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八百比丘尼、異世界で放浪スローライフ  作者: アジ
二章 放浪開始

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37話 変なスパイ? 2

もうすこしミクからの目線です

 次の街に着く直前に、バンリは私とホークにひとつ約束をしてほしい、と深刻な顔で言って来た。最近慣れてきたあの四角い闇のテントでの野宿で、中々寝付けずにいるとバンリも同じだったようで、正座をして静かに話し始めた。


「多分あの人は……次の街で私たちに何かを仕掛けてきます。私のことをミクと思っているのかもしれません。聖女を連れ戻さなければと。なので、私がひとつ芝居をうちますが……できればあまり慌てず、いい感じにそれに付き合って下さい。ちょっとびっくりするかと思いますが。まあその、死んだふりをするので。おふたりも、私が死んだ感じの芝居をお願いします。お互いに本名は呼ばないように」


 死んだふり?と私が聞き返すと、バンリはあの革袋から何かの小粒のお薬みたいなものを出した。


「これでちょっとまあ……。何百年も前からしていた小芝居なので、多分騙せます」


 そう言いながらもあまり気の進まなさそうな顔をバンリは見せて来る。




◇◇◇




 次の街、ナギは少し大きな街だった。半時間ほど歩いても商店街は途切れない。いつもだったらお買い物を楽しむところなんだけど、バンリの緊張が伝わってきてとてもそんな気になれなかった。最近、道中で小型の魔獣と遭遇することがあるんだけど、そういう生き物の牙などを道具屋に売ると小銭が稼げるので、財布の中は王都を出た時より極端に減っているということはなかった。バンリは昔放浪していた時に野性的な生活もしたことがあるらしく、獣の捌き方もうまい。私は直視できなかったけど。


 ジュドーが恐らく宿屋に会いに来るだろうから、と今回はこの街で宿を取ることにした。節約のためにあまりいいところなどは避けていたのだが、目立つ宿屋を選ぶ。バンリは「ひと悶着起こすことになるので、ここから出る時にお詫びにさっきの魔獣の角などを売ったお金を宿の人に渡してください」とか言ってて怖すぎる。何をする気なの。お城から脱出する私以上に怖い事するの?



 その日の夕方、予想通りジュドーはやってきた。


「そろそろここに着くころかなと思って……。すいません、先日はご無理を言って……。一緒に馬車を待ってもらっただけでも助かりました。ご挨拶だけでも、と思って……」

 辛気臭い顔でやっぱり落ち着かない雰囲気のジュドーは、宿の前に呼び出して来た。

「いえ、お気になさらず。……私たちも先程ついたところなので、今からごはんなんですが、お仕事が終わられたのでしたがご一緒にいかがですか?」

バンリの言葉に、ジュドーはやった、とあからさまに顔に書いて「ぜひ!」と返事をする。バンリが何かをしでかすつもりなので私とホークはずっと緊張してんだけど……。宿の中にある食堂で早めの晩御飯を取ることにした。猫の姿の私はあとでお部屋で食べるので、とホークの肩に乗ったまま皆の様子を見ることにした。


 

 この宿の人はジュドーの知り合いらしい。飲み物だけでもおごらせて下さい、なんて言っておくから何か運ばれて来た。普通のジュースに見えるけど、ホークの耳元で飲んじゃだめだよ、と囁くと無言で頷くのがわかる。

「ジュドーさんは、出身はどちらなのですか?」

「あ、えっと……王都の近くの村で……。小さいところなので……名前もご存知ないと思います……」

 何気ないバンリの質問に、誤魔化しているのか本当なのか、ジュドーの目は泳いでいる。

「そうですか……この国の地図は大まかな都市だけ載っているものしか買えてなくて。こんな時、スマホがあれば便利なんですけどね」

 スマホ?とホークとジュドーはきょとんとしてバンリを見る。スマホなんてこの世界の人知らないでしょ、と思ったけどジュドーの反応を見てるんだ。私もじっと顔を見てみるけど、ジュドーはこれは演技ではなさそうで「なんのことですか?」と聞き返してくる。

「ああ、すいません。私の国の……地図や辞典が入っている箱みたいなものです」

 顔色を変えずにバンリは言いつつ、食事のそうめんみたいな麺類に箸を絡める。

 本当に日本人じゃないのかも?でも髪色は兎も角、骨格が日本人なんだよね。ホークとか、女の子の体型になったけど地球だとフランスとかそういうところのきれいな足の長いモデルのお嬢さんって感じ。私やバンリが痩せたり筋トレしても生まれつきそうはならないだろうなっていう体格。極端に言えば背はそんなに高くなくって足も長くないし、顔つきも丸いし……。勿論日本のひとにも高身長で足の長いひとは沢山いるけど、この世界の人たちはだいたい身長も高くてちょっと面長なんだ。ドワーフのおじさんとかに会った事もあるけど、そういうひとたちは別として。


「あ、じゃあ、マリリンさんやアイさんは……王都の方ですか?」

 私たちの偽名を呼びつつ、ジュドーはふたりの顔色を見た。アイちゃん……ホークは本当のことなので、はい、と普通に答える。ホークも嘘や演技がくそ下手なのでハラハラしちゃうんだよねえ。

「私は西の方の村から来ました。仕事も転々としているので今は新しい土地で仕事を探そうという感じです」

「お仕事ですか?マリリンさんたちも、王都でお仕事を探されたんですか?」

「まあ、でも、静かな土地に行きたいかなと今は思っています」

 嘘をつけばこちらも何か感づかれるだろうし、ふんわりとした言い方でバンリはかわす。さてここからどうするんだろ?と思っていれば、急にふふふ、と息を漏らすようにバンリは笑う。


「ジュドーさん、本当は王都でいいお仕事見つけられたんですよね?結構な金額で、人探しの。違いますか?」

 

 急に突っ込んだ質問をするので驚いてその顔を見ると、いつもは気力の少ないおだやかな顔をしているバンリが鋭い目つきになっている。そうして、小さな声でぶつぶつと何かをつぶやく、これは呪文の詠唱だ。ホークの耳飾りがポワ、と光った。魔力に反応している。

 ジュドーの手首になにか、黒い痣が一周突然巻き付くように浮かび上がった。なにこれ。初めて見るんだけど。声を出さないように様子を見守るしかない。



「え、これ、なんですか?」

「これ、聖女しか使えない魔法なんですけど……。相手の嘘がわかっちゃうんです。嘘をついたら、この黒い痣の部分が吹き飛ぶんですよ」

 ぞっとするようなことを言うので、私たちは固まる。周囲には聞こえないような静かな声だが、バンリの声は真剣だ。多分そういう魔法じゃないと思うけど。脅すために言ってるんだこれは。


「な、なんで、わたしに、こんな」

「ジュドーさん。答えて下さい。ミクという黒髪のニホンから来た聖女を連れ戻すように言われましたね?お金は前金で沢山もらっちゃったんですよね?」

 冷たいその声に、私とホークは息を飲む。バンリは初めて会った時からちょっとつれない態度を取ることは度々あったけど、基本的にはとてもやさしいひとなんだ。こんなに怖いバンリを見たことはない。

 ジュドーは冷や汗をだらだらを垂らし、震えながら頷いた。


「私を見逃してはくれませんか?お金なら出しますから」

 バンリが小袋を音を立てて机の上に置く。それってこの宿の人に最後にあげるやつじゃなかった?ジュドーはぱたぱたと涙をこぼしながら首を振った。

「お金にも困っていますが、できません。お城の人に、ミクさんというひとを連れ戻せば、いなくなった両親の居場所を教えてくれると、言われて。お父さんもお母さんも、私をひとに預けたままお城から何年も帰って来なくって……!」

 ああ、この見た目で日本のスマホとか知らないのって、もしかして親が日本から来た人なのか……。お母さんは聖女をしたことがあって、私みたいに動物に変えられたのかな。


「……困りましたね、あなたにも事情があるんですね」

 バンリはやっと、目元をやわらかくしてテーブルの上の飲み物に手を伸ばした。俯いて泣いているジュドーには気がつかれないように、前に見せてもらったなぞの薬をそっとコップの中に落とすのを私は見逃さなかった。


「王都の兵士が宿の外にいます、あなたたちは、逃げられない。ごめんなさい……!」


 ジュドーは更にしゃくりあげてひどい顔で泣いている。不憫だとは思うけど、どうしてやればいいのか私たちには分からない。一緒に旅に連れて行くにしては、黒髪の女の子をメンバーに加えるのは流石に特徴的に目立つし。あとで三人で話し合うか……。でも、その前に宿の前に追手が来てるんならなんとかしないと。また私たちの使える魔法で撒いたとしても、今後の道中が心配だな……。


 そんな私のもやもやは一瞬で別の衝撃で消えた。目の前のバンリが、喉を押さえて苦しみ始めたからだ。


「マリリンお姉さま!?」

 律義に偽名を呼んでホークが立ち上がる。ジュドーははっとして両手で口を覆った。


「ジュドーさん、あなたが頼んだ飲み物、薬がはいって、まし、たね」

 ひどく掠れた声でバンリが言う。ジュドーは真っ青な顔で首を振る。

「いえ、いえ、ちがいます、睡眠薬って、言われたから、わたし……!!お医者様を、呼んで来ます」

 それを制するように、バンリは口から血をこぼし、ジュドーの服の裾を握った。恐怖で固まったジュドーとホークをよそに、バンリはそのままもう言葉を発することはなかった。



◇◇◇



 すぐに駆け付けた兵士たちに、ミクという黒髪の女性は服毒で亡くなった、と伝えられた。駆け付けた医者にも脈もなく瞳孔が開いているので、もう、と告げられ、ホークは遺体に縋りついて泣いた。私も泣きたかったけど、猫だからかうまく涙が出ない。棺桶に入れられたバンリの遺体は教会に連れていかれ、明日街の外れに埋められることとなった。王都からの追手たちが「聖女は死んだと伝令を」と言うのが聞こえる。ホークは通りすがりで同行しただけで、王都ではミクという聖女には面識はなく、誰にも目撃されてないということで連行されることもなく、静かな教会で私と一緒にバンリの傍にいることが許された。


 美少女のホークは泣きはらした目でじっと棺桶の横に座ってバンリを見ている。もう涙は出ていなかった。私は多分、バンリの演技だよね、と思いながら胸の上に乗ったら確かに鼓動が止まっている事に気がついて、悲嘆に暮れた。私のせいで死んじゃうなんて。バンリ、あの薬の分量を間違えたのかな。お姉ちゃんがいなくなった日と同じくらい、胸が痛んで苦しい。


「バンリ、起きてよ……」


 胸の上でまた小さく言うと、変な感覚がある。今、動いた?


「……ミク、まわり、だれもいませんか。兵士は?」

「うん、いないよ」

 

 バンリの声に、私は震える。ホークはまた声を上げて泣き始めた。




◇◇◇



 この教会の神父さんにお金を渡して故郷に連れて帰ります、と告げ私たちは死んだふりを一応続けるバンリをリアカーのようなものに乗せてこの街を深夜に去ることにした。街から遠ざかるとバンリはやっと歩き始め、リアカーは闇魔法で重量をかけて破壊し、土の中に埋める。


 気を抜くとまだ泣いてしまうホークの肩に私は乗ったまま、ちょっとだけ涙が零れた。猫でも一応少しは涙が出るんだね。


「ごめんなさい、ふたりとも、演技につきあってくれてありがとう。私、何をされても基本的に死なないんです。何百年もこういう感じで逃げてきたので……。誰かに襲われても、自分で喉をついたりして一旦死んだことにすればもう諦めてくれるんですよ」

 バンリは冷静に私たちに説明してくれるが、私は悲しいというよりもだんだんと怒りで飛び掛かりそうになっていた。

 

 ああいう騙し方だなんて、先に詳しく教えてくれたらよかったじゃない!そう叫ぼうとした時だった。


「バンリさん、もう、ああいうことはやめて下さい。俺たちにちゃんと相談して、考えて逃げる方法とか探しましょう、あれがあなたにとってどんなに手っ取り早くても、俺は嫌なんです」

 ホークがまた滝のように涙を流し始める。そうだそうだ!言ってやれ!

「びっくりさせてしまって、嫌でしたよね……」

「違います、驚いたからじゃないです!何度もあなたがああして逃げて生きてきたことが悲しいんです。もう、バンリさんはひとりはないんですから、生き返ったとしても無茶はしないで下さい。死ななくても、つらいでしょうバンリさんも」

「……はい」

 確かにあの時、演技ではなくバンリは苦しんで息を引き取った。不老不死だけど、痛みや苦しみはある筈だ。


「バンリ、私も、色々便利な魔法、もっと勉強するから、おねがい、生き返るって分かってても死なないで。いやだよ、バンリが痛いのも苦しいのも」

 きっと人間のままだったら私も今号泣してると思う。

 バンリは無言で、いつも野宿するあの黒いテントを素早く取り出して私たちを押し込めた。


 

「止められると思って言えなかったんです。ちゃんと、三人で考えましょう。私はもうひとりじゃないんですもんね」

 バンリもぱたぱたと涙をこぼして、いつも冷静なのに珍しくて余計に私も悲しくなってしまった。ホークも余計に涙出ちゃってるじゃん。


「約束だよ、バンリ。大丈夫、三人寄れば文殊の知恵って言うし、みんなで考えよう」

「はい」

 私の言葉に、まだぐずぐずな声でホークが「もんじゅってなんですか?あとスマホって?あとでそういうのもちゃんと教えて下さい!!」など言うのだった。






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