収集9
少し前のことイチリの書斎にて
他の部屋と比べると少し広く、全体的に明るく見えるのは、壁紙から装飾まで全てが白いものだからだろうか。
もう陽も傾き始める頃だがこの部屋は真昼のような雰囲気で、明かりをつけていないのに明るく感じた。
そんな部屋に唯一ある黒。
それは、この部屋の主であるイチリの黒髪であった。
イチリは事務仕事をこなしていた。
事務仕事といっても、依頼の管理と伝達の際メンバーに渡す資料を作るだけなのだが、今はいつもとは違う事務仕事をしていた。
長谷川佑乃調査の情報をまとめる作業だ。
本来、このような作業はナナセの仕事だが、先程宅配便で何やら荷物が届いてから部屋で別の作業をしている。
他に頼める者がいないからと、私に頼んできたというわけだ。
パソコンを操作し、メンバー達から送られてきた様々な証拠写真や情報をまとめていく。
こうしておかないと、間違った情報を依頼人に伝える可能性が多くなるからだ。
それに調査関係の依頼の際はこうして証拠付きでまとまっていると信憑性がありこちらとしても都合が良い。
ナナセは、「今回の依頼人のボスが依頼人に報告するための書類を書くのも可笑しいですけどね。」と言っていた。
しかし、情報が多い。
ただ、数は多いものの、情報の質は良くなかった。
メンバー達は各々の行動範囲内で次々に情報を仕入れてくるのだが、どれも些細なものだったり、関係性の見られないものだった。
そんな中目に留まったのは、サンヤの永地組目撃情報。
永地の幹部の車が、韓国からきた若い男を乗せていったという。幹部がわざわざ迎えに行くほどの重要人物…その男が帰国してきたことは、対立関係にある長谷川組と長谷川佑乃に関係しているのかどうか…。
関係があるとしたら、これは重要な情報である。
次に気になるのは、長谷川画商調査の結果だか、これはつい一時間ほど前にイツキリが向かったばかりだ。
そして、先程送られてきた、ヨツバ達の調査結果メール。長谷川佑乃に関係する場所を調べたが、めぼしい情報は手に入らなかったらしいが、このあと下校時間に合わせて尾行するという。こちらもまだ報告はないが、新たな情報を手に入れられそうだ。
一通りまとめ終わり、一息つこうと手元に置いておいたコーヒーを取り、一口飲む。
ふと時計に目をやると、午後四時五十分を示していた。
メンバーたちも今頃休憩しているだろうか。近頃冷え込んできたから、風邪をひかないように気をつけてもらいたい。
そんなことを考えていると、部屋のドアをコンコンと叩く音がする。
「どうぞ。」と言うと、ニータが外出用のコートを着たまま入ってきた。
「今帰った。」
「お帰りなさい。どうですか?調子は。」
ニータは着ていた黒いトレンチコートを脱ぎながら、
「気になる話を聞いたな。」
とだけ言った。
「気になる話?」
「ああ、知り合いに長谷川組の初老幹部がいてよ。昼飯食いながら話してきた。やんわりと長谷川佑乃について聞いたんだが、あまり関わりが無いらしい。詳しい事は聞けなかった。…で、気になる話ってのは、」
そこまで言うと、ニータは脱いだコートの内ポケットから写真を取り出して、私の前に置いた。
「これは?」
私はその写真を手に取る。中央に大きな金庫と、長谷川組組長、長谷川惣治が写っている。
「幹部から預かった物だ。長谷川画商に、儲けた金を入れておくでかい金庫があって、その写真はそれを設置した時の記念に撮ったそうだ。銀行に預けられないような裏の金だから、儲けたのは全て入っていたらしい。」
「長谷川画商はこれのカモフラージュを兼ねていたわけですか。」
「ああ。この金庫、厳重にロックが掛かってて、番号は組長しかしらないそうなんだが、この金庫から先日ごっそり盗まれたそうだ。」
「つまり…、長谷川組の中にスパイがいて、長谷川から金庫の番号を盗み、それを利用した者がいる…と。」
私が言うと、ニータは目を丸くした。
「…その通りだ…。」
「…なるほど、貴重な情報ですね。」
私が微笑みながらいうが、ニータの表情は暗かった。
「本当にそう思ってるのか?」
「え?」
ボソッと呟かれたニータの言葉に疑問を浮かべるが、ニータは開き直り明るく言った。
「それより、今日の夕飯なんだけどよ、ちょっと提案があるんだが…」
「なんですか?」
「メンバー全員集まって食事会を開かないか?」
「食事会?」
「今回の依頼はメンバー全員で動いてる。そろそろ情報も集まる頃だ。だから、情報の報告も兼ねて…どうだ?」
情報報告会…確かにより正確に情報の伝達ができるし、調査結果について話合うこともできる良い機会だ。
「いいですね、やりましょうか。」
返事をすると携帯をとってメンバーにメールをいれた。