65話 姉妹
サクラは私の服を借りると、ミクが淹れて来たお茶を静かに飲み、目の前の私たちの顔を無言で見比べた。急かさずに、サクラの言葉を待つ私たちだったがこんな時一番気が短いのはミクだ。猫の姿だとそれは顕著で、長い尻尾をぱしぱしとソファに打ち付けている。不可抗力かもしれないけど。
「申し訳ありません。色々と、あなたたちにご迷惑をかけているのは理解していますが……」
サクラは俯き、又口を閉じる。カイトがふむ、と腕を組んでその顔を覗き込んだ。
「察するに、全てを話せないのではないですか?あなたがバンリさんたちを意地悪くだましているのではなく、言葉に縛りがある?そういう呪いでもかけられている?頷くことも首を振ることも禁止事項かもしれませんが、沈黙はそうと受け取りますが、どうですか」
カイトの言葉に、なるほど、と私たちは今までの説明の少ないサクラの言動を思い出した。
「しかし、その魔道具があれば今は呪いは適用されないのでは?」
「……そうかもしれません。ですが、もし私が禁忌を破れば」
サクラはそこで言葉を切る。はっと思い至るのはその姉、サチコ陛下の顔だ。
「呪いはサチコ陛下に行く、とか?」
分かりやすく、その儚い面持ちは泣きそうに歪んだ。なるほど、姉は人質なのか。
「あなたは姉のサチコ陛下ともども何者かに呪いにかけられている。それを解きたくて、私たちみたいに日本から来た人たちに無理やりお願いをしているんですね」
無反応のようで、サクラの目は潤んで、まばたきと共にしずくが頬を伝いそれが間違いではないと分かる。人間の姿だったらこうして感情も伝わるのに、あの烏の姿だと妙に冷たく感じて怪しく思えてしまうのだ。きっと、今までもこうして苦悩を顔に浮かべていたのだろう。
ミクが大げさに嘆息して、その小さな猫の体をテーブルの上に乗せサクラの顔をねめつけた。
「事情は何となく分かったし、私だってお姉ちゃんを探したいし何か困ってるならどうにかしてあげたいって思ってこの世界に来たし、同情はするよ。でも、正直あんたたちまで助けてあげる余裕はない。一応、お姉ちゃんを見つける目的の上に、あんたたちの悩みを解決できることがあればやってあげるけど。ちゃんと呪いを解く方法を探す、とかさ。それなら目的が一緒だし、バックレたりしない。それ以上のことを手伝ってほしいっていうのは今んところ約束できないよ」
サクラは頷けない。良いのか悪いのか、どちらとも分からないが確かに私たちにそこまでする義理はないのだ。私がミクを手伝ってあげたいと思うのは友人だからだし、誰にでも親切にしたいわけではない。私が不老不死であっても、万能ではないのだから。放っておけない、という気持ちも今はないでもないけど……。
「とはいえ、あなたもこの国の魔道具に賭けていたのでしょう。残念ながら、完全な解呪が出来るものではない……」
カイトは自分の指輪を見つめる。
「だよねえ。ちゃんと戻れるやつじゃないとなあ」
「そういう魔術が他の国にはないんですか?」
「聞いた事があれば私もあなたたちにこの国におつかいを頼んではいません」
「僕も知らないな……」
私たちが唸っていると、ふと、階段の方に気配を感じる。そちらを見やれば、憔悴した顔のホークがいつの間にか立っていた。私たちの騒がしい声で起きて来たのか。しかしホークの口から出た言葉は意外なものだった。
「……あの、アリゼに行きませんか」
東の大国、アリゼ。エルフの住む国。
ちょっと仕事が忙しくおやすみしていましたがまたぼちぼち再開します




