収集3
同日午前八時四十二分 東京都某空港 第一待合ロビー
空港の中央ゲートには、スーツケースをもったサラリーマンがちらほらいるだけで、長期休暇ほどの賑わいは感じられない。
平日だから当たり前なのだが、こういう時は居座りにくい。
定期的に巡回にくる警備員に睨まれるのは慣れているが、声をかけられると面倒だ。
サンヤは少し警戒しつつ、待合ロビーの目立たない隅っこのソファに座っていた。
「ふぅ…来るわけないって。」
長時間座っていることにさえ疲れを感じて、一度立ち上がり自販機に向かう。
大体、世間一般じゃ、今は勉学に励む時間帯だ。
あんな、普通の女子高生が空港にいるなんてありえない。
そう考えながら、自販機に金をいれ、いつものボタンをおす。
出てきたオレンジジュースを手に取ると、すぐに飲み干した。
「ふーっ」
一息着いた所で、待合室に戻ろうとしたが、戻っても暇なだけだと思い、怪しまれない程度にブラブラすることにした。
出張にいくのか、サラリーマン風の男が小さめのキャリーバックを持って、国内線の受付に向かっていく。
それ以外も国内線受付に向かう者が多く、国際線受付は閑散としていた。
平日の空港は寂しいもので、海外に向かう者も、帰って来る者も少なく、ぱっとしない。
「…あー、暇だ。」
最近は面白い情報も無いし、海外からくる大御所も無いので、売る情報もなければ買う依頼人もいない。
「…そもそも、俺の本業は夏休みとか、冬休みとか、ゴールデンウイークなんだよなー。ホントに、平日は違う所行こうかねー。」
と、独り言を呟くが、俺は知っている。
こういう平和すぎる場所には、思わぬビックニュースが紛れているものだ。
すると、調度目の前に見えてきた到着ゲートの電光板が、せわしなく光りはじめた。
飛行機が到着した合図だ。
「韓国からの到着便か…」
電光板に書いてあるその名前を見て何か感じるものがあった。
長年ここに居座っているのだ、勘が働いたのかもしれない。
ビックニュースの予感だ。
おもむろに、到着ゲートのすぐ側の自販機で、迷うふりをして様子を伺う。
暫くしてから人が出てきた。
人数は少なく、ほとんどがサラリーマン風の男だ。
「…ハズレか?」
そう思い、ため息をつきかけたが、すんでの所で止まった。
(今の…)
黒いスーツケースを持ち、黒いハットを深く被った若い男。
サラリーマンばかりの乗客のなかでは少し浮いた格好だか、存在感がまるでなく霧のような雰囲気。
自らそうしているような、そういう違和感があった。
(なんだ…?)
堅気では、なさそうだが、危険な臭いはない。そう見せてるだけか?
ともあれ、暇を持て余すサンヤには恰好の玩具だ。
男は足速に中央出口に向かった。後から注意して尾行する。
そして車の停留所に暫く居たが、一台の黒い外車が来てそれに乗り込んだ。
「新宿ナンバー、な 十五の四十六・・・と」
男が車に乗って走り去った後、車のナンバーを手にメモした。
そしてすぐに携帯を取り出し、人目に着かない場所で電話をかけた。
ワンコール、ツーコール、
なかなかでないがいつもの事だ。
『もーしもーし?』
ようやく出たと思ったら、欠伸した後のような、気の抜けた声が聞こえてきた。
「キュウか?サンヤだ。」
『どうしたの?』
「新宿ナンバー、な 十五の四十六。このナンバーに覚えないか?」
キュウは記憶力が良く、細かい事を良く覚えている。
その能力をかって、情報堂にスカウトしたのは、俺だ。
『あ、永地組の幹部の車だね。黒い外車でしょ?』
「永地組…!?まぢかよ…!」
『え、どうしたの、サンヤ?』
「おい、永地に若い男の幹部なんていたか?」
キュウは、少し間をあけて、
『永地組の幹部って、みんなおじさんだと思ったけど…』
「なるほど…サンキュー。じゃ、」
そのまま電話を切ろうとしたがキュウに引き留められた。
『ちょ、おい!まさか、永地の車が空港にあったの?』
「ああ。」
『でも、今回の事には関係ないかも…』
確かに、関係はないかもしれない。
新しい幹部が韓国から帰国したというだけの事かもしれない。…だか…
「もし、関係あるなら…面白いよな。」