「純潔令嬢、寝込みを襲われたのでちょっと制裁してみました」
侯爵家の一人娘エリセは、恋も知らぬまま十六歳を迎えた。
良家の子女として育てられ、恋愛は婚約してから――そう母から言い含められてきた。
ところがある夜。
「ふふふ……未婚の娘の寝所に忍び込むなんて、実にスリルがあるではないか」
薄笑いを浮かべて現れたのは、噂に名高い放蕩貴族バルター。
酒と女と賭博で散財し、社交界の鼻つまみ者となっている男だ。
「きゃっ……!? な、なにを……!」
「怖がらずともよい。すぐに気持ちよくしてやろう――」
エリセは絶体絶命。
……だが、ここで引き下がるような娘ではなかった。
「婚約もしていない殿方が、淑女の寝所に上がり込むなんて……」
「そうだとも! 禁断の味は格別で――ぎゃああああああああああああああっ!!!」
――ぷちっ。
次の瞬間、室内に奇妙な音が響いた。
エリセが手にしていたのは、護身用に枕元に置いてあった魔導ナッツクラッシャー。
硬い殻の木の実を割るための小型魔道具だが、急所に狙いを定めれば……威力はご想像の通り。
「い、いたたたたた……! ぼ、ぼくの……お、男爵位より大事な……!!」
床をのたうち回るバルター。
顔は真っ青、目は涙でぐしゃぐしゃ。
「まあ。未婚の乙女に手を出そうとするなど、去勢されても仕方ありませんわね」
エリセは髪をかき上げ、つんと顎を上げる。
その後――。
バルターは泌尿器の名医に運ばれたが、【「男爵」から「坊や」にランクダウン】と社交界で噂されることになった。
以来、誰も令嬢たちの寝所に忍び込む貴族は現れなかったという。
こんな便利な道具があればいいですね