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八百比丘尼、異世界で放浪スローライフ  作者: アジ
二章 放浪開始

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40/60

40話 異世界へのゲート

「や、やっと船酔い落ち着いてきた……。お薬買っててよかったね……」

 気持ち悪さがやっと消えて来たところでミクがベッドで背伸びをする。私も起き上がって深呼吸をする。怪我や疲労などは回復する魔法があるのに船酔いは駄目だった……。なんせ私以外、船旅が初めてなのだった。私も何度も乗ったことはあるが、近代になってからは陸路が主になっていて船は久々だった。本当に波止場にあの人を置いて来られてよかった。

「……そう言えば……」

 二人分のベッドをぴっちり横並びに並べて、私、ホーク、ジュドーが三人並んで寝ていたのだが(ミクはその隙間に)、ジュドーが乗船券を胸元から取り出して部屋の番号を確認する。

「あのひとの部屋が予約してあるはずですよね。確認してきます」

「あ、ジュドーさん、私もついていきます」

「私も~」

「じゃあ、俺も……」

 ぞろぞろと部屋を出ると、旅客が廊下を数人歩いている。格安の部屋を取ったからか、この部屋のエリアは身なりも庶民、って感じだ。しかしジュドーが奪った王都の兵士らしき男の乗船券は、私たちの部屋とは大分離れている。この大きな客船は中身は三階建てだ。

私たちは一番下。これは上の広い部屋だな……。


「ここですね」

 ドアの装飾から既に高価な雰囲気がある。ジュドーが乗船券に書いてある番号をドアに入力するとその扉は重たげに開く。


「うわっ広っ。流石お国の仕事の人は違うわ」

 ミクは大はしゃぎで部屋を駆けまわる。ベッドもふかふかだ……。一人部屋なのに私たちの部屋より広い。

「ジュドーはここを使ったらいいんじゃない?」

「そうですね、折角ですし……」

 ジュドーはきらきらと目を輝かせて部屋を見渡す。ミクもベッドの上で楽しそうに飛び跳ねている。この船の乗船券は特に名前などは書かれないし、売り場から船員にどういう人間が乗るのかも通達はされないようだ、しかし一人部屋に数人がずっといれば船員から怪しまれるかもしれないので、ほどほどにしないと。


「そうだ、そういえばバンリさんは闇魔法を使われるんですよね。私の母と同じです」

 ジュドーがふっかふかのベッドに腰かけ、落ち着いたのか何かを思い出し自分の旅行鞄を開けるて探る。出てきたのは大分古いノートだ。手書きで何やら書いてあるが、全て日本語だ。

「これは母のメモです。私、この世界の生まれなので日本語難しいのは読めなくって……。両親はここに来たときからこの世界の文字の読み書きは出来たそうなのですが私はひらがな程度しか日本語は今も読めません」

「そうなんだ……」

 この世界の言葉が自動で翻訳できているのは謎だけど、確かに逆に私たちの日本語の文字自体はこちらの人には読めないみたい。

「お城から帰って来なくなってから、家の整理をしていたら出てきたんですが、何が書いてありますか?」

 手渡されたそのノートを見ると、あちこちで見つけた本にはない色んな闇魔法が書いてある。闇と光、治癒は一般人は使うことがほとんどできない。出来るひとは王都に報告をし、呼ばれることになっている。簡単なものは本に載っていたので使えるけど、もっと高度なものがあると思っていた。


 ――闇魔法は時空を操作できる魔法。ここと日本も闇魔法で繋げられて私たちは連れてこられた。


 そう、冒頭に書いてある。そういえば闇の革袋みたいにどこかに繋がっている魔道具もあるけど、私たちがここに転送されてきたのは誰かの闇魔法のものだったのか。続けてメモを読み進める。



『私も闇魔法が使えるので日本に帰れないか、色々試してみたけど自分の部屋の物を取り出すくらいしか空間を繋げられない。猫くらいの大きさだったら行き来できるだろうけど、人間は難しいだろう。もっと魔力が必要』

『実家に手紙を送ることはできた。お母さん、元気そうでよかった』

『闇魔法のアレンジを発見。メモしておく』



「す、すごい……。これ、便利ですね……。もっと早く知りたかったです」

 私が震える横でそれを読みまくっている隣で、ミクがぴんと耳と尻尾を立てる。

「え、ちょっと待って。じゃあ、私くらいだったら一旦日本に帰れるってこと?バンリが頑張れば人間も帰れるようになるの?」

「そう……かも知れません。ちょっと、試してみましょうか」


 本に書いてある詠唱をぶつぶつと唱える。手を目の前にかざしていると、ぐわんとめまいのような感覚がしてその先に何かが見える。……日本だ。私は今、博多駅をイメージしてこの魔法を使ったが、改札の中央口の真上に穴を開けたらしい。今は平日のお昼なのかな。こっちと時間の進み方は一緒?誰かに見上げられたら頭上から人が覗いていることに気がつかれて驚くことだろう。小さい穴だけど、ちょっとここは目立ちすぎる、と今度は福岡の海沿いを思い浮かべた。ここなら平日は人は少ないはず。でも、自分でもびっくりするくらい魔力がどんどん消費されているのがわかる。確かにこれは膨大な魔力を必要とするのだろう。私じゃなかったらもう倒れてそう。減る傍から回復はして行ってるけど、これ以外のことを同時にするのは難しそう。

 横から覗いていたミクが、肉球でとんとんと腕を叩いてくる。


「ねえねえ、じゃあ、私が住んでたアパートにつなげられる?住所はねえ……」

「ちょっと待ってください。私は地図アプリではないのでそんなに正確に場所を探せないですよ」

 多分これは具体的に知っている場所じゃないと繋げられない。私は一応日本全国どこでも行はしたけれど、個人宅は流石に探し当てられない。

「んじゃ、天神駅前の〇〇ってお店分かる?あそこの横の道イメージできる?」

「ああ、そこなら……」

 ここ数年は九州にいたので、知っているお店だったら繋げられそう。そこの横の道……。イメージすると、薄暗い路地に穴が広がった。知っている日本の風景だ。ホークとジュドーは見知らぬ異界を恐る恐る覗いている。どうやら今日本も真夏らしい。同じくらいの時の進み方だが、やはり日本は灼熱の夏だ。



「この穴ってこのまま場所移動できるの?」

「うーん、できそう……ですが人に見つかるといけないので、小さくして動かします」

「じゃあ、このまままっすぐ……そうそう。十分くらい歩くけどいい?」

「頑張ります」

 行きつけのお店でも紹介するみたいに案内してくれる。穴が小さければそんなに魔力の消耗は感じない。暫く移動すると、小さなアパートが見つかった。学生用の1Kのアパートだ。ミクが二階の部屋、というのでそのまま移動し、部屋の中まで行くと、綺麗に片付けられているそこはどうやらミクの借りている部屋らしかった。


「親が家賃払ってるけど、まだそのままかな。食費と光熱費は自分でバイトして払ってたんだよ。私通れるかなここ」

「んん……この大きさまでしか、今は無理です、どうでしょう」

 半径30㎝弱ほどにそのゲートを広げることが出来た。確かに人間は難しい。子どもだったら行けるかもしれないけど。私たちでは通れはしないだろう。猫であるミク以外。

 ミクはするっとそのゲートを通って部屋に降り立った。


「よかった、半年くらいいなかったけど、まだお金払ってくれてたんだ。電気もつく。クーラーも動くよ。自動で引き落としにしてたしね。てか、もう私が行方不明って分かってるだろうに……あ、そうだ」


今度は引き出しを開ける。一番下に隠されていたのは通帳と交通系ICだ。ミクがそちらの部屋から広げて見せてくれるけど、何十万かそこには記帳されている。


「高校の時からバイトで貯金してたの。このお金下ろせたら、日本でもお買い物できるね。今深夜のスーパーとかだとセルフレジもあるし、いけるでしょ」

「ちょっとした怪奇現象でしょう、それ……」

 できないこともないけど、猫が買い物してる姿は結構おもしろすぎるんですけど。わんちゃんのおつかいは何度も見たことあるし、昔も犬のお伊勢参りとかあったけど、猫も……まあ、出来る……かな……?

 

 ミクが部屋のものをいくつかこっちの世界に運んで来る。私も腕を伸ばしてものを取ることが出来ると気がついた。体はちょっと入らないけど。成人した人間が通るにはもうちょっと広さが欲しいかな……。あと10㎝広げられたら行けそう。

 冷蔵庫の中身は空っぽだった。暫く不在にするつもりだったのだろう。買い置きのペットボトルは便利だし、これも持っていこう。ミクの部屋のクッションなども持ち込むことにする。あまりものが多くても運べないけど、久々に現代日本のものをみると欲が出てしまう。


「ミク、いつでもまたここに繋げられます。私もこの部屋を覚えたので次は簡単に行き来が出来ますから、もうこのくらいに」

「そうだね」


 日本の色んな小物や、ミクの使っていた雑貨、非常食などをベッドの上に広げ、ホークとジュドーはこれは一体……と興味深そうに見ている。文字も読めないし、何に使うのか分からないものも多いでしょうね皆には……。


 そろそろゲートを閉じよう、としたところで突然玄関の扉が開いた。1Kの、玄関を開いてすぐにすべてが見えてしまうようなこの部屋では隠れようがなかった。



 そこにはミクをちょっと小さくしたような子供がひとり立っていた。

「猫?」

「早希……!?」

「しゃべった!?」

 うっかり猫のまま喋ったミクは、その子を見上げて焦るがこちらに飛び込んで帰ってくる様子もない。知り合い……というか妹?その子はまだ10歳くらいに見える。実家にいるという、お父さんが違う妹さんかな?

 見つからないように、少しゲートを小さめにして様子を見ていると早希というその子は床にぺたんと座ってミクの顔を覗いた



「お姉ちゃん!?猫になっちゃったの!?」

「あんた、学校は!?平日だよ!?」

「夏休みだよ!!お姉ちゃんが帰ってこないしお返事もないから電車でこっそり会いに来たの!お母さんたち心配してるよ!!」

 ミクによく似たその妹は、声で姉だと分かったのかじっとミクをねめつける。子どもだからかこの不思議な現象をすぐに受け入れられている、すごい。多分親御さんなら倒れてそう。


「いや~、ほら、上のお姉ちゃんも連絡つかないでしょ?んで、探してたら猫になっちゃって、多分上のお姉ちゃんもそうっぽい?戻れるように今頑張ってるとこでえ……」

 耳をぺたんと畳んでしどろもどろにミクは言う。妹さんはミクに似て結構勝気だ。ミクの言い分を口をとがらせて不満そうに聞いていたが、はあ、とため息をついてミクの可愛い猫の頭をなでなでする。

「分かったよ。早く帰ってきてね。お母さんたちには言っとくから……」

「あっそうだ、ちょうどよかった。この通帳でお金下ろして、スーパーでお買い物してきてくれない?カップ麺とか欲しくってさ~。ね、お小遣いあげるから!」

「…………お姉ちゃん……」

 家でこういう調子なんだろうな、というやりとりを暫く見せられた後、妹の早希は言われた通りのものを買いそろえてすぐに戻ってきた。ゲートを再び限界までひろげると、ミクは「これはお友達だよ~」と私を紹介してくれる。ぺこ、と礼儀正しくお辞儀をしてくれた早希は、姉がご迷惑をおかけして……と申し訳なさそうだ。ミクって普段から自由奔放にしてそうだもんね……。


「じゃ。お母さんによろしく!私も上のお姉ちゃんも、元気だよーって言っといて。猫になってたのは内緒ね」

「うん……」


 明るく別れようとしたところで、早希はミクの体を抱き上げて、その黒い毛皮に頬ずりをした。


「ぜったい帰ってきてね、待ってるから」


 涙ぐんだその声につられて、こちら側でジュドーとホークも鼻をすする。そんな感動の別れも一瞬で無為にするような明るい声で「あっまたおつかい頼む時帰ってくるから」とミクは言うのだった。



すいません今回からとか言っといて次回からが新章です

そして正月休みが終わるので更新はまたゆるくなります。

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