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八百比丘尼、異世界で放浪スローライフ  作者: アジ
三章 ソアの国

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53話 不倶戴天

 多分最初に魔力のコントロールがうまくできるのはジュドーなのだろう。授業の様子を見ていて、ジュドーが一番浮かせるのはうまかった。風を巻きつかせて操作するのだから、昔から魔法の練習をしていたジュドーならば容易に思えた。ツーラ国でも王都からの追手が来ていたときにも器用に風を起こしていたし。ミクは光魔法でふわふわと浮かせることもできるけど、力を入れるのは難しそうだった。


(私が一番下手だった……)

 庭に出て、木の枝を重力で折る。そもそも闇魔法は向いてないでしょ、重くすることは出来ても、と文句も言いたかったけれど、浮かせるのではなく重さを変えるイメージをすればいける、とアオイ先生は器用に動かしてみせた。

 昔から逃げる癖ばかりついていたし、何かができなくてもそんなに焦ることはなかった。音を上げればあのカイトがまた厭味ったらしい態度を取ってくるに違いない。何より魔力が多いだけで役立たずなのも悔しい。

 そういえば、悔しいという気持ちは久しく持ったことがなかった。長生きしていてもまだ知らない自分の一面があるのは面白いかもしれない。ふう、と息を整えてまた枝の重さを変えるイメージでいくつか折る。


「おや、そんな野蛮な練習法を?木が可哀想ですね」


 うっ……。あいつだ……と、思いながら振り返るとやはりカイトがいる。

「あとで治癒魔法で枝は戻します」

「まあいいですよ、最近手入れも放置気味でしたし。ところでホークはどこに?」

「ランニングに行きました。体力づくりだそうです」

 手を止め、カイトの顔を見れば少し残念そうな素振りを見けて庭のベンチに座る。え?帰らないの?

「続けてどうぞ?ここでホークを待ちますので、ついでにあなたの自習を見ていきましょう」

「……気が散りそうなんですが……」

「お気になさらず」

「気になります」

 ふふ、とカイトは鼻で笑う。正直、性格がどうとかというよりあの魔導具に触れたときのことを思い出すと鳥肌が立つ。不老不死が無効になるのは正直恐怖そのものだった。いつか自分にも老いと死が訪れるようにしたいと思ったが、突然のことで心の準備ができていなかった。油断していた自分が悪いんだけど。


「あ!」

 木の枝を、いい感じに幹に当てられることができて思わず声を上げた。これが黒板なら線を引けたかも。もう一度今の感覚を思い出して、とやってみるが今度は枝を砕いてしまった。……たしかに木が可哀想かも知れない。幹に砕けた枝をあてがうと、治癒魔法を唱える。吸い込まれるように幹に溶け込み、元からあったような枝に変わった。


「ふむ、器用なものですね」

「まあ……でも、日本から来た人なら使える人はたまにいるんですよね?」

「いるにしても、あなたほど魔力が多い人を僕は見たことがありませんよ。ツーラ国から逃げて来た女性や、違法な魔導具に魔力を注入するために売られてきた女性がこの国には多くいますが……」

 やっぱり逃げてくる人は多いのだろう。どちらにせよ、魔力をを利用されそうにはなるのか……。他にここですぐにできる仕事のというのも、現代日本の女性だと多くなさそうだった。肉体労働も多いし。

「私の魔力の多さはたぶん不老不死のおかげで体力自体が尽きないからじゃないのかなと……」

「なるほど。だから貴女は……」

 カイトは何か言いたげな顔のまま、一旦口を噤む。なんなの……。天敵、不倶戴天、いろんな言葉が頭に浮かぶ。きっとあちらも私のことは苦手なのも分かっている。親友をたぶらかした悪魔に見えているに違いない。しかしずけずけと無遠慮に物を言う癖に今こうして言葉を選ぼうとしているのは、何かを配慮してのことなのだろう。


「まあ、不老不死はバンリさんの最大の武器でしょうが、僕のような者に会えば無意味だ。それに……先日も思いましたが、貴女はもう少し、命を大事にしたほうがいい。その枝なども、元に戻るのならばいいというものじゃないでしょう。貴女自身も、まわりの人間も、怪我をしてすぐに治癒出来たとしても、必ず痛みがあるのを恐れてほしい」

 それは確かにそうだ。ミクにも死んだふりやさんを禁止されたけれど、私は傷つくことに対しての恐怖を忘れていた。痛いところを指摘されて、私は触れていた木の幹に謝罪するように撫でた。治癒の魔法が少し漏れたのか、木の枝葉は全体的に色を濃くして揺れた。

「……ありがとうございます。肝に銘じます。私も長く生き過ぎて、忘れていました、大事なことを」

「いえ、貴女のためというよりはホークが不憫なので」

 嘘偽りなく真顔でカイトは言う。この人ってホーク以外に友人はいるのだろうか……。

「カイトさんのおかげで、色んな気持ちを最近思い出せて、本当に感謝しています。まだ自分に、こんな感情あったんだなって……」

 苛立ちとか恐怖とか、悪い方だけど。人間にはだいじなものだった。

「はは、僕もですよ。貴女のおかげで、自分がこんな性格だったんだと思い出せました」

 いつもそういう感じじゃないんですかと言いたい言葉は飲み込んで、ふと屋敷の門の方を見るといつの間にかランニングから帰ってきていたホークが上気した顔で立ちすくんでいた。

「すいません……なんか……いい雰囲気を邪魔した感じですよね……。なんか俺にはわからないんですけど……ふたりには……いい感じの気持ちが通っているということですよね……。もしかして、気が合ってるのかな〜とか思い始めてたんですが……はい……」

 勝手によく分からない解釈をしたホークが複雑な表情でぶつぶつと零している。


「そんなものじゃない」

「そんなものじゃないです」

 私達は声を揃えてホークに言う。確かに気が合ってるのかも知れない。

 


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