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八百比丘尼、異世界で放浪スローライフ  作者: アジ
三章 ソアの国

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54話 一家団欒て感じ

 私もアオイ先生のレッスン三日目にしてなんとかチョークで黒板に文字を書けるようになった。ジュドーはやはり器用で、そもそもカイトにも使える術を増やせと言われていたのでそちらの勉強に移行していた。攻撃魔法が増えたので、魔獣が出て来ても対応出来るようになってきている。水魔法の応用で細い氷を作り対象に突き刺す術は殺傷能力が高そうだ。風魔法も竜巻を起こして対象を浮かばせて地面に叩きつけるなど戦い方を増やしている。ジュドーがどんどん怖くなってきている……けどこないだのような大きな魔獣が出たら、いや、あれより大きな魔獣に遭遇したら、と思うと怖い。

 ミクもマッチの炎くらいの小さいものを器用に操れるようになったし、攻撃は効果範囲を狭くして、炎の温度を高くする術をなども学んでいた。光魔法も目くらましの使い方とか、いろんな応用が増えた。

 私の闇魔法はそもそも攻撃のためのものが殆ど無い。ので猪にしたように、体の中を操作する方法などが提案された。それとやはり基本的には足止めだ。私が足止めしている間に皆がとどめを刺す、というチームプレーで魔獣と戦う事にする。

 しかし、アオイ先生は私には発掘場に向かうための訓練とは別の勉強も教えたいようだった。



「バンリさんも、日本へのゲートを開けますよね〜?」

「あ、できました。猫が通れるくらいの開き方ですが」

「おお…!私より大きいですね、流石です」

 アオイ先生はぱちぱちと小さな拍手をしてくれる。レッスン七日目の今日は三人並んでとりあえず座学なのだが、あのゲートの話題になる。

「私は鼠が通れるくらいの小ささなんですよね〜」

「あっじゃあアオイ先生、最近日本のおやつとか食べてないでしょ!?あるよ、私の部屋に」

 ミクが自慢げに言う。闇の皮袋に入らないものはミクの家の台所に少し買い置きがあるのだ。私がゲートを繋げると、アオイ先生は目を大きく見開いて、これはこれは〜、と感動してみせる。

「先生はポテチ好き?」

「好きですよ〜。久々に食べられるなんて、嬉しいですねえ」

 アオイ先生はコンソメ味が好きらしい。取り出して、あとで食べて、とミクが押し付けるとうきうきとこの部屋の引き出しに仕舞っていた。

「私はたまに、小さなゲートから手を伸ばすくらいしかできなかったので、羨ましいですねえ。でも、この世界のどこかに日本に人が通れるほどの大きさを繋げられる魔力の持ち主がいるはずなんですが……どこにいるんでしょうねえ〜」

「アオイ先生もご存知ないのですか?」

 私の質問に、静かにふくよかな顔を頷かせる。

「分かるのは、ツーラ国から繋がっていることくらいですね〜。闇魔法の魔力を複数人で集めても、あの大きさには出来ませんでした……。バンリさんと私を合わせても、まあ、よくて犬が通れるかな、て程度でしょうねえ」

 犬かぁ……。細い人間だったら通れないこともないけど。でも、多分私達が通ったゲートはそんなものじゃなくてもっと大きな、余裕で複数人はいるほどのものだった。

「じゃあ、魔導具を作ってそこに闇魔法の魔力を日々注ぎ込み、ここぞという時に使うというのはどうなんですか?」

 ジュドー、賢い……!しかしアオイ先生はすでに思いついていた事なのか、う〜ん、と首を傾げる。

「そういうものがあればいいんですが、魔導具師の人に尋ねてみたところ、今の技術では難しいみたいです……。膨大な魔力が必要なので、それに耐えられる魔石をまず発掘しないといけないですし、きっとそれは巨大でしょうから〜」

「隠れてそういう技術を会得している人がいるという可能性はないんですか?」

「ゼロではないでしょうねえ。いるとしても、ツーラ国のどこか、かなぁと〜。この国を探し回ったけど今のところは見当たりませんね」

 もしかして聖石というのがそれだったりしないのかな?しかしあれは最近は闇魔法の魔力は注いでないらしいとミクから聞いたし。

「まあ、今後も引き続き調査と研究は続けていきますので〜!皆さんが日本に帰れるようになったらいいですねえ」

 アオイ先生は戻りたくないんですか?と聞こうとしたが、あの崖から落ちてここに来たんだったら、あちらに未練は無いのかもしれない。

 そもそも街中とかにあのゲートを通さないのは、日本に未練が少なさそうな人が来る場所を選んでいるのかな。色々と疑問は尽きないが、アオイ先生が今日の授業です〜と黒板に何かを書き始めたのでとりあえず疑問は封じ込めた。



◇◇◇



 屋敷に帰宅して一旦晩御飯の買い出し、準備をしたあとに各自復習の時間になる。ホークはランニングに出る。

 台所にいるのは嫌いじゃない。人数分作るのは大変だけど。ソアの国の収穫物は日本の野菜に似ているものが多くて和食が好きな私には合っている。そして日本にゲートをつなげ、醤油とみりん等を持ってきたので何でも作ることができて嬉しい!

 ――晩飯にほぼ毎日カイトがいることを除いては……。



「カイト殿下はこんなに毎日ここに来て大丈夫なの?」

 ミクはもう大分馴れ馴れしくカイトの肩に乗るようになってしまった。カイトもそれを許可している。不敬にならないんだこれ。

「元々僕は市井をふらついて情報集めをするのが趣味……いや、仕事みたいなところがあってあまり王宮にはいませんからね」

「徳川吉宗?」

 時代劇のイメージでミクが言う。そういや初対面のときにもそう言ってたな……。


「さて、バンリさん。ドラマの続きをサブスクの配信で見せてもらいましょう」

 そしてこんな態度でかでかで要求する王子様そういないでしょうね。そう、カイトはテレビを見せてから毎晩続きを求めるようになっていた。私がゲートを開き、ミクの部屋につなげてテレビを流す。


「カイト、テレビを見るのも電気代ってのがかかるんだぞ!タダじゃないんだ!」

 ホークが横から注意をすると、ふふん、と何も動じずにカイトは笑う。

「十数年前、僕の母はバンリさんにとある件の報酬として通帳を渡している。多めに金額を入れていたそうなのだが、さて何年分の電気代にあたるのか……」

「ぐっ……」

 カイトが私の方を冷ややかに見やる。確かに八尾望さんは私の死んだふりやさんの報酬よりはるかに大きな金額をくれた。それを十数年経って持ち出すか……この息子……。

「分かりました。どうぞお好きに……」

 やったー!と私以外の全員が喜ぶ。子供のわがままをきくお母さんみたいになってるんだけど……。まあ怪しげな商売で貰いすぎたお金なので還元するのは仕方のないことかも知れない。

 仕方なくゲートを繋げて、ミクの部屋でドラマを流すのをこちらで見る。時代劇などが好きらしいが、基本的に何でも見るようだ。

 ゲートをくぐってこちらに来た私達の言葉は翻訳されるが、テレビや雑誌の言葉はこちらの国の人には翻訳されない。それでも、最近みんなは日本語がなんとなく分かって来ているのと、カイトは八尾望さんから習った、プラス地頭がいいのか労せずドラマなどを楽しめている。私はずっとゲートを出したままでいないといけないのでリビング以外にいけないし、何度も見た番組だとそんなに集中出来ず、アオイ先生からもらった魔法のテキストを片手にゲートを開いている。


 それでも、テレビを見るときはお菓子を食べていいルールにしたので街で買ったものや日本で買い込んだ駄菓子などをテーブルに広げて皆で食べつつ、感想を言いつつ、皆でいろんな番組を見て過ごすのは悪くなかった。


「なんかさあ、昔の一家団欒って感じで楽しいねこういうの」

 ミクが言うが、私には一家団欒と言うのはほとんど経験がなかった。両親と兄弟がいて、ペットの猫とかがいて、お茶の間でみんなで夜をゆっくり過ごしたりするんだろう。ドラマや漫画で見る風景だ。

 

「日本ではこういうふうに皆でテレビ見て過ごしたりするんですか?楽しそう!私の両親も、昔はこうやって過ごしたのかも知れませんね」

「そうですね、きっとジュドーさんのご両親も……」

 言いながら、久しぶりに家族というものが羨ましくなってしまった。今、家族みたいにみんなで過ごしているけど、肉親が今生きてないのは私だけなのだ。一瞬暗くなった顔を見られまいと、私はまた魔法のテキストに目を落とした。


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