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アンチヒーロー・ディストラクション -成り代わりシリアルキラーは異世界でも愉しみたい-  作者: ゆつみ かける


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第6話 引き金を引くよりもⅠ

 金持ちで、白人で、男。人生イージーモードのゴールデンチケットを握りしめて産まれてきた、祝福されたガキ。それが俺。貧困や差別とは無縁、マンハッタンの喧騒から離れたグリニッチの大邸宅が生家。優しく愛情深く、どんなときでも寄り添い慈しんでくれる両親のもとで、誰に踏みつけられることも痛めつけられることもなく育てられた。人殺しに(こう)なる理由なんてなにもなかったんだ。ただ、()()()()()()()生まれついてしまった。

 気高く善良な両親から産まれた壊れた魂。殺すことでしか満たされない人の皮をかぶった捕食者(プレデター)。医者やカウンセラーがどれだけ手を尽くそうが無駄だった。「正常」な自分を知らないんだ、どう治ればいいのか、わからない。安心、興奮、生きている実感、誰かの命を摘み取る瞬間にだけ自分から抜け落ちた魂の欠片を感じることができた。己を呪って頭を撃ち抜くか、この渇きごとすべて受け入れるか。 あの日、父さんの書斎に飾られていた|象牙仕上げのピースメーカー《コレクション》を顎に押し当てながら俺は選んだ――引き金を引くよりも愉しいほうを。



「ビビってんじゃねえ! 相手は独りだ、囲め! さっさと殺せ!」


「う、うおおお!」


「くそっ、調子にのってんじゃねえぞ!」


 トカゲ頭に発破(ハッパ)をかけられた二人が同時に向かってきても、心は不思議と凪いでいる。身を任せればいい。この身体は――殺しの技術は信用できる。腹の底から湧き上がる高揚と、葉擦れすら聞き逃さない冷静、背反するはずのふたつがひとつの身体に共存していた。どれだけの死線をくぐればここまでに至るのか見当もつかないほどの集中力。薄氷に覆われた冬の湖のように感覚が研ぎ澄まされている。クズ共が間合いに入った瞬間、流れるように手足が動いた。右から踏み込んできた男の突きを剣の腹で受け流し、勢いを殺さないまま半回転、遠心力を乗せた一振りで左の男の腹を切り裂く。あふれた血と臓物が水気のある音をたてて地面にこぼれ落ちた。


「ぐっ……うぅっ……あ、あああ……! 俺の、俺のはらわたが……!」


「チッ……!」


 膝をついて腹のなかに腸を戻そうと奮闘する男を見て、トカゲ頭が舌打ちした。仲間が次々にやられていく様子に怖気づいたのか、右の男は顔色を変えて後ずさりを始める。拘束したり、動かなくなった体を鉈やチェーンソーで解体(バラ)すことはあっても、動いて立ち向かってくる体にここまで派手な致命傷を負わせる機会なんてそうそうない。飛び散る血しぶきの軌道が違う、腕に伝わる肉の抵抗が違う、向けられる殺意の熱量が違う。知った気になっていた殺しにまだまだうずくような未知の手触りが残っている。感動だ、愉しい、嬉しい、胸も身体もどんどん熱くなる。


「なんなんだ……、なんだよこいつ! なんで笑ってんだよ!」


「落ち着けバカ野郎! 隙を見せるな!」


「くそっ! こんなの割に合わね――」 


 トカゲ頭の言うとおり、逃げ道を探して目を泳がせた男の隙をこの身体は見逃さない。すばやく踏み込み一気に距離を詰め、心臓めがけて深々と剣を突き立てた。傷口に手を添えて弱っていく鼓動を感じとる。動きが止まったのを確認して濡れた剣を引き抜いた。


「ああ……ははっ、すげえな、これは……っ」


 三人。立て続けに三人だぞ? 息も乱さず、怪我ひとつせず、現実では起こりえないシチュエーション。夢みたいだ、異世界。こんなに幸せでいいのか? 快感に似た痺れが小刻みに背筋を駆け抜けていく。剣にまとわりついた血脂を振り落としながらトカゲ頭に向き直った。黒目がちな爬虫類の目のなかで月光が剃刀のようにきらめく。あれが光を失うとき、俺が得るものの大きさは?


「てめえ……傭兵崩れだと聞いてたが、違うな。随分とお上品な剣筋じゃねえか、いままで隠してやがったのか? どうりで違和感しかねえわけだ」


 おそらくこれがこいつの人生で最期の会話になる。頭のなかではシナプスが駆け巡り、俺の一挙手一投足や言葉のなかに逆転の活路を見出そうとしている。そんなドラマティックな時間に付き合ってやりたいのは山々だが、そうだな、いまは都合が悪い。いうなれば情熱的なキスシーンの最中に流れるクソコマーシャル。おとといきやがれってことだ。


「……お前、ヤる前はキャンドル飾って雰囲気作りからするタイプか? まあそういうのも嫌いじゃねえけど、ただがっつくのが正解ってときもあんだろ?」


 肩をすくめて、片手で剣を掲げる。切っ先をトカゲの眉間へ向けてぴたりと合わせた。


「いまがそう。じらすなよ、早く()ろうぜトカゲ野郎」


「上等だイカレ野郎が……!」

 


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