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Sword Master ―紅剣の支配者―  作者: 高柳疾風
第四章 紅と碧
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第一部 相見

麗奈とともに刀の封印を解いた真、二つの刀が語る真の宿命とは?

そして、一つ屋根の下で暮らすことになった麗奈との関係は??


真の想い渦巻く第四章をお楽しみください!!

『さて、少しは落ち着いたか? 小僧』


「あぁ」


ここは俺の部屋。

蒼炎の封印を解いた俺は、左腕にその証である紅珠が付いた腕輪をはめて座っている。


しかし、この腕輪…腕に余裕なくぴったりはまってやがる…。

どうやって付けたのか説明できねぇな。

しかもみんなに丸見えだぜ…どうしよう。


『しかし久しいのう、蒼炎』


『そうだな、闘牙』


透き通るような闘牙の声とそれとは対称的な低く渋い声が俺の部屋に響く。


『どれくらいだろうな、こうやって話をするのは?』


『一四二一年と二四六日ぶりじゃな』


『はっはっはっ、相変わらずもの覚えがよいな』


腕輪同士の会話、端から見たら異様としか言いようがないだろう。


『まぁそれはよい、とりあえずお互いの主を紹介しようではないか』


闘牙が話を仕切り直す。


『まずは儂の主――』


それまで足を崩していた麗奈が闘牙の言葉を耳にして姿勢を正した。


『水城麗奈。水城剣道道場の娘での、大した剣の腕前をしておる』


「よろしくお願いします」


闘牙に続いてあいさつをした麗奈が俺の左腕に向かって頭を下げる。


『ほう、お主が褒めるとは珍しい。これはかなりの腕をしているとみてよいな』


『なんじゃその言い草は。儂とて褒めるときは褒めるわい』


『そうなのか? 我はお主が人を褒めるのを初めて見たが…?』


『お前が知らぬだけじゃ。褒めたことの一度や二度くらいあるわ』


『ふっ、まぁそういうことにしておこう』


『ふん、本当じゃと云うのにこやつは…』


俺の左腕から発せられる声に少し拗ねたような返事をする闘牙。

腕輪同士の会話なのに何かそこに人のような実体があるような感覚になる。


『さて、我が主だが…』


麗奈の真似ではないが、崩していた姿勢を少し正す。


「八神真。この八神家に長男として生まれて神社の手伝いなんかもたまにしている」


『昨日、襲われてるところを見た限りでは至って普通の人間のようじゃが……。どうじゃ、蒼炎?』


『ふむ、しかしさすが八神一族の血を引く者というところだ。なかなか濃い気を持っている』


『なるほど、これからの特訓次第ということじゃな』


「ちょっと待ってくれ。八神一族とか濃い気を持ってるとか一体何なんだ?」


二人(?)が話していることが全く分からず、思わず口を挟んだ。


『闘牙、お主、まだ話してはいなかったのか?』


『あぁ、お前の封印を解いてから話そうと思ってのう。…小僧、昨日襲われた化け物は覚えておるかの?』


「うん、麗奈が来てくれなかったら俺は確実に死んでいた…」


そう言いながら少し麗奈を見たが、あいつはピクリともせずにただ静かに聞いていた。


『ふむ、しかし蒼炎を手に入れた今、お主も奴らと闘っていかねばならん』


「奴らってなんだよ…?」


『人間界を支配しようと目論んでいる焔界(えんかい)の連中じゃ。昨日襲ってきた奴は"焔獣(えんじゅう)"と呼ばれる魔物じゃよ』


「焔界? 焔獣?」


闘牙から出てきた言葉が俺の頭上に疑問符を点灯させる。


『焔界は人間界とは違って秩序などない世界…、そこは弱肉強食の世界で常に激しい戦いが行われておる。焔獣はその世界に生きる知能など持たず、本能のままに闘いを繰り返す獣のことじゃ』


「俺たちの住んでる世界の他にそんな世界も存在しているのか…。でも、なんで今になってそいつらが攻めてくるんだよ?」


『…"奴"が復活した……儂が永き眠りから目覚めたことがその証拠じゃ』


「奴?」


『焔神…焔界を治める絶対的な存在じゃ』


『遥か昔に我らが封印したのだが、その封印が解かれたのだ』


闘牙の言葉に蒼炎が少し補足する。


「ってことは、そいつが人間界を手に入れるために焔獣をどんどん送り込んでるってのか?」


『そうじゃ、我らは焔獣が人間に危害を加える前に滅し、いずれは焔神と対峙しなければならんのじゃ』


「これで分かったでしょ? 私たちがやらなければならないこと」


これまで俺たち三人の会話を微動だにせず聞いていた麗奈が重く口を開いた。


「あ、あぁ」


なんとか事の重大さだけは理解できたと思う。


『ふっ、まぁこれからその体で理解するようになるわい。蒼炎よ、儂らのことも教えてやってくれ』


『あぁ、よかろう』


焔界のことを説明した闘牙は疲れたのか、蒼炎にバトンタッチして自分たちの説明をさせる。


『少し退屈な話になるが辛抱して聞いてくれ、我が主よ』


「…なぁ蒼炎、その"主"ってやめてくれないか?」


『そうか…では真殿、説明させてもらうぞ』


「別に"真"でいいのに…」


『すまぬな、これは我の癖のようなものなのでな』


それだけ言うと蒼炎は仕切り直したように語りだした。


『人間界がまだ繁栄していない遥か昔、突如として焔神が現れて人間界を恐怖で支配しようとしていた』


重々しい口調で語られる話に麗奈も耳を傾けている。


『そのときに我らの創造主でもある神が、人間に"蒼炎斬神"と"流水闘牙"を与えたのだ』


「それを俺たちの先祖が受け取ったのか…」


『そうだ…人間の中で最も濃い気を持っていた八神一族と水城一族が刀を受け取り、数多の犠牲を払いながらも焔神を封印した』


「…その封印が解け、今また人間界を支配しようとしているのか……」


『うむ、我らが目覚めたときにすでに闘いの火蓋は切って落とされた』


「…俺は先祖とは違って刀を扱う術なんて持ってない……。麗奈に教わらないといけないな」


『ふむ、しかし我らは持ち主の心に呼応して力を発揮できる刀…最終的には持ち主の心で決まるのだ』


壮絶な過去を語られて少し気が滅入っていた俺に蒼炎が諭すように話し掛ける。


「…そうなのか?」


『うむ、真殿の強い気持ちが我の中に流れ込み、我はさらに強力な力を発揮できるようになる』


『まぁ、もちろん刀を扱う技術は必要じゃがな。そのへんは麗奈に教わるとよいじゃろう』


蒼炎が話し終えたとみたのか、闘牙が話に入ってきた。


「だから、一緒に住んだ方がいいと思ったのよ。いつでも修行できるし、焔獣にも対応しやすいしね」


「そういうことだったのか。てっきり金の問題かと思ってたぜ」


「そんなわけないでしょ」


『よう言うわ。小僧の家で世話になれば家賃と食事の心配がなくなると思っておったじゃろうに』


「と、闘牙! 何言ってんの!?」


腕を組んで真剣な表情をしていた麗奈が、闘牙の一言で一瞬にしてその表情を崩し、ワタワタと慌てだした。


『お前の強い気持ち、確かに儂に届いたぞい?』


「もう、黙ってなさい!!」


顔を少し赤くしながらこれ以上闘牙が余計なことを言わないように腕輪を抑えこむ麗奈。


……おーい、口なんてないだろー?


「なぁ、蒼炎。気持ちが強いものであったらお前にも俺が何を考えているのか分かるのか?」


『そうだな。余程強い想いであればその中身まで我に届くことになる』


「ってことは、やっぱあいつ金の問題だったんだな……」


『そういうことになるな』


目の前で自分の左腕を押さえている麗奈を見ながら半ば呆れたように息を吐き出す。


「まぁ、そんなことより――」


いつまで続くのかも見てみたいが日も傾いているため早く次にいかないとな。


「おーい麗奈、刀の解放の仕方を教えてくれー」


「え? 何!?」


ギリギリと腕輪を押さえながら俺を見る麗奈。


おぉ、眼が怖い怖い。


「刀の解放の仕方だよ。これができないと何にもできねぇじゃねぇか」


「はぁはぁ、あぁそうね」


『た、確かにこれが出来ぬと話にならんからのぉ』


麗奈の圧迫から解放された闘牙も話に入ってきた。


「じゃあ、まず手本を見せるわね」


スッと左腕を伸ばして眼を閉じる。

すると次の瞬間には腕輪に付いている紺碧の珠が光だした。


「…………」


意識を集中させるように沈黙を守る麗奈。

そして、腕輪がみるみる形を変え一本の刀になっていく。


「これが解放よ」


現れた刀を掴んで俺に見せるようにしてくる。


「こないだみたいに水がないぞ? それに、髪の毛とか瞳も変わってない」


最初に見たときには水が周りを覆っていたはずだ。


『アレはここからさらに一歩進んだ段階じゃ。まず基本はこれなのじゃよ』


『なんと! もうそこまでできるのか!?』


『うむ、麗奈は非常に筋がよい。天性の才か、教えたことはすべて吸収し、昇華していくのじゃ』


『なるほど、お主が褒めるわけだ』


闘牙が得意げになって麗奈のことを褒めている。


「それじゃ、やってみて。腕輪が刀に変わるのをイメージすればできるから」


「お、おぅ、分かった」


今度は俺が左腕を伸ばし、眼を閉じて集中する。


――腕輪が刀に変わるのをイメージ…


――腕輪が刀に…


「……………」


自分の腕輪が光っているのか、瞼越しに光が入ってくる。

そして、自分の手に何かが握られた感覚を覚えた俺はゆっくりと眼を開けた。


「…これが…蒼炎……」


蔵の中で初めて蒼炎を見たそのときの刀が俺の手に握られている。


「……軽い」


お土産屋で持った模造刀よりも遥かに軽い蒼炎に驚いた。


『我らは主と一心同体、主は我らを自分の体の一部のように自在に動かせるのだ』


確かに普段腕を動かすのと同じ力で刀を振るえる。


『更に我らの力が主にも流れ込み、身体能力が格段に上がる』


「そういえば力が漲ってきたような……」


以前、麗奈が闘牙の力を使って荷物を運んだことを聞いたが、その理由が分かった。


『ふむ、まぁ解放は問題ないようじゃの。では、お主が目指す力の姿を見せてやろう。麗奈、同期じゃ』


「分かったわ」


闘牙に言われ、それまで片手で握っていた刀を両手で握り直す麗奈。

そして、ゆっくりと瞳を閉じてあたりは静寂に包まれた。


「ふー……」


闘牙を解放するときよりもさらに集中しているのか、麗奈が呼吸を整えている。

すると、風もないのに麗奈の髪がゆらゆらと揺れ始め、髪の毛の色が変わり始めた。


「…すげぇ」


『あれは高度な気の制御が必要なのだ。麗奈殿にはやはり天性の才がある』


蒼炎と会話をしている間にも麗奈の髪はどんどん銀色に変わってきている。

そして、闘牙には水が纏わりついてきて、それは麗奈の腕にまで達した。


「……………」


「あ…紺碧の……瞳…」


初めて焔獣と対峙したとき、助けてくれた麗奈の姿が再び目の前にある。


「…これが解放の次の段階、真に刀と同期した姿よ」


麗奈が紺碧に彩られた瞳を向けて言う。

吸い込まれそうな色をしているそれはすべてを見抜いているようだ。


「刀と…同期?」


『そうじゃ、ワシの力を麗奈の中で昇華させ、麗奈の力として表に出す…それが同期なのじゃ』


『いずれは真殿もあの力を身に付けねばならぬ』


今だに刀のままの蒼炎が、強い意志で話してくる。


『真よ、お前も早くここに到達できるよう麗奈に教わるとよい』


闘牙から、麗奈から物凄い圧迫感を感じる。

気を抜いたら、すぐにでも斬られそうだ。


「そういうことだから、明日から修業を始めるわよ」


「明日から!?」


「何?」


「何もそんな早く始めなくても…」


いきなりいろんなことが起こっているのに、明日から修業なんて言われたら、頭の落ち着く暇がない。


「何言ってるの? 奴らはすぐにあんたを狙ってくるわよ。今から始めないだけありがたく思いなさい」


刀をこっちに向けて俺を射てくる。

ちなみにまださっきの姿のままだ。


「わ、分かったよ…分かったから刀を引いてくれ」


「じゃあ、学校から帰ったら始めるわよ」


スッと俺の前から刀を引いて、仁王立ちになる麗奈。


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