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八百比丘尼、異世界で放浪スローライフ  作者: アジ
三章 ソアの国

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63話 これからのこと

 発掘場から屋敷に帰宅して、ホークは言葉少なに自室に戻るとそれから朝になっても出てくることはなかった。

 あの後、ホークは「どうして手を離させた、どうしてジュドーさんを見捨てた」とカイトを散々責めた。あんなに怒るホークを見たことがなかった私達は呆気にとられたが、私はカイトを責める気にはなれなかった。冷たいと言われたらそうなんだけど……。ジュドーがどこに連れ去られたのかは気になる。心配といえば勿論そうなのだが、あの時私達まで道連れにされていたらもっと悪いことになっていたのも明白なのだ。なんせ、あんなに大きなゲートを作るような相手なのだ。私達では勝てるか分からない。

 カイトにもそういうことを珍しく感情的になりながら論破されたホークは帰り道も無言で、私達も仲間が行方がわからなくなったことに意気消沈した。



「おはよ……」

 ミクが自室からリビングに降りてくる。朝食を用意していたが、いつもの癖で四人分並べていたことに気が付いて、胸がちくちくと痛んだ。ジュドーを見捨てたことがどんどん重くなっていく。

「ジュドー、どこいっちゃったのかな……」

「カイトさんが調べる、と言ってたのを今は待つしかないですよ」

 この会話を何回も繰り返している。食欲もないが、何も食べないわけにも行かず私もミクに向かい合って席につくとパンを手に取った。ミクも食事に齧り付くと、それからお互い食器を空にするまで無言だった。このところみんなで学んだのは、元気がなくても食事を取らなくては余計に心身ともに落ちていく事。なので何があっても胃の中に栄養を入れることにしている。



「ごちそうさま。おいしかった!」

 私が作った朝食を平らげてミクはふう、と息を吐く。私は先に食べ終わっていたのでぼんやりとしていたが、ミクがテーブルの上に乗って私の顔をじっと覗いてくる。


「私も一晩考えたんだけど、ジュドーは本当に心配だけどさ、今はどうしょうもないし。それに、私のときもそうだったけど後先考えずにバンリは犠牲になるとこあるじゃん?自分の体を第一に考えたほうがいいよ。あんたの場合、もしかしたら死ぬよりつらいことあるかもしんないんだし」

「それは……そうですね」

 帰り道でカイトが「もしゲートの先で殺されるのではなく、バンリさんが不老不死なのを利用して終わらない拷問を受けたり、どこにも逃げられないようにして魔力を半永久的に利用されたりしたらどうするんだ」などとホークに言って絶句した。たしかにそれもあり得るのだ。私は死ぬことはない、と危険に飛び込むきらいがある。特にこの世界に来てからはそうだ。危険だからこそ自分の出番だと思いがちで、カイトに言われた「必ず痛みがあるのを恐れてほしい」という言葉を忘れないようにしなければ。長年の癖で死んでもどうにかなるだろう、と無鉄砲なところがある。ジュドーが連れて行かれる時も、なんとかなる、と、思い込もうとしていた。



 ふいに玄関に気配がする。これは多分カイトだな、とベルの音を待たずに「どうぞ」と声をかける。カイトは合鍵を持っている……というかそもそもこの屋敷の持ち主なので当然なのだけど。

「……ホークは?」

 入るなりホークの様子を気にして来るので、私達は首を振る。ため息をついてカイトは私達の食卓のテーブルについた。

「カイト殿下は朝ご飯食べた?ひとり分多く作っちゃってさ」

 ミクがジュドーの分のことを言うと、じっとそれを見つめたあとに手を伸ばした。

「まあ、バンリさんの料理は母の味に似ているので悪くはないな」

 褒めなのか何なのかよくわからない感想を言う。というか、カイトも王宮では朝食が入らなかったのかな。黙々とそれを平らげて、更におかわりを要求してくる。珍しいこともあるものだ。


「……さて、ジュドーさんのことなんですが」

 食べ終わったあとにおもむろにその議題へと移る。私達は無言で頷く。

「状況からして、あのゲートの主はジュドーさんを最初から狙っていたと思います。そもそも、少し様子がおかしかった。ゴーレムも何故か使えなかった、あのひとだけ」

 そういえば、とあの日のことを思い出す。

「あのゴーレムは呪いにかかる前の姿……本当の姿を反映するようだったので、使えるとまずいことがあったのではと」

「え、ちょっとまって。じゃあ私達、ジュドーに騙されていたの?でも、初対面のときは置いといて……船で合流したあとも、嘘をついてるようには見えなかったよ?お母さんの残したメモだって見せてくれたし」

 ミクは焦り、ジュドーのことを思い返す。確かに船に乗ってからの様子は嘘をついているようには見えなかった。

「そう。なので……どこかで誰かが、ジュドーさんと入れ代わっていた可能性がある。そして最後に偽物が回収されたのでは?どこの時点かは分からないが」

「いつからなんだろ……」

「あの、そもそも、あの子は嘘をつけません。最初に私が嘘をついたら怪我をすると騙して闇魔法の刻印を付けているんです。本当はただのマーキングみたいな魔法なんですけど……私は、疑り深いのでそれを解除してあげてないから」

 ミクもそれを知っていた。ジュドーの性格を疑っている訳ではないけど、もし、ツーラ国から何か言えない指令を出されていたら、と不安だった。もう何ヶ月も一緒にいたのだから信用しても良かったんだけど……。私は日本で長く生きていた時にも信用していた人にお金を盗まれたことは何度もあった。悪い人じゃなくても、危機が迫ったときにどういう行動を取るのかはわからない。大事な人がいればその人を優先するためにとっさの行動もあるだろうし。


「ふむ、ではあの発掘場の中で何者かと入れ替わった、ということかな。寝ている間、などに」

「てか、あのゲート四六時中追いかけて来たら怖いんだけど!?」

「だがあのゲートを展開するにはかなり魔力が必要だ。だから無駄に消耗しないようにと出口で待ち構えていたんだと思う。街中をうろうろとはできないはず。発掘場でも我々を追いかけては来なかった」

「それはそうか……」

 私より闇魔法が使える人だとしてもあの大きさのゲートを扱うには消耗がすごいはず。何者なのか分からないけど……。

「まあ、引き続き調査は続けます。どこにいるか、何者か分からないが、高度の魔力を使っていたので発掘場に残滓がかなりある。のでそれを調べても見ます。ので申し訳ないが一旦この話は置かせてもらう」


 カイトらしくドライに話を切り替え、今度は何か小箱を胸元から取り出した。もしかして、とミクと二人でそれを覗く。

「あっ、呪いが解ける魔導具!?」

「そう。いくつか急ぎ加工してもらいました」

 そこにあるのは、カイトが身に着けているものと似たような指輪がふたつ。

「大きいものも発掘できたのであわせて四つ、作れたが……妹のピジョンにひとつ与えたい。もうひとつは予備に王家が持っておきたいので、いまお渡しできるのはふたつです」

「てことは、鴉のサクラと、サチコ陛下の分しかないってことですか?」

 私の質問に、カイトは表情を変えずにそうです、と言う。ふたつ貰えるだけマシなのかな……。しかしそれでは私達一行の呪いは誰も解けない。

「まあまたいつか発掘場に潜るしかないってことか」

「その鴉に渡さずに自分達のものにしてはどうです?」

「それはそうなんだけど、サクラにはこの国に渡るお金とかももらっちゃってるしさあ」

「……王都から逃げられてこの国に渡れたのはサクラのお金や魔導具のテントがあったからなのは否めませんし……。普通に働けば何ヶ月もかかる渡航費でしたから」

「ふうん。真面目ですね」

 カイトは私達の事情にはさして興味がないのだろう。私だってそれは考えた。渡航費がいくら高かろうが、詳しい事情を教えずに私達を動かしているのは腹が立つし。しかしミクの姉のことや多数の人間がかかっている呪いのことなどは情報が欲しい……。


「その魔導具、渡すのであればあなたのゲートでツーラ国につなげてその鴉と交渉してみては?」

「あっそうか」

 またあちらに船で戻らねば、と思いこんでいた。

「もっとミクさんのお姉さんの情報をこちらに寄越すこと、それと……ツーラ国は聖女を集めて何を企んでいるのか。教えなければ解呪の魔導具は渡せないと、強気で交渉するんです」

「う、うん、やってみる」

 

 この魔導具が本物であると示すために、いったんミクは人間の姿に戻ることにした。

 とりあえず深夜にサクラのいそうなところ、あの小屋の中や城をゲートを小さめに繋げて探すと、サクラはいた。


 高い天井から吊り下げられている鳥かごの中に、その漆黒の鴉の体は静かに横たわっていた。


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