きっと火星から来たに違いない
「夏峰っ!そっちに行ったぞ!」
「了解!ふふ…くらえ!私の必殺魔法蟲式滅殺放射毒霧!」
「やったか!?」
「待ってお兄ちゃん!まだ近づいちゃ駄目!蟲式滅殺放射毒霧の霧は人間にも害があるの。一度吸えば例え私と言えどもただじゃ済まない……」
「あ、あぁ。すまない」
「ううん。大丈夫。でもこれで『奴』は間違いなく息絶えたはず。これだけまともに喰らえばいかに奴と言えども……!!?なっ!!!居ない!?どこへ行ったの!?」
馬鹿な!
間違いなく『奴』は妹の放った殺虫剤をもろに喰らったはずだ!あれで動けるわけがない!
「お兄ちゃん!上!」
『ブブブブブブブブブ!!!』
「なっ!?くっ!?うぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「お兄ちゃぁぁぁぁん!!!」
☆★☆★☆
僕達は……『奴』……いや、『奴ら』を侮っていた。
『奴ら』は現代の日本という過酷の環境の中で世界のどこよりも俊敏に、そして強靭に今現在も進化をし続けている。
これまで数多くの兵士が『奴ら』を駆逐しようと奮闘してきたが、『奴ら』の進行の手が緩まることはなかった。
それを見かねた日本政府は兵士達による肉弾戦のみではキリがないということで、ついに禁断の科学兵器を開発を開始、3つの兵器の実践投入を決行。
1つは携帯型駆逐機構・通称『殺虫剤』
1つは広範囲密閉空間設置式駆逐機構・通称『バルサ○』
1つは増産型設置式思考誘導捕獲機構・通称『ホイホイ』
しかしこれらの兵器の効果があるのはごく一部という残念な結果に終わった。
原因はそれぞれの欠点であることが判明。
まず殺虫剤だが『奴ら』は速い。
故にトリガーを引くことでガスを噴射し、それを当てることで『奴ら』を駆逐することのできる殺虫剤では命中率が低いのだ。その代わり、一度当てることに成功したら『奴ら』の活動能力は通常の半分にまで落ちる。
即効性があるわけではないので即死!とまではいかないが。
勿論そこまで落ちればもう勝敗は決したようものなのだ。
次にバルサ○。
これは設置式の兵器で、地面に設置してからボタンを押すことでガスを噴射する仕組みとなっている。
一度起動させれば容器の中にあるガスを全て噴射する使い捨ての兵器だ。
使い捨ての兵器だけあって威力は抜群だ。
しかも局部だけでなく、家全体を攻撃できる為、能力的には最強と言えるだろう。
しかし、その強さ故に欠点は数多く存在する。
まず、この兵器の使用中は家の中に入ることはできない。
バルサ○がガスを噴射しきる約一時間もの間、外で手をこまねくしかなくなるのだ。
勿論追撃なんてできやしない。
そして家のドアか、窓、外へと通じる入り口を解放してしまっていたらそこからガスが漏れ出し、威力は半減してしまう。
何よりもそこから『奴ら』が逃げ出すなんてこともありうる。
完全な密閉空間でないと真の威力を発揮しないのだ、
最後の兵器、ホイホイ。
これもバルサ○同様設置式の兵器だ。
違うところと言えば、この兵器はガスを噴射しない。
形状は長方形の箱型が殆どで、箱の内部は強力な粘着材を使用。そしてその中央に『奴ら』が好き好む食糧を設置し、両側に空いている穴から『奴ら』の食に対する欲求に訴え、誘き寄せるこで粘着材で捕獲するというものだ。
安価で誰もが扱える最も危険性のない兵器。
その安全性故に、直接この兵器を『奴ら』との肉弾戦に持ち込んでも『奴ら』を倒すことはできないという欠点が存在する。
あくまでもこの兵器は一部の馬鹿な『奴ら』を駆逐することにのみ特化したものなのだから。
以上の原因の為、これらの兵器は足止め程度にしかならない。
それどころか下手をすれば自分達にまで被害が及ぶ始末。
結局は、自らの体を兵器とすることでしか身を守れないということが証明されただけだった。
それでも無いよりはましであるというのは間違いないことなのだが…………
せめて『奴ら』もこの兵器のことを恐れてさえくれれば……!
つい先日も隣に済む家族が居住区と兵糧を攻められ大打撃を受けている。
そして今日の『奴ら』のターゲットは隣家である僕達の住む家だ。
……クソっ!
どうしてこんなことに!
あの時!
あの時僕がちゃんと周囲に気を配っていればこんなことにはならなかったのに!
事の発端は一時間程前に僕がいつもと同じように自室で漫画を読んでいた時だ。
少し室内が暑いかな?
そつ思って窓を開けてしまったのが運のつき。
窓を開けた数分後に『ブブブブブブブブブ!』という異音と共に『奴ら』は僕の部屋に入ってきた。
初めは僕も一人で殺虫剤を片手になんとか奮闘した。
しかしその奮闘も虚しく、全ての攻撃をかわされてしまい戦意を喪失してしまった。
しかもあろうことか『奴ら』は僕の大切な漫画の上を歩きやがったのだ。
流石に僕の怒りも怒髪天に達する。
けれども十数分の戦闘で僕一人では対処しきれないと判断。
向かいの部屋に居る妹に支援要請をする。
初めはやりたくないと言っていたが、このまま駆逐できないとお前の部屋に行くかもしれないぞと言うと今のうちに倒しちゃうよ!と、率先して戦場へ赴いてくれた。
後は冒頭の繰り返しだ。
何度も追って、何度も攻撃して、全てを避けられる。
その動きは一度火星に送られてから地球に戻ってきたのではないかと思うぐらいに俊敏だった。
今にも進化して「じょうじょ」と言いそうで恐い。
これからどうしたものやら……
☆★☆★☆
「あ、危なかった……!」
「大丈夫お兄ちゃん!?」
「なんとかな」
まさか僕の顔をめがけて飛んでくるとは……!
醜悪なあの姿が眼前に迫った時は死を覚悟したぞ!
「それで『奴ら』はどこに行った?」
「上」
妹が天井を指差すと、まるで僕らを見下すような形で二匹の『奴ら』が天井に張りついていた。
……くっ気持ち悪い!
一時も早くどうにかしたいが殺虫剤はまず効かない。
当てれば効果はあるが、即効性ではない。
かなりの量を浴びせなければ即死とまではいかない。
何よりも本当に殺虫剤のガスは人体に毒なのであまり室内でばらまきたくない。
即死級の威力があって、あまりガスのように広がらない兵器。
そんな物がないかと模索していると、1つの案が浮かんだ。
「夏峰、お前確か水鉄砲を持っていなかったっけか?」
「ん?うん。持ってるけどそれがどうかした?まさか水を当てて撃ち落とすとか言わないよね?」
「夏峰にしては頭が冴えているじゃないか。その通りだよ。1つ試したいことがあるんだ。水鉄砲を持ってきてくれ。それと、玄関に置いてある『アセトン』もな」
「……?分かった」
殺虫剤はほぼ効果がない。
当ててもすぐに逃げられるだけ。
何よりも当たらない。
バルサ○は使えない。
両親が下の階にいるから。
ホイホイは意味がない。
仕掛けた直後に引っ掛かってくれるならこんなに苦労はしない。
この三つの兵器が使えないのなら、僕は四つ目の兵器を使用する考えに至った。
それがアセトンだ。
アセトンには虫を駆逐するには充分な毒性を持っていると漫画で読んだことがある。
とある研究室の人間は『奴ら』が研究室内に出現したらアセトンで駆逐すると話していた。
しかも当てたらすぐに効果が現れるというのだ。
これはもう是非とも試してみなければならない。
流石にアセトンを素手ですくって『奴ら』にぶちまける訳にはいかない。
慎重に狙いを定め、なおかつ確実に着弾させるのならば水鉄砲が一番適任だと言える。
我ながらよくできた戦法だと思う。
とうとうこの長き戦争に終止符をうつ時がきたのだ。
「はい。お兄ちゃん。アセトンと水鉄砲。でもアセトンはこれで最後だよ。この前私がこぼしちゃったからあまり量がなかったんだ……」
「気にするな。一発で仕留める」
恐らくこの量だと数発も撃てば残量はゼロになるだろう。
だがそんなことは問題ではない。
集中しろ……!
天井にいる『奴ら』に一子報いてやるんだ……!
狙いを定める。
こんな時こそゴーグルがあれば最高の集中モードに入れるのだが、無いものをねだってもしょうがない。
「自分の感覚を信じて!お兄ちゃん!」
動くなよ……
動くなよ……
……………………………………!
今だ!
☆★☆★☆
「お、お兄ちゃん……」
「何も言うな。夏峰。こうなることは想定済みだ」
僕の放ったアセトンは見事『奴ら』に命中。
しかし、その余波で飛び散ったアセトンが僕の漫画に付着。
シンナーのきつい香りが染み付くことになってしまった。
これの臭いばかりは時間に任せて取れるのを待つしかないだろう。
そして撃ち落とした『奴ら』の死骸は、同じように僕の読みかけの漫画、最初に『奴ら』が歩いていった漫画の上に綺麗に二匹とも乗っかった。
漫画の状態としては読めるが、二度と読みたくない。
買い直す必要があるな。
全く……
とんだ災難だ。
「でも……これで終わったんだね」
「あぁ。これで終わった。長い闘いだった」
現実的には一時間と少しだが、体感的には一ヶ月程闘っていた感じがする。
それだけ『奴ら』が手強かったということだろう。
「さ。それじゃ後片付けしよっか」
「そうだな。早いとこ片付けて漫画を買い直しに行くとしよう」
『カサッ』
「あ、本屋に行くなら新しい攻略本買ってきてくれない?」
「断る。なんで僕がパシリに使われなければいけないんだ」
『カササッ』
「え~いいじゃん別に。ついでついで♪お金は出してあげるからさっ」
「当たり前だ馬鹿。……まぁ買ってきてやらないけどなっ」
「やった!ありがとうお兄ちゃん!」
「話が噛み合ってないんだが!?」
ここで僕は二回目の失敗を犯すことになる。
僕は『奴ら』を倒したことで完全に安心しきっていた。
と、いうよりは頭になかったのだ。
別の『奴ら』が更にこの部屋に訪れるなんて。
『ブブブブブブブブブ!』
「え?」
「ん?」
『ブブブブブブブブブブブブブブブブブブ!!!』
「うぉぉぉぉぉぉ!!?」
「きゃぁぁぁぁぁ!!?」
ちゃんと窓を閉めていれば『奴ら』が入ってくることはなかった。
初めも。そして今も。
『奴ら』はどこにでも生息している。
どこにでも進入してくる。
こうして僕達の本日二回目の戦争は、それから約二時間に渡って繰り広げられた。
僕は改めて実感する。
『奴ら』の……
ゴキブリの恐ろしさを。
なんだか変な話になってしまい申し訳ありません(笑)
物語に若干関連性が前々回程前からなくなってきてしまっていたのでなんとか関連性を持たせようとしましたが大いに失敗してしまったみたいですねっ汗
書き方が迷走中ですが、漢字間違い、文章の指摘、感想等がありましたら是非ともよろしくお願いいたします!