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4話 もしかして成功

「治癒魔法だ!!」

 ふたりで叫ぶものだから、焦って尻もちをついてしまった。いや偶然じゃなくて?かさぶたが剥がれただけではないの?

 マリナが慌てて周りを見渡して、少し離れたところにいたこの家の番犬、シロを抱えて連れてきた。

「シロの足、いま怪我してるの!ここは!?」

「う、うん……」

 おそるおそるさっきと同じように手をかざして詠唱をする。するとシロの足にあった傷はすうっと消えて、そこの抜けた毛はそのままだったがもう痛みもないようだった。


「バンリさん、聖女さまだったの……!?」

 カーターも顔を上気させて興奮気味に言う。

「いやいや、たまたまだと思うから、大げさだよ」

 多分私のこの不老不死の体には並々ならぬ生命力があるはずなのでそれを分けたようなものなのでは?知らんけど。

「聖女様だったら、王様に知らせなきゃいけないらしいけど……」

 カーターは徐々に落ち着きを取り戻しつつ、魔法の本をめくった。闇・光・治癒等の特殊な魔法は国に届けなければならない。確かにそう書いてはある。背中に冷や汗がどっと流れた。

 もう、ずっと目立たないようにして生きていた。こんな体質が世の中にばれたらどうなってしまうのか。恐ろしくて考えたくはない。長い年月、土地を変えこそこそと生きてきたのだ。


「ねえ、お願い。内緒にしといて。なんか、おおごとみたいで怖いから……」

「え、でも、この国の法律で……」

 マリナは本の中を文を指す。

「そもそも、私はこの国の人間じゃないから、自分の国まで戻ったらそこの法律に従うことにするよ」

 そっかあ、と二人はうつむいた。日本に戻れるかは分からないし、戻っても目立たないようにして生きていくつもりだけど。この場で騒ぎにしたくなかった。この村のすべての家が徒歩数分の遠さでよかった。

 


◇◇◇



 何日でもこの家にいていいんだよ、とラズとヘラは昨日言っていたが、長居はまずい気がしてきた。これまでの人生でも何度もあったことだ。折れたはずの骨がすぐに治ったり、どう見てもが致命傷なのに翌朝にはピンピンしていたり、近年だと事故にあって救急車の中で目を覚まして病院についた途端脱走したり。

 どんな持ち物も、長年使えば儚く壊れたので物にこだわりはなく着の身着のままで適当に放浪していた。計算だけは早く、掃除や料理は得意なので日雇いでできる仕事を探して過ごした時期もあったが、この世界でもそうするしかないなこれは。


 

 夜、夕食のあと借りている寝室に戻るとまだ眠り続けるあの女性の顔を覗く。全然知らない、人生に絶望した人。置いていくのも心苦しいので起こしたいのだが。見た感じ、二十歳前後かな?こんなに若いのに何があったのやら……。

 もしかして頭を打っていたりしないかな、と手を頭部にかざす。昼間試した治癒魔法の詠唱が長い版をやってみることにした。

 手が燃えるように熱くなっていく。本によると、治癒魔法はそんなに頻繁に使ってはならないらしい。術者の命を削ることもある、と。しかし無限の寿命がある私の体は今日の昼間にいろんな動物に試してもなにも疲れを感じなかった。


「ん……」

「!!」

 私の手の下で、その女性は小さく呻いた。

「目が覚めました……?」

 訊ねると、そのひとは長いまつげを震わせながら部屋を見渡した。枕元のランプで一応明るくはあるが、日本の照明器具ほどではない。

「病院……?」

「病院じゃなくて、日本でもなくて、その……」

「え……?」

 戸惑いながら、のろのろとそのひとは身を起こす。

 根暗な私にも勝るとも劣らない、なかなかに暗い顔をしたその人は「もしかして私、異世界転移成功しちゃいました?」など言うのだった。




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