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八百比丘尼、異世界で放浪スローライフ  作者: アジ
一章 スローライフへの序章

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27話 決行前夜

 いよいよ明日の夜に、ミクの無計画な脱出に付き合わなければいけない。不安だ…と思いながら

部屋の中でこそこそと深夜に闇魔法の練習をしていると、扉をノックする音がする。この宿屋を訪ねてくるのはホークくらいだろう。


「ホークです。バンリさん、まだ起きていますか?」

「起きていますよ」

 扉を開けると、なんだかいつもより髪型がしゃきっとしているホークが目の前にいた。服もおしゃれだ、というか高価だ……実家にはさぞいいお召し物があるんでしょうと思っていたけどやはり。

「前夜祭、せっかくならおいしいものを食べに行きませんか?屋台が沢山出ていますし」

「申し訳ないけど……そんな気分ではなくて」

「……そうですか、年に一回のお祭りですし、その、きっと明日が終わればもうバンリさんたちはここには戻って来られない気がするので、今日くらいと……」

 ホークの長いまつ毛が悲しく伏せられたのでいじめているようでこちらも焦ってしまう。確かに、一度ここから逃げ出せばしばらくは王都には来られないだろう。あの街にも……。


「仕方ないですね、小一時間だけですからね」

「よかった!おすすめのお店があるんです。あ、それと、よかったらこれを」

 分かりやすくパアっと顔を輝かせたホークが、手に持っていた紙袋を差し出してくる。なんだろう、と中を取り出すと、黒猫の顔に似せたかわいい仮面が出てきた。もうひとつは犬、黒い柴犬みたいでかわいい。

「えっと、この王都で賢いと昔から言われているのが黒猫やその黒い犬で……。王都のお祭りなので、昔からこの日には仮面をかぶって城下町をまわるんです」

「そうなんだ」

 開けっ放しだった窓の方に行き、通りを見れば確かにちらほらとそんな人達がいる。鴉の仮面のひともいる。ちょっと、サクラを思い出したけど果たして無関係だろうか。


「遅くなると明日に響きますよ!」

「ホークさんが誘ったのに……わかりました、行きましょう」

 仮面など付けなくとも、ホークは既に尻尾をぶんぶんと振っている仔犬のように見えた。




 城下町の前夜祭は、実に賑やかだった。音楽の演奏もあちこちで行われている。ちょっとだけ日本の音楽に似ているメロディが流れて来るのは、もしかしてここに行きついた同胞が伝えたものなのかも。

 賑わいの中で、ホークのおすすめの屋台に行くと大きな焼き鳥やわたあめっぽいものなど日本の夏祭りで見るような食べ物が多かった。なんとなく、お面の造りも日本のそれに似ている気もするし、本当に誰かこの文化を持ってきたのかな。

 

「子どもの頃からこのお祭り、大好きだったので、今日も楽しみにしてたんです」

「そうなんですか……」

 ここが地元なのだから当たり前だろう。私とミクのせいで慌ただしくなってしまって流石に申し訳ない。そんな気持ちが顔に出ていたからか、ホークは焼きとうもろこしを食べ歩きしていたが、咀嚼して少し息を吐いた。


「あの、どのみち今年は本当は行けないと思っていたので、お気になさらず。それに、親にはもう言いましたが、俺も南の国にお供したいです。ミクさんのやることに力を貸せば、もう仕事は続けられないでしょうし。この祭りに参加できるのが今年最後になっても、俺は大丈夫ですから」

「え、いや、ホークさんそこまではしなくても……!」


 狼狽する私の言葉など耳に入らないかのように、ホークは続ける。


「バンリさんはこの世界、刺激が多いと言って下さいましたが、俺もこの世界のことあまり知らないし、勉強のために旅に出るのも悪くはないですよ。その刺激、南の国で俺も受けてみたいです」


 無理をしてそう言っているわけではない笑顔で、ホークは又手に持っていた焼きトウモロコシに歯を立てた。

 何度もこの長い人生の途中で巻き込んでしまった人たちの顔が頭に浮かんできたりもしたが、今の私は無力ではないと思いたい。何を言ってもホークは強がりそうだし、結構頑固なので考えを変えはしないだろう。

 私も手に持っていたりんごあめをかじると、ホークのためにもこの祭りを満喫してやろうと決めたのだった。





 ふと、夜空を見上げるとまた何か……鳥が飛んでいるのが目に入るが、今度は鴉ではない。真っ黒い大きな、なんだろう。ホークに尋ねようとしたときにはもう姿がなかった。色んな灯りで空もほんのり明るかったから見えただけで、遠くの空は月と星の明るさのみで鳥の形すら分からない。

 少し不吉なものを見てしまった気持ちになったが、ホークは何も気が付かずに全ての屋台をまわる勢いで進んで行った。






一章はあと三話くらいだと思います

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