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八百比丘尼、異世界で放浪スローライフ  作者: アジ
一章 スローライフへの序章

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26話 ミクと陛下の深夜の内緒の話

「バンリ来てくれたかなあ〜」

 祭りの最後にテラスで挨拶をしなくてはいけなくて、台本を押し付けられた私はめんどくさくなってソファでだらしなく足を伸ばしていた。

 コンコン、と扉を叩く音がして慌ててきちんと座り直すと、静かな声で「ミク、起きてますか」と尋ねられる。これは女王陛下、サチコの声だ。


「はいはい!まだ起きてます!どうぞ!!」


 戸を開けてやろうと立てば、キィ、と何かの魔法で勝手にそこは開く。 

 

 腰まで届くような黒髪ロングの、白い肌。少したれ目で、ひとえまぶた。まだ十八くらいに見えるが、女王サチコはもう八百歳らしい。ほんとに〜?とか思ったけどエルフとか普通に千歳とか生きるらしいからそんなんもありなのかもね。


「サチコ陛下、どうしたんです?こんな夜中に」

「内緒ですよ、おやつを持ってきたのです」

 きゃー!と声を上げてサチコに駆け寄る。なんとなく、サチコはバンリに似ている。人に関心がなさそうにしておいて、たまにふと、ほんの少しの餌を与えたりしてくる。本当は人間を好きなんだろうな、と、思うのにあえて冷たいふりをしている。……と私は勝手に思っている。


「わざわざここまで来たってことは〜、本当におやつをあげたいってだけじゃないんでしょう?」

 サチコを部屋に招き入れると、その和服みたいなドレスの袖から出された焼き菓子を受け取る。サチコは、静かに車椅子を動かしてテーブルの方へと移動した。 

 女王陛下、サチコは足が不自由だ。車椅子は見た感じ私達の世界のものと似てはいるが魔力で動かしているらしく少し構造は違う。

「えーっと、お茶お茶!」

「ああ、大丈夫ですよ。すぐに部屋に戻りますから」

 慌てる私を制すると、サチコは穏やかに笑む。バンリになんとなく似ているけど、サチコには常に余裕のようなものがある。バンリはいつもなんでかビクビクしている感じもあった。もしかして、元の世界に戻りたいよ〜とか泣いたりしないのは前科持ちかなんかなのだろうか……それかDV彼氏から逃げてる……?とか想像しているけど何か事情があるのを突っ込まれるのはいやだろうし、あまり深く聞いたことはない。ただ人と関わることに怯えているだけ。私が王都に行くと決めたとき、もっとドライに「そうですか」と言うだけかも、なんて、予想していたけど意外にも心配してくるし私よりバンリの方がはらはらしていた。崖から飛び降りる私を止めようとしてくれたんだから、冷たいはずないんだよね。


「それで、サチコ陛下はなんの御用ですか?」

 目の前でしとやかに座っているその人を見ながら言うと、長いまつげを一度下げてため息をついた。

「私達も気をつけてはいますが、祭りの最後は聖女を狙う人間が出ることがあります。弓矢などを持つ者がいれば分かりますが、魔法を使われると厄介です。なのでテラスの下の広場には魔力を感知できる魔導具がありますが……」

「あ〜、なんか聞いた。大丈夫、気をつけます。光の魔法でバリア的なやつ、できるようになりました」

「なら、いいのですが。……それと、もうひとつ」

 ん?他にも?魔法の先生はさっき言ってた当日の注意を教えてくれたけど他にもあるのかな。


「祭りの日、聖女を攫おうとする人間もいます。テラスの上にいたとしてもです。めったに姿を見せない存在が皆の目の前に出てくるチャンスですから」

「あー!人攫い!そういや最初についた村から出るとき、そういう奴らに会った!聖女探してさらおうとしてた!」

 すっかり忘れかけていたことを口にすると、サチコは顔を覆った。


「気をつけてください、聖女の魔力を利用しようとする者がいます」

「ああ…はい。テラスの挨拶もパッと終わらせて城内にすぐ戻ります……」

 

 過去にも色々あったのだろうと察する。聖女は、わりと短いスパンで変わることがあるのはそういうことに巻き込まれる人が多いからなのかも。黒髪の女性のリストから聖女になった人を見せてもらったが魔力が尽きるまで働いてくれたと言っていたが本当のところはどうかわからない。何かを隠している、とは感じる。


 ふいに窓の方から音がして目をやると、開けっ放しにしていたそこに、真っ黒い鴉の姿があった。


「ミク、窓を閉めなさい」

「あ、はい」

 鴉を見るなり真っ青な顔でサチコ陛下は言う。こんな真夜中なのに、鴉って夜目がきくのかな?

 鴉はサチコの言葉が理解できるかのようにすぐに飛び立って闇に消えた。このお城、たまにあの鴉を見るような気がする。見かける黒い鳥はあれだけかも……。


「誰かにいつのまにか話を聞かれていることもあるから、どうか、気をつけて」

 鴉に聞かれたところでさ〜……とか思ったけどあまりにサチコの顔色が悪いので、私はおとなしく頷くしかなかった。


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