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昨日も採血

 この作品を、僕の大好きな「前下がりのショートボブ」のヘアスタイルで、この作品のアイディアを提供してくれた沢木香穂里さんに捧げます。

【空想科学祭2011・参加作品】【RED部門】

「はーい、小田さん。採血しますねー」

 その看護師は、僕のベッド脇に来て採血の準備を始めた。ハイウェストの切替ライン、小さめ衿に細めパイピングが施されたデザインで、黄色いワンピースのナースウエアを着ていた。ナースウエアの胸元ポケットにはペンが数本、その横に『金沢』というネームプレートがついていた。

「腕を出してください。利き腕じゃない方がいいわね。左腕の袖を捲くってください」

 僕は金沢の言われた通りに、ベッドに寝たまま左腕の袖を捲り上げると、金沢は肘の上に駆血帯を巻き付けた。

「それじゃあ、親指を掌の中に入れて握ってください」

 金沢は結構な美人で、院内でも有名のようだった。前上がりのワンレングで、肩に乗ってしなやかに揺れ動くふにゃりとしたカールがフェミニンでエレガントな雰囲気を醸し出していた。顔立ちは面長で、目は大きく、鼻筋も通っていて、口もやや大き目と少々顔のパーツは大作りだったが、バランスの取れた配置のせいで程よい美形を成していた。彼女自身も大作りなことを知っているのだろう、明暗やボリューム感を少な目にして、大人しい化粧を施していることが、更に清楚な感じを演出していた。

 そして、注目すべきは金沢の注射や採血の技術である。院内では抜群のテクニックで、全然痛くないという評判だった。もっとも僕ら男共は彼女の顔に見惚れているうちに注射や採血が終わってしまうので、痛みなどわからないという話なのだが、子ども達にも同様の噂がある程なので、そのことは確かなことなのだろう。

 僕が親指をギューッと握り締めると、金沢は肘のあたりを擦って血管を浮き立たせた。

「いい血管ね」

 看護師の言葉が僕を褒めているのかどうか、僕は判断できなかった。

 金沢が目的の血管を見極めた後、その周囲を酒精綿で消毒した。そして、針を付けたホルダーを僕の腕で構えた。

「ちょっと痛いかも」

 僕にそう声を掛けながら、金沢は穿刺した。すると、間髪置かずに採血管に赤黒い血液がドーッと流れ込んできたのだった。金沢は手際良く血液の溜まった採血管を抜き、素早く次の真空採血管を差し込んだ。その間、全く痛みを感じなかった。噂は本当だったのだ。

 三本程、採血管で採血し終わると、駆血帯を緩めて穿刺部を酒精綿で押さえながら針を抜いた。

「しばらくは、揉まないでこの酒精綿を押さえていてくださいね」

 僕は言われたまま右手で酒精綿を押さえていると、金沢は駆血帯やホルダー、採血した採血管をトレイに載せて片付けた。

「血が止まったら酒精綿を捨ててくださいね。お大事に」

 そう言って、金沢は僕に笑顔をくれた。金沢のその笑顔の口元から妙に眩しく輝く八重歯が印象的だった。

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