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プロローグ2

同日午前六時三十分 情報堂会議室


「あ。おはよーナナセくん。」


会議室の重い扉を押し開け、期待を膨らませていた僕の耳に、平和の象徴とも言うべき、間延びした声が聞こえてきた。


「おはようございます、ヨツバさん。」


声の主はヨツバさん。半円の形をした長いテーブルの中の真ん中あたりに着席している。

彼も、この情報堂で働くメンバーの一人だ。

彼がここにいるということは、今回の依頼にあたるのだろうか。

だとしたら、この依頼、相当なスリルを味わえそうだ。


「ボスはまだみたいですね。」

胸の中で沸騰寸前まで高まっている期待を隠すように、僕は言った。

そして、半円卓の中心・・・丁度、全ての席を見渡せる位置にある、白いデスクに目をやる。

それは、茶色でアンティークにまとめられているこの部屋で、一際白く、神々しくも見える。


「まだ全員集まってないしー、重役出勤かなー。」

そう言いながら、ヨツバさんはテーブルに突っ伏した。


こうして見ると、隙ありまくりのヘタレにみえるが、自分の素顔を隠す仮面の様にみえなくもない。

ヨツバさんは情報堂のメンバーの中でも特に素性がわからない。

僕が彼について語るとするならば、かなりの美形、若い男性、細身、そのくらいじゃないだろうか。黒い髪はどこか人工物を思わせる色だ。 染め直したのか。

しかし、彼にはその色が恐ろしいほどよく似合っている。

いつもヘラヘラしていて、考えていることもよくわからない、掴めない人。

敵には回したくないが、味方だと心強い。


「でもー、今日はなんのようかなー?」

そういって、また笑った。 

「さあ、新しい依頼とかでしょうか?」

「それにしては、対応が豪華だよねー」

対応が、豪華。 そんな言い回しするのは、彼ぐらいだろうと思う。

これも彼の仮面のひとつかもしれないと思うと、なぜだか心が高ぶる。

「どういうことですか?」

僕にはまだその仮面の意味がわからないので、意味を問う。

すると、彼は楽しそうに、無邪気に笑いながら答えた。

「今まで、全員が召集された依頼なんてないでしょー。」

「え!?全員召集されてるんですか?」


一瞬、嘘なんじゃないかと思ったが、そんなことをしても何の得もない。

今まで、いくつもの依頼をこなしてきたが、大きな依頼でも、多くて五人編成での受諾だった。

僕よりも長くここで働いているヨツバさんにも初めてだというのだから、なにか相当な事件なのか?

なるほど、確かに、豪華な対応・・・だ。


「まだ来てないけど~、そのうちキュウちゃんが、みんなを呼んでくるんじゃないかな~。」

そう言った直後、会議室のドアの向こう側から、なにやら足音らしき音が聞こえてきた。


「なんか、わくわくするよねー」

その言葉に、心の中で同意しながらも、それを見せまいと必死に表情を作り、

「変なことじゃなければいいですけどね。」

そう言って、「7」と書かれた透明なプレートが置かれた、自分の席に座った。


暫くすると、会議室のドアがゆっくりと開いて、ほかのメンバーが入ってくる。

本当に全員召集されている事を感じると、胸の中の期待は最高潮まで達した。


「あ、ナナセくん。おはよ。」

突然話しかけてきたのは、今入ってきたイツキリさんだった。


彼女はメンバーの中でも数少ない女性だ。

茶色のショートボブと、大きな目、小さな鼻と口は、どこかウサギを思わせる。

第一印象では十八歳くらいに思っていたが、二二歳だという。


「おはようございます、イツキリさんも招集されてたんですね。」


情報収集を専門とするイツキリさんは自ら依頼に当たることは少なく、各方面で情報を収集し、僕らに提供している。

時たま、僕らでも知らないような情報を仕入れてくれるので、よく協力してもらっているのだ。

その彼女も、今回は自ら依頼に当たるということなのだろうか。


「依頼なんて久しぶりだなー、いつもは情報集めだけしかやってないから、困ったときは助けてね。」

イツキリさんはそう言って「5」のプレートが置いてある席に座った。


「あ~、ロクサー、おっはよー。」

ヨツバさんが声をかけたその先には、たった今ドアを開けて入ってきたロクサさんの姿があった。

「・・・」

ロクサさんは、ヨツバさんを無視して、僕の隣の席に座った。

それを見て、すかさずヨツバさんがちょっかいを出しにくる。

「おいおい~、なんか反応見せろよー、切ないな~。」


この二人とはよく一緒に依頼を受けるが、いつもこんな風にしていて兄弟のようだ。

ロクサさんは、ヨツバさんと同等か、それ以上に端正な顔立ちをしている。

綺麗なブロンドの髪を少し長めに伸ばし、形が崩れていることはない。

瞳は蒼く、いつもスマートな眼鏡をかけている。見た目は外国人だが、日本語はわかるらしい。もっとも、無口なので、喋れるのかどうかはわからないのだか。


「・・・」

ロクサさんは、頬をツンツンと突かれ、子守に疲れた母親のようなため息をひとつ吐き出した。


この二人は裏任務を専門的に受諾しているコンビのような存在で、情報屋としての力も確かだ。

ヨツバさんは人から情報を聞きだすのに長けているし、ロクサさんは音声や画像や映像を盗み撮りすることに長けている。

この二人が揃えば、確かな証拠付きの情報が簡単に手に入ってしまうのだ。


「・・・・・・」


なおも続く、ヨツバさんのちょっかいに何もできず、僕に助けを求める視線を送ってきた。ちょっかいの対象が僕に向いてもやっかいなだけなので、微笑んで「頑張って」と目で伝えた。

それを読み取ったのか、ロクサさんはまたため息をつく。


僕はロクサさんに、隠し撮りに便利な道具を発明して提供していることもあ、仲がいい。

そのことでたまに、ヨツバさんにちょっかい出されるのには困りものなのだが。


「お、みんなもう集まってるジャン!」

勢いよくドアを開けて入ってきたのは、サンヤとニータ、遅れてキュウだった。

「よし、全員揃ったみたいだね。」

最後に会議室に入ってきたキュウは全員がテーブルについているのを見てから自分の席についた。

「やっぱり、エイトはこないの~?」

ヨツバさんが「4」と書いてあるプレートを手で弄びながら聞く。

「うん、情報堂に戻ってないから呼べなかったし、ボスもエイトは遅れてくるって・・・」


エイトとは僕たち情報堂のメンバーの一人で、天真爛漫な少女だ。

重要な任務についているらしく、十日程情報堂には戻ってない。


「じゃあ、エイトもここにはくるのね。」

「つーことは、まぢで全員召集なわけかよ、面白ぇ。」

イツキリさんとサンヤはどこか楽しそうにそう言った。

全員召集という事実は、僕の心だけを高潮させているわけではないようだ。


「で、キュウちゃん、今日はなんの用なのー?」

ヨツバさんの口ぶりから、高潮は感じられないが、今回の依頼に期待を抱いているのは確かだろう。

「知らない。僕もボスから「皆を集めろ」ってメール貰っただけだし。」

「ふーん、なんの用だろうねー。」

ヨツバさんがそう言った後は、皆、次の依頼の内容を想像しているようだった。

僕も例外ではなく、できれば、危険で、スリルがあって、面白い依頼だといいな と思っていたりした。


各々が考え込んでから三分程経っただろうか。

今まで静まり返っていた会議室に、メンバーの中で一番年長のニータの声が響き渡った。


「…来た。」


その瞬間、会議室の空気が変わった。

耳が良いニータは、ボスがいつも履いている白いブーツの音が、誰よりも速く聞こえてくるらしい。


そして数秒後、遠くのほうで、微かに音がしているのが聞こえた。乾いたブーツの、カツカツという音だ。

依頼を受ける時、いつも聞くこの音。この音が大きくなるほど、溜め込んでいた期待が一気に放出されてオーラになる。情報屋としての、プロのオーラが湧き出てくる気がするのだ。

今回は全員召集とあって、期待も大きかったから、オーラも迫力を増していることだろう。


ブーツの音がはっきりと耳に聞こえてきたかと思うと、最後に カツン といって音はやんだ。

会議室の金色のドアノブがゆっくりと回りはじめる。

その瞬間を待っていたかのように、ロクサさんがスッと立ち上がり、ドアの前に立った。

ゆっくりとドアが開きはじめ、半分開いた所でロクサさんがボスの手を取る。

その姿はまるで、執事とお嬢様のようだ。

そして、そのお嬢様は、純白のワンピースに、薄いカーディガンを羽織った清楚な女性で、髪だけが、ただただ黒い。手には白いノートパソコンを持っている。

歳は不明、一見すると若く見えるが、もう数百年を生きた人間のような、妙に落ち着いた不思議な気配もある。


「みなさん、お待たせ致しました。」


ワンピースを少し揺らして、小さくお辞儀をしながら、ゆっくりと、か弱く繊細な声で囁いたこの人こそ僕達のボスであり、「情報堂」のオーナー、イチリさんだ。


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