4-1.焼きプリン懐柔作戦 ―異端は秩序の闇を照らす―①
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青白い照明が磨かれた卓面に、
二重の輪を落としていた。
壁一面に展開されたスクリーンには、
魔力の経脈が脈打ち、世界地図が拡がっている。
天井から吊られた天秤の魔導具が
空調に煽られて微かに揺れている。
「《ヴィラン連合》は“力による秩序”を掲げ、
諸都市を軋ませている。
だが——真に危険なのは《問題児》だ」
総帥——オルガ・ベネディクトの声は、
乾いた石のように会議室へ落ちた。
「あのイヴァル・ヴォルグラスを破った化け物たちだ」
その一言に会議室の空気がわずかに沈む。
《ヴィラン連合》
——実力ある者が世界を支配するべきだと主張し、
既存の権力を破壊しようとする組織。
その力は、すでに
一国家で対処できる域を超えている。
ゆえに、世界は手を組んだ。
国家という枠組みだけでは
対処しきれぬ“個”に抗うため、
多数の国家が結び付いた
——人類の防波堤。
それが《国家連合》が組織された理由である。
この部屋にいる全員が、それを理解している。
そして同時に、
それでも足りないことも。
「《ヴィラン連合》は対処可能だ。
だが、《問題児》たちは対処という概念の“外”にある」
会議室の空気がわずかに沈む。
「討伐は不能。ならば——
懐柔を試みることとする」
オルガの金の義眼がわずかに細まり、
鋭い光を宿した。
国家連合中将、《光律剣将》
ハロルド・グレンフィールドは姿勢を崩さず、
喉の奥だけで返した。
「……懐柔、ですか」
「そうだ、中将。お前が行け」
隣席の大将たちが静かに視線を交わす。
最初に口を開いたのは、巨躯の男だった。
短く刈り上げた黒髪、
額の古傷、
鍛え抜かれた腕。
その姿は《爆神槌将》バルム・レグナス。
情に厚く、不器用で、
だが前線の現実を骨身で知る大将だ。
「報告では……奴らの意思決定は“食”らしい。論理より舌、か」
バルムは分厚い腕を組み、
低く唸るように続けた。
「ならば……甘味で説得するしかなかろう。
拳も槌も、あいつらの前では意味を成さん」
その隣で、細身の影が鼻歌を奏でた。
中性的な横顔に微笑を浮かべ、
通常の日本刀よりも刃渡りがやや短い
2本の小太刀を携える男。
《幻舞刃将》ユリウス・フェルノスト。
戦場でさえ優雅に刃を舞わせる
軽薄で危険な大将と聞く。
「甘味外交……これは実に舞台映えしそうですねぇ」
彼は頬に指を当て、
わざとらしく肩をすくめた。
「舞台は甘味、踊るのは感情。
あぁ、僕の双剣も甘味と絡めれば
新境地が開けるかもしれませんね♪」
そして最後に、静かな風が会議室に流れ込む。
長い金髪を背に流し、
薄く瞼を閉じたエルフの女性。
《星命弩将》エルミナ・フォルトゥナ。
星の軌跡を辿り、未来を見通す観測の大将。
「接触の最適時間は、黄昏」
エルミナは淡々と告げた。
「警戒心と胃袋の緊張が最も緩む。
……甘味による“侵入”には理想的でしょう」
3人の大将の注目がハロルドに集まる。
中将ハロルドは、その重い圧力を、
胸の奥でひしひしと感じ取っていた。
喉が、わずかに焼ける。
呼吸は浅い。
(……やめろ)
無意識に、指先に力が入る。
“選択”
その言葉だけで、胸の奥が軋んだ。
(ここで、間違えれば——)
何かが、壊れる。
それだけは、わかっている。
「……」
ハロルドは、わずかに顎を引いた。
逃げることは、許されない。
オルガが短く首を振る。
「中将、お前の一挙手一投足が世界の秤を傾ける。
国家連合は、均衡そのものだ。
二択を畏れるお前だからこそ、
極限の選択を読み切れる」
「……畏れ多い」
ハロルドは息を呑んだ。
ユリウスが軽く指を鳴らす。
「手土産は、もちろん——」
「《星見亭》の焼きプリン。既に確保済みだ」
エルミナが資料を閉じ、バルムが頷く。
オルガの声が落ちる。
「秤は常に正しくあれ――均衡を崩すな。慎重に行け」
こんばんわ、アトレイです。
第4話も前編後編に分けての投稿です。
アンケートのご協力、ありがとうございました。
私事ですが、本日レベルアップしました。
今年はプライベートやお仕事、執筆活動などなど新しい事に挑戦して頑張って参りたいと思っています。
特に執筆活動は完全に畑違いでして、
本当に「こんなんで読者は楽しいのか…?」と
いつも不安と闘っています。
ブックマークや感想もいただけてとても励みとなっています。
厳しい意見などでも戴けると嬉しいです。
でわでわ。




