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八百比丘尼、異世界で放浪スローライフ  作者: アジ
三章 ソアの国

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59話 敵はどこにでもいる

 ピジョンと呼ばれた蝶は、カイトの手のひらでさめざめと泣いてみせた。とは言っても涙は見えないのだが。この蝶によって気配遮断と強制睡眠の魔法をかけられたホーク、ミク、ジュドーは部屋の隅に寄せられてすやすやと寝ていた。カイトが指輪のある指でぽんぽんとみんなを叩くと、すぐに目を覚ましていく。


「ピジョンは、妹です。行方不明と聞いていました」

「わたくしも呪いをかけられて、この有様なのですわ」

 妹か……。癖が強い兄妹だ。カイトには兄がいるらしいがその人たちも個性強いのかな。

「魔力が高いものは小さい生き物になるというが、なるほどお前は蝶か」

「そうなのです。ソアに戻るまで苦労しましたわ……」

 悲しそうに蝶は羽を閉じる。

「僕達がソアを出たのは、跡継ぎ問題に巻き込まれないためだったんです。妹のピジョンは東の国、アリゼに留学していたのですが……」

 跡継ぎ問題の話は以前ちらりと聞いたが、詳しいことは知らない。ベッドの上でまだみんな気だるげに座りながら、続きをどうぞと促す。


「私はアリゼに行ったのに……同じ術式でしょう。この姿ならばソアに戻れないと思ったのでしょうね。そして帰ってきたらお兄様が見知らぬ女たちに騙されて発掘場に入るものですから……!わたくし、止めなければと思ったのです」

 なるほど。たしかに詳しく事情を知らなければ知らない女たちに大事なものを渡そうとしている王子様かも知れない。どこから話を聞いていたんだろうこの子……。

「騙されてはない、と確認するために僕はこの人たちに着いてきてるんだ。親友のホークが誑かされてる可能性もあるから」

「では私も着いていきますわ。それに、魔石は私のほうが優先されるべきですよね?」

 たしかに妹を後回しにはできないだろう……。じゃあ私達は何しにここに来たんだ、となりますけど……。

「魔石は複数見つけて帰ろうと思っているよ。多分、土魔法は今の王家では僕が一番得意だから魔獣を退けられれば普段より深く掘る事ができるはずだ」

「確かに、お兄様の土魔法はこの世で一番かも知れませんわね」

 大げさに言ってるのかな?とじっと二人の顔を見れば、こほんとカイトは咳払いをする。

「この際なので、今の王家の問題について改めて説明させていただきます」



◇◇◇



 長い話になりますよ、とカイトは前置きをする。



「ソアの王家は代々続く土魔法を受け継ぐものが跡取りになっている。ところが数代、重臣の勧めで家柄は良いが魔力の弱い女性との婚姻が続いて王家の者の魔力は徐々に弱くなっていった。そこに現れたのが八尾望だった。彼女はツーラから命からがら逃げてきて偶然前国王に救われたが、出会ったことのないほどに高い魔力を有していた。王家のために強い魔力を取り戻したい王は、家柄などどうでもいいと、黒髪の異邦人とたくさん子供を作ったが……長年、王家転覆を狙う一派がいましてね。魔力の強い子どもたちをなんとか暗殺しようと躍起になっているので僕達は国外逃亡していた。その間に兄が新国王になり、奸臣を牢に入れて行ったがまだ残党がいる、というわけです」

 はあ〜と一同は事情を聞いて声を零す。なるほど、どんな人とでも結婚できるのかなこの国は?と思っていたけど前の王様も危機を感じていたんだ。

「僕達は強いので、普通に戦えば負けるでしょうからね。あちこちで呪いをかけていってるのでしょう」

「お前も本当に大変なんだなあ……」

 ホークが不憫に思っているのか、目が潤んでいる。

「今回は今まで誰も掘ったことが無いほど深く掘ろうと思う。今まではコントロールが上手い者もいなかった上に魔獣も強かったので、中々うまく行かなかったが。貴女たちなら多分大丈夫のはずだ」

「はい。頑張ります」

 力強く返事をするが、小さな蝶からなにか殺気を感じる。私に……ではない。これはホークにだ。

「それにしてもお兄様……。わたくし、親友のホーク様は男性とお聞きしていましたがこんなにかわいい女性だったなんて……」

「ピジョン、ホークも呪いでそうなっている。しかし、男に戻ってもホークは可愛いからな」

 もう私達はなんのツッコミもしなかったが、ピジョンは蝶のままでもわかりやすく憤慨していた。ブラコンなんだ……。



◇◇◇



 蝶のピジョンを連れて部屋の外に出ると、相変わらず昼夜の分からない暗闇に魔導具の明かりが所々照らす道が続いている。

 まだ少し眠そうな雰囲気の面々を後衛に置いて私とカイトと、ゴーレムのカイト2号が先を進むことにして、まだそんなに大きくない魔獣を倒しつつ、次の階下へと降りる階段までたどり着いた。何故か、階下は妙に暗い。魔導具が不調なのだろうか……。


「うん?なにか下から大きな獣の唸り声が聞こえるな。皆さん、いつでも戦えるように構えていて下さい」

 カイトの不穏なくちぶりに怯えつつ、私達は階段の先をよく見るためにミクの光魔法で下の方を照らして様子を見る。


「そんな馬鹿な」

 カイトの声が演技ではなく焦りが含まれるのが分かる。

「まだ、ここにあの魔獣がいるはずがない」


 光に浮かび上がったのは、巨大な虎のような生き物だったが、額にも目が付いている。普通の生き物ではない。


──そのおそろしいものと私は、目を合わせてしまった。



 


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