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八百比丘尼、異世界で放浪スローライフ  作者: アジ
二章 放浪開始

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31話 野宿

 明かりを消して民家で一夜を過ごしたあと、我々は恐る恐る外に出た。バラバラに時間差で出て、王都の入り口に集合の予定だ。そこでも一旦は他人のふりをする。この王都に入る人たちは一旦は積荷や目的などを確認されるが外に出ていくものはよっぽどのことがないと引き止められはしない。

 馬車に乗せてもらって数日かけて南の国ソアへ渡る港に行く方法も検討したが、気配を消したところで人が触れば私の存在は見つかるのだ。いくつかの街、村を経由して半月ほどかければ港まで着くらしい。私は昔から何日も歩くことは苦ではない。ミクは私かホークに乗っていればいいし、ホークはそれなりに体力もある。王都から出たあとに合流したら、徒歩で途中野宿もやむなしと言うことで出発することにした。


 王都から出ていく人の群れの中に紛れるのは気配遮断を使わずとも難しくはなかった。一応の検問はあったが、あの混乱の中で私の顔をちゃんと覚えている人間はいなかったらしい。夏なので帽子や頭巾をかぶっている人は多い。私も黒髪を隠してやっと外に出ると、王都の壁の外にも少し建物や小屋がある。それらがほとんどなくなった後、人々が街道の途中で家路へと散り散りになっていく中でホークとその肩に乗るミクを見つける。まだ知らないふりをして小一時間歩き、休息をする人たちを横目に早足にその先を行く。


「ホークさん、もうここらへんで大丈夫じゃないですか」

 前後に人の少ない場所でやっと腰を下ろすと、ホークは荷物をおろして息を吐いた。

「体力には自信あったんですけど、重いものが前よりもかなりつらく感じますね……」

 汗を拭い、ホークは服の前を開けようとするのでミクが肩に乗ったまま「だめ!」と叫ぶ。


「ホークみたいにかわいい子がここでほいほい露出したら通りすがりの変質者に目をつけられるかも知れないからね」

「あ、あついのに……」

 私が水の魔法を使えればよかったけれど、治癒と闇だし、ミクは火と光なので涼しくできる魔法はない。冬だったらよかったのにね……。私は暑さは感じるものの熱中症で死ぬということはなかった。


「水の魔法が使えれば楽なのにな〜」

 ミクにも小皿になみなみと注いだ水をあげると、器用に飲み始める。ホークも用意した水筒を傾けて飲み干しそうな勢いだ。日本ほど夏は暑くないが、日陰が少ないこの道を歩くのは結構二人にはつらいだろう。バテバテになるたびに私が治癒魔法をかけるのもスパルタ過ぎるし……。


「ここから、宿屋のある村まで徒歩であとどのくらいなの?」

 ミクは近くにあった岩に身体をくっつけて熱を逃がそうとしている。かわいい。

「そうですね、いつもの俺なら夕方には着くと思いますが……今は自信がないですね……」

 一応日よけの帽子と街で使っていた扇風機のような魔導具はあるが、日本の扇風機のように強い風は来ないし、そよそよと気持ちそよ風が吹く程度だし今ここにはない。


「野宿してもいいから、無理しないで進みましょう。それと、サクラのあの家にあった魔導具でいいものがあったので」

 いいものとは、とミクとホークが私のリュックを覗く。小さな真っ黒いボールのようなものを取り出すと、それが何なのか理解できずに小首を傾げた。


「なんと、テントです。見ててください」

 そのボールに魔力を込めると、2m×2m×2mくらいの真四角の真っ黒い箱が現れる。


「なんですかこれ……」

 ホークが口をあんぐりと開けてそれを見上げる。

「闇魔法で大きくなったり小さくなったりするテントだそうです。闇魔法でしか反応しないらしいので、持て余していたみたいですね。他にも適当に魔導具を持ってきたので、道中で試して見ましょう」

 やったあ〜!とミクはそのテントの扉を押して飛び込む。

「いや、暗ぁ!あと、窓がない!」

「そうなんです、そこはまあ……。でも、このテントに入っている間は気配遮断がかかるので、誰にも見つかりませんよ。そのドアを開けていても。なので涼しい時間まで休憩しましょう」

 なにかぶつぶつ文句を言っているが、黒い毛皮を背負っているミクはよっぽど暑かったのか中に入ると倒れ込むようにして手足を伸ばす。意外にひんやりとしている。風通しはあまりよくはないが。ホークも続いてその中に入ると「少し寝ていいですか……」とつぶやいてこちらの返事を待たずに目を閉じる。昨夜はあまり寝てなさそうだったから仕方がない。

 私もテントの中に入ると、とりあえず腰をおろした。二人がお昼寝している様子を見ながら、蝉の鳴いてない夏の風景を眺めた。



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