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1000文字小説

ホワイト・デーにて

作者: 池田瑛

 私は、お返しのクッキーを貰った。

 バレンタインデーには、手作りのチョコを渡した。もちろん、区分で言うなら、大本命チョコ。それも、誰にでもチョコを配る女の子って思われたくないから、今年はギリを誰にも渡してない。あ、お父さんにはあげたけど、それは別腹ってことで。 


 「あ、これ、お返しね」と言って、彼は茶色い紙袋を私の机の上に置いた。


 彼は、右手を後頭部に回して自分の髪を摩っている。彼の照れくさい時にする仕草だ。

 季節外れの桜が咲いた気分。


 ・


 昼休み。私は彼の後を追いかけた。お返しも貰えたし、私の気持ちに彼が応えてくれていたような気がしたから。ホワイトデーに女からの告白というのも変だけど、はっきりと告白しようと思った。


 ・


 私は、儀礼的に「お返し」を貰っただけだと知った。私が貰ったのは、既製品のクッキーだった。

 昼休みに、彼があの子に渡していたのは、ネックレスだった。彼が、自らあの子の首に付けている所を見てしまった。ピンク色。Vivienne Westwoodのエムブレムのオーブだ。遠くからでも分かる。私も欲しと思っていたから。

 

「そっか、彼女いたんだ。知らなかったよ」と、私は独白。


 ・


 昼休みに、何も食べれなかった。


 午後の古典の授業で、先生が百人一首を板書していく。



「今はただ思ひ絶えなむとばかりを


  人づてならでいふよしもがな」

              

             左京大夫道雅


「『今はただ』というのは、「今となっては」という意味だ。次の、『思ひ絶えなむ』の助動詞、説明できる奴いるか? 助動詞は2つ使われている」


 彼が、挙手をした。彼は、文武両道。もちろん、顔も良い。先生に指名されて、彼は立った。横顔が凜々しくて困る。


「『な』は完了の助動詞『ぬ』の未然形です。『む』は意志の助動詞の終止形です」


「正解だ」と言いながら、先生は彼の言ったことを板書し、「ついでに、上の句、現代語訳できるか? 」と言った。


「『今となっては、あなたへの恋をあきらめてしまおう、ということだけを』です」


「それでいいな。『と』は引用の格助詞だが、現代でも使われているな。『ばかりを』だが…… 」


 先生は、彼の訳した現代語訳の文法的解釈を続けて言った。


 私は、眠くならない古典の授業というのを、この日、初めて体験しました。泣いちゃうような授業を受けたのも、初めてでした。

ご感想、ご指摘お待ちしております(古典の文法的な間違い等は、ご勘弁を)。

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