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無題詩1~42(2011年)

無題詩39

ひとつ、ふたつと罪を作れば城の中は美徳でいっぱい。

その城はすでに砂上の楼閣であることはとっくに知っている。

少しの圧力で簡単に崩壊してしまう。でもいいんだ。

また求めてしまえる君は壊れてしまったのだけれど、

それでもいいや、とお見通しの顔の僕がいた。

両親は死んでいて、依存できる者はすっかりいない。

いや、依存ではなく寄生なんだけど。

仲間を作ろうとネットで呼びかけてみても、

ツイッター、ミクシイで僕をフォローしてくれる人はいない。

一人が心地いいと言い訳をすればするほど僕の純情が死んでいく。

明日の食糧とこれから生きていく金はない。

だから今日は深夜のコンビニバイトで働く。

「そんな人生はやく終わらせてしまえ」

「そんな人生はやく終わらせてしまえよ」

ピストルを持つ猿が囁く。「これで撃とうか?」

いっそ撃ってくれ、と僕は懇願しても猿は実行しない。

まるで他人に嘘ばかりつく有言不実行な僕みたいだな。

ここから見える景色は決してキレイなものではない。

この部屋に青い青い海は見えないしタバコの煙で空は灰色だ。

ゴミの山と敷きっぱなしの蒲団、あとは多量の自殺グッズ。

飴玉を一つ頬ばれば、イチゴの甘い味が味蕾を刺激する。

でも、それはあくまで仮想的な感覚だ。

何割の具合で本物の果実が使われているのだろう?

僕の人生もこんなものか、と、彫刻刀で左腕を刻む。

それに反して大き過ぎるエゴとプライドが救急車を呼ぶ。

(じゃあ、何のために自身の身体を傷つけるの、やめてよ!)

脳内の天使が金切り声で叫ぶ、叫ぶ。それに対して猿は悪意をこめて、

「他人にかまってほしいだけなんだよ、こいつは……グへへへへへ」

「…………………」天使は反論できない。

――僕はなんのために生きているんだ、と、

陳腐なセリフを吐いたところで答えてくれる人はいない。

自分で解答できないことに腹立てて部屋を殴っても、

痛くなるのは僕の利き手と心だけ、他者には干渉すらできない。

どくどくと腕から血を流していても今じゃ何も感じない。

部屋が真っ赤に汚れていく。まるで聖なる緋のマントのよう。

これじゃまた大家さんに怒られると、ただ思った。

窓の外は燦々と眩しい太陽が嗤っている。嘲笑している。

この部屋だけが季節はずれの梅雨であるかのように、暗い。

じめじめしていて、ひたすら気持ち悪い。どん底のどん底。

冷房も入れてないのに吐き気がするほどの異常な冷たさ、寒さ。

でも、出る気がしない。出る気がしない。出る気がしない。

僕はもう諦めたんだ。うん、これは運命なんだ。

政権が代わっても僕の生活は変わりはしない。不変人生このままさ。

自分の境遇を呪ってもそれは仕方がないことだし、

このまま死んで来世に期待しよう。それしかない、とそう思う。

でも……、

けれど……!

それでも……・、僕は生きたい。底辺から抜け出てみたい。

僕は……! 地上にきちんと足を付けて自分の力で歩いてみたい!

「ああああああああああああああああああああああああああああああああ」

叫び声が穴のあいた壁に当たって反響した。警告音のように発声された。

僕はこの小さな世界でバラバラにならないように自身の身体を抱いた。

その行為だけが僕を救ってくれる救済なんだ。救うのは僕、救われるのも僕。

まるでウロボロスかメビウスか。せめて自分だけは自分のことを信じていよう。

何も変わらないかもしれないけれど、自己満足かもしれないけれど、

小さな一歩を踏み出せるかもしれないんだから。

そのときだけは、猿と天使は握手していたようだった。一時停戦のようだった。

僕はいつの間にか僕の城から抜け出ていて、太陽が直接、投射される。

寒かった部屋を振り向くと、その建物はもうなくなっていた。

帰る場所がなくなったけれど、僕はそれでもいいや、と思う。

このお話は、他人にとっても僕にとってもどうでもいいけれど、

今は、今だけは、この純粋な気持ちに心を傾けておきたい。

それだけで、僕は生きていけるのだから。

なんだろう、まだ身体が冷たいのかな。指がブルブルと震えているや。

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