真弓さんですか?」
「ええ。そうよ。勿論独り占めなんてしないし、皆の要望にはできる限り応えるつもりだけど……」
「優勝したら図書券僕に全部下さい」
「そういうと思ったから最初からそのつもりよ。今のところ本に興味のある人は居ないしね。電化製品とか賞品券を欲しがってる人の方が多いわ」
「真弓さん」
「冬希」
「「お互い頑張りましょう」」
来月の体育大会に向けて僕達の間に強固な絆が結束された。
手段は選ばない。
図書券を必ず手に入れてやる!
まずは……
妹を懐柔し、戦力に加えるとしよう。