5話 村のご神木が……
「あ、私永瀬未来。いや、異世界に転移する話とかたまに聞くじゃない?でもきっかけは死ぬ直前じゃないといけないらしくて……。トラックに突っ込むなんて人に迷惑をかけちゃだめだし、あの崖って飛び込んだ人は不思議と死体が上がらないらしくてもしかしてそういうスポット?とか思ってチャレンジしてみたわけで〜」
ナガセミクと名乗ったそのひとは落ち着くとぺらぺらと状況を説明し始めた。
「チャ、チャレンジって、死ぬとこだったんですよ普通に考えて……!!」
戦慄きながら私が言うと、少しヘラヘラとしていたミクは笑顔を消した。
「いいの、そんときゃそんときで。もうあの世界にいたくなかったし」
「ええ……」
何か事情があるのだろうが、他人に踏み込まないようにして過ごしてきたのでそれ以上聞きたくもなかった。
「あの、私は準備ができたら街の方に行くつもりですけど、ミクさんは……?」
「そうね、私も途中まで一緒に行こうかな。後のことは後で考えるよ」
明らかに私のほうが年下に見えるのだろう、ミクはタメ口で話してくるが私からしたら若者も若者。後で考えるとか言ってるけど心配になってきてしまった。
翌朝、一家にミクが目を覚ましたことを教えてやるとよかったよかったとまたヘラがご飯を作ってくれた。いくらこの家が作物で食べるものには困ってないとはいえ、二人分の食事をいつまでも作ってもらうわけには行かない。私の生命力を分けたからかミクは数日ぶりに目を覚ましたはずなのにやたらと元気だった。表情は暗いものの、肉体的には問題はなさそうだ。
「いつまでもお世話になってはいけませんから、故郷を探して明日には出ていきたいと思います」
「まあ、もっとゆっくりしてよかったのに……」
ヘラは心底残念そうに言う。
「じゃあ、明後日にしないか?明後日なら街に荷車を引いて野菜を売りに行くんだ。女性だけでは危ないからさ」
ラズがそう提案するので、ミクと顔を見合わせて頷く。街までは朝出発して昼過ぎに到着するくらいの遠さらしい。歩くのは苦ではないが、ミクは明らかに気が乗らない顔を見せたが仕方があるまい。現代っ子は徒歩で数時間移動はそんなに経験はないだろう。
◇◇◇
せっかくこの村に来たのも何かの縁だから、と翌日はマリナとカーターが村の僅かな名所などを案内してくれた。大きなブランコとか、何百年も昔からある老木とか。
何百歳、て感じなら私より少し下かなこの老木も。と手のひらで木の幹を触ると、不思議な感覚がある。昨日も少し感じたことだったが、手をかざすとその人の悪いところがなんとなくわかるようだった。この老木も何かの病気にかかっているのかも知れない。マリナたちがミクと鳥などを見て目をそらしている間に、治癒魔法を詠唱する。老木はピキ、ピキと変な音を立て始めた。何か失敗したかな!?と手を離すと急に枝葉が伸び始めて花が咲いていく。
「ん、バンリさん、何して……え、ええ……!?」
こちらに気がついたマリナが老木を見上げると幼い頃から知っているであろうその木は長年咲いてなかったらしい花を満開にして若返ってみせた。
「ま、マリナ、その、これも内緒に……」
「内緒にするの無理だよ流石に!!うちに帰ろう!!」
マリナ、カーター、ミクと慌てて家に走る。人口の少ない村なので目撃者は多分いないが、家路までに何人かすれ違いはした。
「何か聞かれてもしらばっくれて欲しい」
「あの木に近づいたら急にお花が咲いたって言うの?」
「う、うん……」
マリナとカーターは不安そうにしつつ、分かった、と頷くがしばらくして帰宅した父親のラズは汗だくである。
「パパ、どうしたの」
「村の、御神木が……花が咲いた、生まれて初めて見た」
あれご神木だったんだ……。勝手に事をしてすいませんほんとうに……。
「子供の頃、ばあちゃんから聞いた予言がある。あの御神木に花が咲き乱れる時、国に聖女様が現れる、と……」
姉弟が同時に私の方を見た。
いや、私じゃない!私じゃないと思います!多分。
ミクはとなりで何も喋らずに横目で私をじっと見ているばかりだった。
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