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八百比丘尼、異世界で放浪スローライフ  作者: アジ
三章 ソアの国

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55話 なつかしい訪問者

 その後も午前中はレッスン、午後は屋敷で自習、夜はテレビを見ながら過ごす……というルーティンになっていた。魔法はそれぞれコントロールも、使える種類を増やすのも順調だ。


 最近のカイトは徳川吉宗が一般人のふりをしながら江戸の揉め事を解決する時代劇にハマりすぎている。こないだミクが名前を出すから……。しかしホークとジュドーも楽しみにして毎回お茶とおやつを用意して待っているのだ。仲良し兄弟みたいになっている……。ミクは他の番組が見たいらしく、スマホにダウンロードできる動画などをあちらで落としてきてソファで適当に流している。こちらの世界では通信はできないが、充電したものをこちらに持ち込むことはできるのだ。

 そして私も結局一緒に時代劇を見ている……。


 ふと、玄関のベルが鳴り、みんなはそちらを見る。この屋敷には、こんな夜にはカイト以外に誰かが来ることはない。


「……母上だな」

 カイトは心当たりがあると、玄関の方へと向かう。ドアの覗き穴から確認して開くと、黒髪の女性がにこやかな笑顔で現れた。



「八尾望さん!」

 記憶よりもちろん老けているが、その人だと分かると私は立ち上がる。テレビを見ていたゲートは集中が切れることで閉じてしまったが、皆も八尾望の方を見て「あれ……?」と呆けている。

 やはり、私達は少し似ている。今はそっくり、というほどではないが。身内と言われれば疑いはしないだろうというほどには。



◇◇◇



「ごめんなさいねえ〜!毎晩息子がお世話になって!皆さんにご迷惑かけてますよね!?あっこれ、ソアの国のお菓子なんですけど皆さんで召し上がって下さい!もっと早く会いに来たかったんだけど、最近忙しくてなかなか時間取れなかったんです」

 護衛の男性二人を玄関の外に待たせ、八尾望をソファに案内するとみんなに軽く挨拶を済ませる。菓子折り複数をドドドと机の上に置かれるとみんなの目はかがやいた。四十代半ばのはずのその人は年齢より若く見える。私も年を取れたらこんな感じになるのかな?

「そしてバンリさん、お久しぶりです。よかったわ、お礼を改めて言おうと思っていたら私酔っていた日に朝起きたらここにいて、そのまま住むことになっちゃって」

 酔っていたら?新しいパターンに驚きつつその人を見るが、嘘をついているようには思えない。

「いえ、こちらこそ……。通帳や携帯などお世話になったので本当に助かりました。……で、ここに来たのは崖から落ちたわけじゃないんですか?」

「ええ、そうなの……お酒飲んで、眠くなって、めまいがして……?ツーラ国の地方の村にいたのよねえ」

 そんなパターンもあるんだ。十数年前はゲートの場所が違ったのかな……。

「今は忙しいけど、楽しく過ごしていますよ、あの頃みたいなひどい男に追い掛け回されたりはしていませんよ、安心して」

 八尾望はにこ、と優しく微笑む。似てる……と横からホークが言う。私は自分の笑顔を鏡で見たことはないのだが、そんなに似てるのだろうか。


 初めて会ったとき、あまりにお互いが似ている、と意気投合し、この明るさに引きずられて数回会うことになった。思えばカイトもこの人の子というのもよくわかる。非常にマイペースだ。

 こんな明るく元気な人が、DVをする彼氏のせいで日々顔や腕に痣をたくさんつけていたのだ。なんとか助けてあげたくて、私が死んだふりをするから、と提案してなんとかうまく行き、引っ越ししたのだったが、その後連絡が取れなくなったので心配はしていたのだ。あまりにも大きな金額が入っている通帳を渡され戸惑ったが、その頃の私には断るほどの余裕もなかった。別のところから夜逃げしてきたばかりだったのだ。

 まあ、私も多少縁ができても急に音信不通になることも当たり前に多かったので探すのもすぐに諦めたんだけど。


「そう、それでね、バンリさんを私の養子に……というお話なんですけど。カイトから聞いてる?」

「はい、それなんですが……望さんの妹の子ども、ということにはできませんか?姪っ子ということに……」

 もし何かあったときに相続争いに巻き込まれたくないので娘と言うのは避けたい。ん〜、と八尾望は首を傾げる。カイトの方をちらりと見ると「それでも王家の身内という体で、魔導具を与えることは出来ます。というか可能にします」と、無理矢理に法を曲げるような口ぶりだ。

「カイトが言うなら大丈夫かあ。じゃあ、そういうことにしましょう!手続きは私の方でしておくから!そして、ちゃんと魔導具になる魔石を見つけてこないとね」

 八尾望の左手の薬指に、カイトと同じ指輪がきらりと光る。そう、この魔石の発掘に向かうまであと十日ほどになった。果たして発掘場に向かって問題ないレベルになっているのか。


「彼女たちはアオイ先生のおかげで大分強くなっていますよ。もともと魔力は強いので、コントロールや戦い方を覚えれば敵はないでしょう。ご心配なく、母上」

 カイトは母親の前ではおとなしいな……。と思いきや、八尾望はフフフ、と笑う。

「心配って、一番心配してたのはカイトでしょう。もうねえ、この子、王宮ではずっとあなた達の話ばかりなのよ。様子を見てきたら順調だとか、テレビをみんなで見るのが楽しいとか。こんな性格だから、お友達少ないでしょ?ホークくん以外のお友達いなかったし。でもあなた達の話をするときは楽しそうなの。これからも仲良くしてもらえたら嬉しいわ」

「母上、そのへんで」

 カイトがいつもの余裕綽々な顔を顰めて止めようとしても八尾望は満面の笑みで息子トークをやめない。ミクはカイトの肩の上で「ママには弱いんだ。うける」と笑っている。


「ところで、テレビ私も久しぶりに見てみたいんだけど……いいかしら?」

「いいですけど、今の我が家の流行りは時代劇ですよ」

「あら!いいわね」

 八尾望も加えてまたゲートを開く。さっきの続きを再生すると、おなじみの役者の名前を八尾望は叫ぶ。

「有名な役者さんなんですね」

 ジュドーが感心していると、八尾望はそうなのよ〜と嬉しそうに語りだした。

「母上、お静かに。テレビの音が聞こえません」

「カイトも見てるとき独り言多いだろ……」

 ホークの突っ込みはスルーして、カイトはテンションの高い母親を諌める。発掘場に行くのは緊張するが、最近この時間は悪くはないと私も思っている。

この間、ミクが一家団欒みたいと言ってたけど、血が繋がってない私も家族みたいに思ってくれるだろうか?私の方から聞くのは出来ないが、この時間が永く続けばいいのに、と思わずにはいられなかった。

 私がこの世界で求めているスローライフはひとりでのどかに過ごすことだったけど、みんなとだったら。気がつけば私も口の端が上がっていたみたいで、向かいのソファに座っていたホークが八尾望さんと見比べて「やっぱり似てるなあ」とつぶやくのだった。




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