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八百比丘尼、異世界で放浪スローライフ  作者: アジ
三章 ソアの国

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60話 獣退治

「まさか、あれがこの発掘場の魔獣のつよいやつってこと?」

 ミクは警戒するように尻尾を膨らませた。背中の毛も逆だっている。私もひどく鳥肌が立っている。あれは普通の魔獣ではない。

「おそらく。……こんな階層にいるような大物ではないのに、どうしてここに。まだここは半ばだ」

「では、私が闇魔法で動きを抑えておくので、ジュドーさんがあの魔獣の眉間に氷を刺してください。」

「は、はい」

 ジュドーが魔法の詠唱をしている間に、遠くで唸り声を隠そうともしないそれの手足に重力をかける。中々うまく抑え込めないが、全力で魔力を放つと、地面にめり込むように魔獣は体を沈ませた。

「今!」

 声を上げると氷の矢がいくつも放たれる。今の私達なら魔力をコントロールしていろんな攻撃ができる。そんなに恐ろしい敵ではない。そう思いたい。

 しかしドドド、と連続してぶつかる音が続いて、破裂音。ミクの光魔法で照らすそれは、なにかが反射していた。

「あの魔獣、バリアのようなものを張ってる気がしますね?氷は刺さってないな。困った。いつもよりも強い。あんなもの、あいつは出せないはずなのに……」

 カイトが焦ると私達も焦るんですけど。

「いつもはどうやって退治を?」

「何かで足止めをして、弓などの飛び道具や魔法で頭を潰していた。が、バリアを張れるらしいあいつは」

「じゃあ、どうやって」

 ホークとカイトの会話を聞きながら、前に猪を倒したときのやり方を思い出す。中身は多分同じような骨格のはずだから心臓を狙えばいい……はず。


「私がやってみます。うまくコントロールできれば……」

 まだ魔獣は遠い。魔法のコントロールはうまくなったが、今の距離だと離れすぎている。ふう、と息を吐いて私だけ階下へと足を踏み出す。

「バンリ、危ないよ!!」

「ミク、大丈夫ですよ。私もなるべく傷つかないようにしたいので、できればカイトさん、危なさそうであれば土魔法で私に壁を作ってください」

「僕はいいんですが」

 背後でミクやホークがすごい顔をしている予感がするので、あえて振り返らないようにする。前は難儀したけど、今だったら近くならもう少し簡単にできそう。

 まだ闇魔法で両足に重力を掛けつつ、体の中の骨を折り体の中の急所に刺そうとするが、虎によく似たその魔獣が大きく口を開いた。何。咆哮をあげるのか、と思いきや口の中が眩しく光る。

「危ない!」

 カイトが瞬時に土の壁を私の前に出現させて火の玉を防いだ。手足を封じても口から炎を出すのは流石に怖い。

「いい子だから、おとなしくして」

 土壁からそっと顔を出して魔獣の方を見やると、闇魔法の拘束も今にも破りそうだった。早くしなくては。ふと、頭の上を見れば光る何かが舞っている。ピジョンだ。


「バンリ様。先程、皆様を眠らせた魔法を全力で掛けてみますわ。効くかは分かりませんが、その隙にお願いします」

「ありがとうございます!」

 ピジョンから強い魔力を感じる。この子は攻撃魔法よりも、状態異常などの魔法を勉強してきたらしい。


「さあ、虎さん、眠っておしまいなさい」

 優しい声色でピジョンは詠唱を始める。唸り声はだんだんと途切れ、魔獣の抵抗する力も少なくなって行く。やがて安らかな呼吸に変わり、魔獣は大きな猫のような顔で丸まってだらしなく四肢を投げ出した。


「バンリ様、今です」

「……ピジョンさん、この魔法はどのくらい効きますか?」

「え?ううん……数時間……最低でも三時間は効くかと思いますが……」

「このまま、寝かせて置いては駄目ですか?私達がこの子の住処に勝手に侵入してきたので警戒しているのでしょうし」

 ええー!と背後からも非難の声が聞こえる。まあ、それはそうなんだけど……。むやみに命を奪うのも、とこの寝顔を見て思ってしまった。それに、ひとつ気になることもある。


「そもそも、この魔獣がここにいるのは、もしかしてもっと奥に強い生き物が出現したとか、何か環境が変わった可能性がありませんか?もし、ここでこの魔獣が死んで血の匂いがすれば、それが寄ってくる可能性もありますし」

「んん……お兄様、いかがでしょうか」

 カイトに判断を委ねてピジョンは私の頭の上をぱたぱたと飛ぶ。一同は静かに階段を降りてきて眠る魔獣を確認すると、カイトは深く溜息をついた。


「もし追いかけてきたら、その時は退治しますよ。確かに奥に何か……待っているのかも知れません」

「カイトが言うなら……」

「ん〜〜なんかそう言われたらさ……私もなんか可哀想な気もしてきた……」

「私もです……」

 元々殺生とは縁遠く生きてきた子達だから、魔獣退治にも怯えというよりも躊躇いがあるはずなのだ。いつか元の生活に戻るときのために、あまり命を奪うことに慣れすぎないようにしたい。私は何百年も前は山に仕掛けを作り獣を捌いて生きていたこともあるから、食べるための殺生なら抵抗はないんだけど……。


 起こさないように、と足音を忍ばせながら先に進む。不思議とそれから、奥に進んでも魔獣は小さいものすらいなくなった。この先にもっと恐ろしいものが待っている。そんな予感がした。

 





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