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19話 ミクのお仕事

「ミク様、お手紙が届いています」

 退屈で屋敷の中をうろうろと散策していたら、封筒をひとつ差し出された。きっとバンリからだ!嬉々としてそれを受け取り、自室に戻ろうとすれば「あの」と声をかけられる。


「先日ミク様がお手紙を出される際にも申し上げましたが、出すのにも受け取るのにも、全て中身は検閲されます。今回のお手紙ももちろん検閲済ですので」

「だーいじょうぶ、分かってるって」

 申し訳なさそうに下女は言ってくるが、そんなものは想定済だ。この世界の人と何故か言葉は通じるし私とバンリは文字も読み書きできるが、逆に日本語は私達しか読み書き出来ない。

 でも、同じように日本から来ている人がいたらばれちゃうよね、と思いつつ、便箋を馬鹿みたいにデコってその中にカタカナでシンプルにメッセージを入れてみた。果たしてバンリは気がついたか…!?と自室で便箋を開く。


『ミクへ。元気そうで何よりです。どうか体に気をつけてお仕事頑張ってください。またお手紙書いてくださいね。お待ちしています』


 シンプルな内容だが、バンリの便箋はあのこそこそした性格に似合わないほど派手な模様が書かれている。

 私が先日書いたメッセージは理解できただろうか?と模様の中をよく見ると、小さく灰色でカタカナが潜んでいた。


『ワ カ ッ タ』


 お!お姉ちゃんがここにはいなかったというの、分かってくれたってこと?思わずにんまりと口の端が持ち上がる。誰かにバレないようにシンプルに短くこうしてカタカナを混ぜてやり取りを続けてみよう。



 結論だけ言えば、お姉ちゃんはここにはいなかった。あの崖から飛び降りてこの世界に来たのだったら、魔法が使えて聖女として迎えられる可能性もあったのかも、と、予想していたがそれらしき人物はここには来てないらしい。黒髪のひとたちはほとんど強い魔力を持っているらしいのだが、全てのひとがそうであるとは限らない。だからバンリは見逃されている。もし強めの魔法を使えば、あの街の兵士が持っている魔導具が感知するはずだが、バンリは人が多少の怪我をしても治癒魔法を使う様子はなかった。決して冷たい訳ではない。怪我をした人間を見掛ければ手当はするし、根はとても優しいのだ。

(まあ、バンリもあんな崖に来てたんだから、何かあるはずだもんね)

 深く詮索されたくないというオーラを出しまくっていたからあえて色々と聞かないようにしていたし、バンリも他人に歩み寄ろうとはしていない。それでも、私が王都に行く時には嘘偽りなく心配してくれていた。演技ではなかったはず。とりあえずバンリには近況報告は続ける予定だ。  


 お姉ちゃんの行方を探すために、ここ数年でツーラ国に来た黒髪の女性のリストを見せてもらったが、そもそも本名を姉が名乗っているのかは怪しい。20代半ばの黒髪の女性、当時の髪型今の私と変わらないくらいのはずだし、顔もよく似てると言われたらわざとショートボブあたりにしていたかったが聖女は髪を伸ばせと言われ、刃物は私が扱える場所には置かれなくなった。もしかして自殺防止のためかも?



「つうか、崖に飛び込む人、多……。これって絶対ここになんとなく呼び寄せられたような人もいるでしょ」

 リストの名前と日付を見て段々と気持ちが悪くなってきた。わかる限り、ここ数年で王都に来た黒髪の女の人の行方を追ってみることにする。


 聖女じゃなくても、黒髪の女の人……日本人は王都には複数いた。


「ミク様」

 ふいにドアがノックされる。

「なあに?」

「陛下がお呼びです」

 王宮の敷地内にある屋敷に住んでいるがこうしてたびたび呼び出される。なんかまたあのでかい石に魔力を送れって言うんでしょ。やりますよ。

 手紙を引き出しにしまうと、私は女王陛下の前に出るために鏡の前で身なりを整える。


(てか、女王陛下もやばいんだよね〜)

 これをバンリにどう伝えようか。



 現女王陛下、サチコ。

 黒髪ロング。八百歳。



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