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きっとまた、私は君に恋をする

作者: 夏臣
掲載日:2013/05/17


 私は神様です。



 自分に“様”とかつけるなよ、とか思った皆さん、でも


 「私は神だ!!」


 とか言うほうがイタくないですか?ていうか、可愛くないです。




 可愛さは、とっても大事です。


 なぜなら、私は今、恋をしているからです。


 それはもう、熱烈に激しく、恋をしています。なんせ彼に出会うのは、凡そ100年ぶりですから。







 私には、とてもとても愛した人がいました。


 でも、人の一生はとても短いです。


 人は死ぬと魂となり、魂は百年の時を廻り、次の人生を始めます。


 でも、私は彼を愛して愛して愛し過ぎて、手放したくなくなって、傍に置くためにその魂を一度、食べてしまいました。


 体内に取り込んで、これで永遠に一緒だと、100年くらいは幸せでした。


 でもそのさらに100年後、気付いてしまいました。




 これでは独りと何も変わらないと。




 彼の声を聞くことができない。


 彼の瞳に私を映すことができない。


 彼の腕の温もりを感じることができない。


 彼とキスをすることができない。


 彼と夜のアレコレをすることができない。





 私は、彼の魂を手放すことにしました。


 彼だとすぐに分かるように、印をつけて――








 

*****




 今、私は現世に来ています。


 愛する彼が“学校”という建物から出てくるのを待っているところです。


 ちなみにこの“学校”という建物に、私は入ってはいけないそうです。


 彼曰く、「ブガイシャだから」だそうです。意味は分かりませんが、でも大人しく彼の言うことを聞いています。


 ちなみに、今の彼は14人目です。


 容姿は、中の上といったところでしょうか?


 背がひょろりと高くて、手足が長くて、猫背です。

 髪は耳をすっぽりと覆うほど長く、白目がちな目は愛嬌があります。


 と、思っていたら、愛しの彼が出てきました!


 彼です!

 あの、他の人より頭一つ大きくて、眉間に皺を寄せてせてこちらを睨んで――いますね。


 どうしたのでしょう?


 なんだか機嫌が悪そうです。



 彼は他の人より長い足を有効活用して、あっという間に私の傍までやってきました。


 「何やってんだよ」


 ボソッと、でも怒気を含んだ声で彼が聞いてきます。


 何、と言われても……


 「君を待っていました」


 としか答えられません。


 彼はプイと横を向くと、どこか拗ねたように言います。


 「何も校門で待たなくてもいいだろ?すげー目立ってるぞ」


 コウモン(?)で待っていたのがいけなかったのでしょうか?でも目立つような行動はしていません。ただぼーと彼を待っていただけです。


 「少しでも早く、君に会いたかったんです。ここならすぐに、君を見つけることができるでしょう?」


 逸らされた瞳を追って、私が下から覗きこめば、彼は顔を赤く染めています。


 「……恥ずかしいヤツ……」


 それは大変です!


 「わ、私、恥ずかしいですか?!どこが恥ずかしいですか?!言ってくれれば直します!」


 思わず詰め寄った私に、彼は狼狽します。そんな表情も可愛いです。

 彼は大きな手でグチャグチャと私の頭を撫でると、


 「……行くぞ!」


 私の手を取って、歩き出します。


 繋がれた手の温もりが、とても心地良いです。


 ……彼の歩くペースが少し速くて、私は小走りになっていますが……

 もう少し紳士的な行動ができるようになればいいですね。

 でも、手を繋いだだけで耳を赤くするほど彼は初で幼いですから、今日のところは許してあげます。


 ふと、真っ赤になった耳の下のうなじに、私がつけた印を見つけてうっとりしてしまいます。


 見るたびに、彼が“彼”だと分かって、無性に嬉しくなるのです。


 私の視線に気付いたのか、彼がこちらを向きます。


 「何だよ」


 「それ」


 そう言って私が手を伸ばせば、彼は何について言っているのか気づき、心底嫌そうな顔をします。


 「笑っていいぞ」


 「何にです?」


 「これ」


 そう言って、彼は印を指さします。


 でも、私はますます訳が分かりません。なぜ、私たちの愛の印を笑うのでしょう?


 私が怪訝そうな顔をしていたからか、彼は溜め息をつきます。


 「……可笑しいだろ?男なのに、こんなハート型のアザ……今までどれだけこいつでからかわれたか……」


 そう。

 彼のうなじには、ピンク色のハート型のアザがありました。もちろん、付けたのは私です。


 ていうか、何ですって?!


 「少しも可笑しくなんてありません!!どこのどいつです?そんな罰当たりなこと言ったのは!私が罰を与えてやります!!」


 私たちの愛の印に、なんてことを!!

 絶対に許せません!!

 怒りで髪が逆立ってしまいそうです。



 私のあまりの怒りっぷりに、彼が驚いて目を見開いています。


 「い、いや、お前、暴力はいけないぞ」


 そんなこと、するわけないじゃないですか。


 「私は神様ですよ。そんな無作法なことしません。そうですね……明日あたり、君をからかった人たちに犬の糞でも踏ませましょうか」


 私たちの間に沈黙が流れて。


 プッ、と隣で彼が吹き出します。


 「……何笑ってるんですか?私は本気ですよ?」


 「いや、だって、おま、神様なのに、犬の糞?!権限小さっ!」


 「……じゃあ、交通事故にでも遇わせればいいんですか?」


 「いや、そこまでのことじゃないだろ!」


 そんなことはするなよ!と言う彼を見て、安心します。

 “彼”たちはいつも他人の不幸を望んだりしないのです。


 「……別に、死んだりはしませんよ」


 「生死の問題じゃないだろ」


 「いえ、そうではなく」


 彼は首を傾げます。

 私の言わんとすることを、図りかねているのでしょう。


 「神様にも、できないことはあるんです」


 「……へぇ……例えば?」


 「その人の人生の主軸に関すること――例えば、私は人を殺めることはできませんし……生かすことも、できません」


 チクリと、胸が痛みました。

 でも、顔には出さないように努めます。


 それでもやっぱり、彼の顔を直視することはできなくて、私は先を歩くことにしました。





 「じゃあ、俺は死ぬ間際に、神様に救いを求めたりはしないことにする」





 後ろから、私を包むようにあがる、彼の宣言。

 静かで、でも強い意志を感じさせる声でした。


 足を止め、思わず振り向いた先にあったのは、とても、とても優しい、笑顔でした。


 労るような、愛しむような、慈しむような、そんな表情に、私は心を奪われました。


 彼は私の前に来ると、笑顔と同じくらい優しく、私の頭を撫でてくれました。



 トクン


 トクン


 心臓が跳びはねる音がします。


 カアッと、顔が熱くなります。


 久々の、感覚です。



 「ま、何十年も先の話しだけどな」


 ニカッといつものイタズラっぽい笑顔を見せると、彼は私を置いて歩いていきます。



 遠ざかっていく背中を見ながら、私は切なさで胸が苦しくなりました。





 だって、何十年も先の話ではないから。





 彼の寿命は、あと3年。





 神様である私にも変えることのできない、彼の運命でした。



 あと3年で彼は死に、私はまた100年、彼が生まれ変わるのを待つのです。




 100年後、生まれ変わった彼は――



 私のことなど覚えていなくて……


 名前も容姿も性格すらも変わっていて……


 “彼”だと分かるのは印だけで……





 でも





 きっと、私は君に恋をする。






 そんな確信がありました。


 だって、14番目の君も、他の13人の“彼”たちも、皆、愛したから――





 きっとまた、私は君に恋をする。






 置いてくぞ、という彼の声が聞こえます。

 置いていかれたら大変です。


 「待って下さい!」と言いながら走る私を、彼は笑いながら待っていてくれます。


 きっと、明日も明後日も、彼は待ってくれるでしょう。






 3年後のその日まで、ずっと、ずっと――

 


 









読んで頂いただき、ありがとうございました。

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