64話 鴉の正体
「サクラ、生きてる?」
天井の下に一応とばかりに看守がいる。この部屋は城の奥、牢獄ではないが何もない狭く天井の高い個室だ。小窓は開かれていてサクラの持つ何らかの魔法で操作すればいつでもこんな鳥かごは抜けられるのだろう。……と思っていたが。
「その声は……バンリですね」
か細いその声はまるで覇気がない。横たわったまま、ゲートの向こうにいる私達を見て、人間に戻れているミクに目を留める。
「その様子だと、解呪の魔導具は手に入れられたようですね」
「いや、それがこれを身に着けていたら呪いが消えるというだけのやつでさ、完璧になしにはならないわけよ申し訳ないんだけど〜」
ミクが説明していると、サクラはあからさまに意気消沈したのか上げかけた首をまた籠の底に静かに置いた。見かねたミクが手を伸ばす。ゲートのこちら側にそっと連れ出すと少し身じろぎはしたが、力がもうあまり入らないのかテーブルの上におとなしく横たわった。
「体、冷たっ!あんた、死にかけてない!?」
「……そうかも知れません、魔力を使いすぎると生命力を削ることになりますから……」
サクラはもう目を開けない。これはまずい、と治癒魔法を詠唱し、魔力を注ぐイメージで全力でサクラを包むように魔法をかけると、じわじわと体温が上がるのが分かる。それでも瞼も嘴は閉じたまま。
「サクラ、起きて。あなたには聞かなければならないことが沢山あるんです!お願い!」
どうにかしなきゃ、とカイトが毛布を取りに行き、ミクがお湯を火の魔法で沸かす。私は魔力をどれだけ使っても生命力を削らない。しかし蘇生の魔法なんて知らない。今ここでサクラが回復しなければ、色んなことが分からないままかも知れないのだ。死なれたら困る。
「バンリ、もう、大丈夫です。ありがとうございます」
先程とは全く違う、今度は生気のある声でサクラが返事をした。
「サクラもう大丈夫?元気?」
「ええ、おかげさまで」
一息ついたあとにサクラは身を起こした。漆黒の羽もつやがある。
「んじゃあさ、早速なんだけど。この身に着けていたら呪いが解ける指輪は二つあるけど、これは交渉の材料になる?お姉ちゃんのこともっと知ってるんでしょ?」
ミクが左手につけているそれを見せると、サクラはしばらく無言になったが、嘆息したあとに頷く。
「いいでしょう。話せることは全て話します。なのでとりあえず、ひとつその指輪を渡して下さい」
「逃げない?」
「逃げません……というか、ここには逃げられない術が施してありますね。カイト殿下、あなたがしたのでしょう」
「ええ、まあ」
そういえばこの屋敷には不審ななにかは入り込めない、覗き込めないようにしてあると聞いた。
「そっか、じゃあ……私のやつどうぞ。サクラの本当の姿も見てみたいし、今見せてくれる?毛布ちゃんと被ってね」
ミクが指輪を外すと、見慣れた黒猫の姿に見る見る間にもどる。服を置き去りにして椅子から降りると、今度はサクラが指輪をくちばしにかけて椅子にかけてあった毛布に潜り込んだ。むくむく、と中が膨れ上がる。やがて人の形になった毛布の中から見せてきた顔は、日本人に見える。でも、これは、どこかで見たことが……。腰まで届くような黒髪ロングの、白い肌。少したれ目で、ひとえまぶた。まだ十八くらいに見える。この人は、たしか。
「サ、サ、サ……」
「サチコ陛下!?」
ミクとカイトは同時に声を上げた。そうだ、あの日遠くから見たサチコ陛下にそっくりなんだ。
「サチコは、私の姉です」
サクラは先程と同じ声で、静かにそう言ったのだった。




