表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/17

糸口1

「なるほどなー、にぃの提案だったわけか。かわいいことするんだな、にぃも。」

「うるせぇ。黙って食え。」

サラダを頬張りながら喋るサンヤの頭を軽くコツくニータ。

この食事会はニータがボスに提案したものだとボスが口を滑らせた。


「ボスからのメールだったので驚きましたけど…にいさんの提案なら、頷けますね。」

「イツ…お前まで…」

少し恥ずかしそうにするニータは、それを隠すかのようにパスタを口に運ぶ。

「ま、にぃは皆で集まるの好きだからな!」

「へー、そうなんすか!意外っす!」

次のパスタをフォークに巻いていたニータの手がピクリと止まる。

「意外に寂しがりやっていうかさー…」

「うふふ…うさぎみたいですね、にいさんは。」

止まっていたフォークが小刻みに奮えだす。

「なんつーかー…ツンデレ?みたいな所もあってよー」

「へぇ~、そういうの萌えって言……」

言い終える前にニータの方をみたヨツバは地雷を踏む前に言葉を止めて、笑ってごまかした。

「そう、萌えだな!俺らの前ではツンツンだけどー…ボスの前じゃ、デーレデ…」

最後の一文字を言いかけたサンヤは、素早く口を閉じた。言い知れぬ恐怖からくる咄嗟の行動だ。

「…で…なんだ?ん?」

ニータはパスタを食べ続けているが、ニータの体の周りから、どす黒い何かが飛び出してきて、今にも襲い掛かかってきそうなのだ。


「い、いや、何でもない!!何でもないっ!!」

必死にごまかすサンヤと、無言の圧力をかけるニータ。

その光景は、兄弟喧嘩の序章のようで、懐かしく微笑ましいのだった。

「ロクサさん、やっぱりたまにはいいですね。賑やかで。」

横に座るナナセが、紅茶を手にしながら、こちらに笑いかけてきた。

「あはは…だなだな!!」

サンヤはナナセの言葉に乗っかり必死にはぐらかす。



楽しい食事会も終わり、食器が全て片付けられた頃、席に座り直した一同にボスは言った。

「さて…本題といきましょうか。」

笑顔で言うボスに対し、メンバーは緊張の面持ちだ。


「まずは…サンヤの目撃情報から。」

進行役のボスがサンヤを指名すると、彼は携帯を操作して一枚の画像を見せた。

「小さいけど…今朝撮った。韓国からの便で降りて来た奴だ。で、コイツを迎えに来た車が…これだ。」

携帯のボタンを押して写しだされたのは、黒い外車を隠し撮りしたもの。ナンバープレートもぼんやりとだが読み取れる。

それを確認すると、キュウが話だした。

「この車についてだけど、永地の車で間違いなさそうだよ。今日の昼ごろ、永地事務所を張ってたら来た。ほら。」

キュウは胸ポケットから取り出した写真をテーブルの中央に置く。

「ナンバーが一緒だ。この時にはサンヤが見た男は降りて来なかったけど、運転してたのは安形仁。これは安形仁の車だ。あ、永地組ってのは笹井会系暴力団。スパイ活動とかが有名かな。」

安形仁…。永地組の幹部の中でも特に頭脳派だと聞く。そいつが迎えに来たと言うことは韓国から来たこの男は余程の客ということか。

「さて…この目撃情報についてですが…長谷川佑乃との関係はあるでしょうか。」

ボスが問うと、ニータが軽く手を挙げた。

ボスは目で合図し、発言を認める。


「永地と長谷川佑乃の直接的関係は解らないが…間接的になら、あるな。」

ニータは取り出した写真をキュウが置いた写真の上に重ねて置いた。

大きな金庫の前で初老の男が無表情で写っている。この顔は嫌というほど見てきた。

「知ってる奴もいるだろうが、こいつは長谷川惣治。長谷川組組長で長谷川佑乃の父親だ。バックに写っている金庫には長谷川組の金が入っていたらしいが、先日がっぽり盗まれたんだとよ。金庫は組長しか開け方を知らないらしく、他人が開けるなんて長谷川の持ってたメモをみない限り不可能だったらしい。」

「…つまり、何者かが長谷川惣治から金庫を開けるためのメモを盗んだってことですか?」

「ああ。つまり、長谷川組にスパイが潜り込んでる。」

「なーるほど。」

全てが理解できたらしいヨツバは、話を整理して皆に聞かせた。


「マジカルバナナみたいだねー。長谷川佑乃といったら長谷川組、長谷川組といったら金庫、金庫といったら強奪事件、強奪事件といったらスパイ、スパイといったら……永地組。…ね?長谷川佑乃ちゃんは間接的に永地組と関係有りってわけだ。」

…整理して…と言うのは間違いだった。

マジカルバナナに例えるとは、面白いがわかりずらい。

「長谷川佑乃は永地組と間接的に関係がある…、これは確定でよろしいですね?では、次にイツキリ。」


指名されたイツキリは緊張しながらも、サンヤと同じく携帯を操作し写真を見せた。

「私は今日、長谷川画商に行ってきました。でも臨時休業だとかで開いてなかったんです。この写真はその事が記された貼り紙で、道路に落ちていました。」

臨時休業か…先程の話しと関係が有りそうだが…

「長谷川画商の臨時休業だが、これは金庫盗みの件と合わせれば不思議なことじゃないな。」

ニータがいった言葉に、ヨツバが付け加える。

「この金庫、長谷川画商にあるのかな?画商はそのためのカモフラージュでもあったわけか。で、その金庫絡みの事が起きたから、臨時休業…うん、つじつまが合ってるね。」

「なるほどなー…ひとつひとつだと繋がらなかった物が、こうやって関連づけると…意外と繋がるもんだなー。」


サンヤの言う通り、今までパズルのピースでしかなかった情報が、合わせてみると関係が深いことがわかる。

しかし、今回の依頼は「長谷川佑乃の身辺調査」だ。

長谷川佑乃と永地組は間接的には関係ある事はわかったが、今回の真の目的「長谷川佑乃は暴力団関係者と深い縁はない事を証明する」には未だ至ってない。


「では次に…長谷川佑乃自身の事についてですが…ヨツバ達はなにか得られましたか?」ボスが言うと、メンバーの視線が集まった。ヨツバの方に目をやって合図し、報告を始めるように促した。

「僕らは今日、長谷川佑乃ちゃんについて嗅ぎ回っていたんだけどねー、エイトが教えてくれたお店や施設では、それらしい情報はなかった。でも、登下校の時にちょっとだけ手掛かりを掴んだ…かな?」

ヨツバが言った後、自分のポケットからボイスレコーダーを取り出して再生ボタンを押し、スピーカーをメンバーに向けた。


『…りがとー。…みの学校に長谷川佑乃ちゃんて子いるかな?』

布が擦れる音で最初の声は聞き取りずらいが、その後はハッキリ会話が録れている。

『ん~…あ、ああ、いるいる!』

『どんな子なのか、教えてくれない?』

『うーん、どんなって言われても、クラス違うしぃ…なんつーか、目立たない?』

『そっかーありがとうー、あ、そうそう、君の名前教えてくれないかな?』

『え?えと、私は相葉奈津…だけど。』

『ん、ありがとう。あー僕、可愛い子に名前聞く癖あってさー、気にしないでー。』

『かっ…!!!じ、じゃあ!!!』


再生が終わると、ヨツバはタイミングよく話しだす。

「とまあ、相葉奈津ちゃんから情報を掴んだ。まあ、情報というには曖昧なんだけどねー…」

「それで?それだけじゃないですよね?」

あくまでマイペースに話すヨツバにボスは急かすように言う。


「ええ。本題はここから。…下校時間に合わせて待ち伏せして、佑乃ちゃんを尾行したんだけどね、曲がり角に差し掛かった時に人と衝突…いや、佑乃ちゃんが一方的に突き飛ばされたんだ。」

「一方的…って、わざとぶつかって来たって事ですか?」

ナナセの言葉に無言で頷いたヨツバは話を続けた。

「で、ここからは憶測も混じってるんだけど…そのぶつかって来た人の後ろ姿、どっかで見たことあるような気がしてね。…あれは多分、相葉奈津ちゃんだ。」

「相葉奈津って、さっきのボイスレコーダーの?」

キュウが言うと、他のメンバーもざわめきだした。

自分はその現場を見ているが、ぶつかってきた人物までは見てないのでわからないが、ヨツバが言うのだからほぼ確実だろう。


「相葉奈津ちゃんが暴力団と関わっているのかは知らないし、個人的な理由でやったのかはわからないけどねー。」

ヨツバはいつもの調子に戻って、ボスの反応を伺っているようだった。

「相葉奈津…ですか。少し調べる必要がありますね。」

ボスは手元にあったメモ帳に何かを書き込んだ後、それを小さく折り畳んでしまった。

「他にはいませんか?」

ボスの問い掛けにメンバーは頷いた。

「…では、今日はここまで。またなにかわかったら連絡を。皆さんありがとうございました。解散。」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ