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ジェイ・ライアン。それが俺の名前のようだ。
いや、俺の名前じゃねぇだろ。
ってか俺外人じゃねぇし。
色々わかったことがある。
まず俺はジェイなる人物と間違われているらしい。
そしてジェイなる人物に申し訳ない事をしたと俺は思っている。
なぜなら俺のせいでジェイなる人物はギルドの酒場店主ジェーンの婚約者になってしまっていたからだ。
3日前、俺が食逃げの汚名を有耶無耶にするために口走ったプロポーズ。
それを実直に受け止めたおばちゃん事ジェーンは俺に3つの条件をつけた。
いや、結婚とかしたくないんだけど…
1つ、ジェーンより強くなること。
男たるもの、妻より貧弱では頼りにならないとの事だ。
1つ、ジェーンより稼ぐこと。
男たるもの、一家の大黒柱として一家を支えられるだけの金を稼げとの事だ。
自分より稼ぎの少ない男など御免だ、と言われた。。。
1つ、ジェーンより偉くなること。
男たるもの、妻より身分が低いなどありえないとの事。
ジェーンはギルドに併設された酒場の店主であり、一応は下級貴族なんだとか。
つまり、ジェーンが言いたいことは実力をつけろって事だと思う。
腕っ節、金、権力。
簡単に言えば、彼女から突きつけられた内容はこれだ。
どんだけ業突張りなおばさんだよ!
条件というよりもジェーンの結婚条件をそのまま条件にしたような内容になっているのだろう。
彼女の結婚する条件が如何せん高すぎるように思うのだが、俺にはそれは好都合というものだ。
結婚する気があるなら、厳しい条件だが、結婚したくない俺からすればまさに好都合。
ほぼ実現不可能だし。
そんなことよりもだ。
ここは地球じゃないという事が判明した。
冒険者ギルドなんてまず地球にはないし、魔物なんていう凶悪そうな生き物もいるらしい。
うん。
町から一生出ないで暮らそう!
俺は心の中で固く誓った。
そして俺は今、生きるために労働をしている。
所詮は最低ランクのお使いクエストである。
庭に伸びた雑草の草むしり、それが俺の仕事だ。
何年ぶりかの肉体労働の割りにそれほど疲れは感じなかった。
さすが俺!
余裕ですね!
依頼を完了し感無量。
冒険者ギルドに報告をしてお金をもらう。
今日の稼ぎは2000ギル。
最安値の宿でも3000ギルはするからして、お小遣い程度の稼ぎでしかない。
だが焦る事はない。
宿に止まる必要などないからだ。
俺の寝床はすでに確保されている。
そう、おばちゃん事ジェーンの家だ。
一様は婚約者となっているので、世間的にも問題はないらしい。
今のところ快適な生活である。
ギルドで金を稼ぎ、ジェーンの家で寝る。
朝起きて、ジェーンのご飯を食べギルドに赴く。
うん、充実している。
ってちょっと待て!!
どこかの夫婦みたいじゃねぇか!!
少しずつ馴染んできてしまっている事実に俺は愕然とした。
やばいぞ…ここままじゃいかん!
どうにか一人で宿を取り生活できるくらいにはならなくてはならない。
でなければ、おばちゃんとの結婚コースまっしぐらな気がしてならない…
町の中で出来る仕事では収入に限界があるのもまた事実だ。
だがしかし、外は魔物なる危険生物が闊歩している危険地帯だ。
そうだ、外には出ない!そう誓ったではないか!
いやいや、そうすると収入が…でも外は危険で…
いや待てよ?
俺は妙案を思いつく。
一人でやる必要なんてないじゃないか!
そうだよ!
何で気が付かなかったんだ!
外は危険極まりない。
しかしそれは俺単体での話だ。
できるだけ強いやつを見つけて一緒に依頼をこなせばいいじゃないか!
よし!
やるべきことは決まった。
ならまずは、強そうな奴に片っ端から声を掛ける必要がある。
俺のようなよわっちぃ奴と依頼を共同で受けようとする物好きなどほとんどいないからだ。
だってそうだろ?
よわっちぃ奴を連れて、足手まといになったら自分が危険になるってもんだ。
俺なら金を積まれても連れて行きたくもない。
覚悟を決めて、俺は冒険者ギルドの戸を開き、開口一番大声で宣言した。
「俺と一緒に依頼を受ける強者は、いるかぁあああ!?」
その大音声にギルド内にいる皆の視線を浴びる。
あ、やりすぎたか…。
いやいや、これくらいやらんといかんよね?
だってインパクトって大切でしょ?
…そうだよね?
…だよね?
…ね?
しーん____
まじか、なんかやべぇ空気になった。。
俺が戦々恐々としている中、次第にざわざわと話し声が聞こえてくる。
「おい、あれ血塗れジェーンにプロポーズした命知らずだろ?」
「ああ、あいつはやべぇよ…ジェイっていやぁ今まで小心者で有名だったけどよ、ジェーンがまんざらでもないって事はよ、今までの演技だったって事だろ?」
「ああ、間違いないよな、ジェーンは強い奴しか認めねぇもんよ」
「てことはあれだろ?ものすごい高ランクのクエスト受けるとかそういうことか?」
「だろうな。。。俺らには無理だろ。。。」
おいおい、待て待て。
なんでそんな話になんだよ!!
俺は、もっとかわいい感じのクエストをほんわかした感じで護衛よろしくしてもらって、横から報酬を掠めとっ…
「お前がジェイか、ジェーンの奴が認めるって事はお前相当やるって事か。いいだろう、ちょうど俺らもクエスト行く所だ」
て、ていう感じでちょっと腹黒い考えもあるけどな。そんな高ランクの依頼を受けようなんて気はサラサラないぞ。というかだな…
「おい、聞いてんのか?」
血塗れのジェーンってなんだよ!あのおばちゃんどんだけ怖いことしてきたわけ?やばい、帰ったら顔見てちびりそうだ。
「おい!」
ああ、さっきからなんなんだよ。
人が考え事しているっていうのに!
ああ、、うるさいな!
「うるさいな!」
思考の波に飲まれていた意識を浮上させるとそこには、青筋を浮かべた筋肉隆々の大男が佇んでいた。
え?
なんでこんな状況になっているかジェイには意味不明だった。
思考が言葉として出ている事にジェイは全く気が付いてはいなかった。
未だ、しーんと静まり返っているギルド内ではざわざわと小声で話す声がやけに耳に響いた。
「おい、今あいつ竜殺しのウィストンにうるせいって言ったぞ」
「ああ。あいつ頭のネジ吹っ飛んでやがるぜ」
「いや、竜殺しと対等な実力を持ってるからこそ、あんな堂々と言えるんだと思うぜ?」
「確かにな。あいつの実力はまじでやばいかもな。。」
いやいや、だからさなんでそうなんの?俺弱いよ?めっちゃ弱いよ?
RPGだったら初期の雑魚モブに軽く捻られちゃうくらい弱いよ?
今にも襲い掛かってきそうな目の前の筋肉マッチョに戦々恐々としながら、頭の中で突っ込みを入れていた。
そこに横から助け舟が出された。
「ウィン、ここはギルド内だ。それにこいつはジェーンが認めるほどの男だぞ?それに…」
頭にバンダナを巻いた赤毛の男がウィストンをなだめるように二人の間に割り込んだ。
「こいつは、ジェーンを超えなくちゃならない理由をもっている」
重々しいその言葉にウィストンだけではなく、ギルド内が驚愕した。
どれほど壮大な使命をこの男は背負っているのか、そんな視線がジェイに向けられる事になった。
は?
一体、なんのことだ?
ジェイは絶賛混乱中だった。
だがバンダナの言葉は続く。
「お前に超える覚悟はあるか?」
どこか懇願したような彼の視線に俺は状況を即座に理解した。
バンダナの相棒であろう大男が暴れるのを阻止するべく動いた彼からのメッセージ。
それは、話を合わせろという事だ。
そして俺は彼の意図どおりに即答した。
「ある!」
即答したことに少し驚いたかのような反応を見せるバンダナ。
演技派だな、俺はその演技に感心した。
「そうか、では共にクエストをこなそう。出発は明朝」
「わかった」
それだけいうとバンダナはウィストンに目配せをして、二人はギルドから出て行った。
ふぅーと息をつく。
そして俺はバンダナに深く感謝するのだった。