56話 カイト2号
三日後に発掘場に向かう、という事になり、一旦魔法の授業は休止にして私達は準備を進めることになった。基本的には食料は私の闇の皮袋に沢山持っていく。ミクの部屋にゲートを繋げて少し食料等を置いてはいるけどご家族が訪ねて来たときに驚くだろうし、気軽に出入り出来るのがミクだけでは取り出しが難しい。なのでそっちはいざという時のためにしてなるべく当てにしない。
闇の皮袋はカイトも興味深そうに調べていたが、ソアの国で昔作られたもののようだった。実物を見たのは初めてと言っていたので珍しいものらしい。カイトもあれもこれも、と入るサイズのものは私に預けている。
それとは別に、ひとりひとり足首に不思議な魔導具をつけるようにと渡してきた。
「これは何ですか?魔力を完治したら光る系……?」
「いえ、有毒な何かが出ていたら反応します。どうしても発掘調査にはつきものの事故もありますので」
「ああ。炭鉱のカナリア的なものなんですね……」
「炭鉱のカナリア?」
私とカイトの会話に、ホークは横から尋ねてくる。
「発掘などをしていると、地下から有毒ガスなどが出て知らないうちに中毒になっていったり……中には即死するほどのものもあります。昔は鳥を連れて行ってその様子で危険さを察知していたそうです」
「そう。鳥の代わりの魔導具ができたんだ」
この世界でも何かの鳥を連れて行ってたのだろうか?カイトがくれたアンクレットの宝石は今は当たり前に何も反応はない。
「私が先頭を切って行けば別に……」
「バンリさん、先日も言いましたが」
「あ、はい……。分かってます」
先日カイトに「すぐに治癒出来たとしても、必ず痛みがあるのを恐れてほしい」と言われたのを思い出す。このまま不老不死だとしても、痛みを忘れないようにしなければ。今までずっとひとりだったから、周りの人も悲しむことも忘れていた。それに発掘場では、解呪の魔石があるし、それに触れればまた不老不死ではなくなってしまう。
「というわけで、諸々の装備を一部預けておく。バンリさんの闇の皮袋に入れられるものは入れておいてほしい」
手で掴めるようなサイズのものは闇の皮袋に入れて、あとはリュックの中に入れて背負っていく。意外にも荷物は軽かった。
「発掘って、なんかツルハシみたいな物とかいらないんですか?」
荷物を確認しながらジュドーが疑問を投げると、カイトはいつものように余裕の笑みで一同を見渡す。
「僕が土魔法で発掘します。そもそも解呪の魔石は脆くて小さい。代々ソアの王家に伝わる土魔法の使い手でなければ発掘は不可能と言われています」
「なるほど……。そもそも、魔石は鉱物なんですか?」
更にジュドーが質問する
「いや。発掘場に住んでいる魔獣の主の体の一部が結晶化したものが埋もれているものです。まあ、なので魔獣との戦いは避けられないでしょう」
ええ〜!!と一同は叫んでしまう。いや、私もたま〜に出現するのを退治しながら進むのかなくらいに思っていたから流石に怖い。あの猪レベルかもしくはもっと強いのとか。
「大丈夫ですよ、今のあなた達でしたら問題はないでしょう。そのために勉強して頂いたのだから」
まあそうですけども……。ソアの国の魔獣に対して実戦経験には乏しいからそこが不安なんだけど……。
「あ、そうだ。そういやツーラ国から持ってきた魔導具に土魔法のがあったんだけど、どう使うか分からなくてそのままにしてたんだ。多分魔力も補充されてないけど、カイトなら使えるか?」
ホークが自分のリュックから小さな人型の土魔法の魔導具をいくつか取り出す。鴉のサクラが集めていたいろんな小型の魔導具は、道中の街では見かけないものもあった。説明がない魔導具もいくつもあったので、とりあえず持っておくだけ、と小型のはずっと荷物に入れておいた。魔導具には各属性のマークが書いてあるものが多い。土魔法のものはチャージ式というのはわかったのだが、人形のマスコットのような魔導具は使い方が分からなかった。お守り……?
「ふむ。その、サクラという鴉に与えられた魔導具はどれも希少なものが多い……。言い換えれば市場に出ることはない特製のものや、違法なものがある。この土魔法の魔導具はエルフたちしか作れないものと見受けるが、どこから盗んだのやら」
カイトは口調の厳しさとは裏腹に、にやにやと妙に上機嫌だ。人型のそれに、カイトが魔力を込めるとその魔導具はふんわりと光を帯びる。
「これはこう使う」
ポイ、と床に投げられたそれは、軽い爆発のような衝撃と煙幕を出してきて思わず目を閉じたが、次に視界に入ってきたのはカイト……がもう一人増えて並んでいる姿だった。
「なにこれ!?」
一番先にミクが叫ぶ。
「まあ、ゴーレムの応用ですね。僕の魔力を入れておけば、この魔導具を投げた人の姿になり言うことを聞くようになります。人数分あるな……。僕が魔力を注入しておくので各自携帯していて下さい」
「ゴーレム……土人形ですね。もっとロボットみたいなゴツゴツしたものを想像していました」
私が日本にいるときに本やゲームなどで得たイメージとは少し違う。
「そう、なのでこれは特殊な魔導具ですね。まあ身代わりにはなるでしょう。そして他の使い方がわからない魔導具もお預かりしても?」
カイトに言われるがまま、ツーラ国から持ち出したなぞの魔導具たちを袋に入れて預ける。特に何にも使ってはいなかったのでまああってもなくても、という感じのものばかりだけど、きっと博識なカイトなら調べることが出来るのだろう。
「では、三日後のためにコンディションを整え、準備を見直して下さい。十分に睡眠と休息は取ること。それでは」
「ちょ、ちょっと待てカイト。お前にそっくりなこのゴーレムどうするんだ!?」
言うだけ言って王宮に帰ろうとするのでホークが慌てて止める。ちら、と無表情なそのそっくりな土人形を見てカイトは「今日からホークを付きっきりで護ること」と告げると、私達の制止も聞かずにそのままカイトは屋敷を出ていった。
「え!?こいつ俺についてくるんですけど」
「ほんとだ……こわ……っカイト2号なんなのこれ……」
ミクが勝手にカイト2号と名付けたそれはホークの寝室にまでついてきて、一晩中ソファに座りホークにつきっきりだったそうだ。
カイト2号がストーカーのようにホークにつきっきりになったまま、発掘場に潜るその日はやってきた。




