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Sword Master ―紅剣の支配者―  作者: 高柳疾風
第三章 解き放たれし紅
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第二部 解放

「おっはよー、お兄ちゃん!」


いつものごとく元気一杯に俺の部屋に入ってくる琴音。

もちろんノックはない。


「ほらほら、今日もいい天気だよ!? 早くおーきーてー!」


「うーん、もう朝か…」


部屋のカーテンを全開にされた上に布団をはぎ取られ、いやがおうにも眩しい朝日が目に入ってくる。


「もう朝ごはんもできてるんだから、早く下りてきてね!!」


捨て台詞のように言うと、来た時と同じように勢いよく出て行った琴音。

一気に部屋が静まり返り、それとともに昨日のことが脳裏に浮かんでくる。


「やっぱり…夢なんてことはなかったか……」


もしかして昨日のことが俺の都合のよい夢なんじゃないかと心の片隅で願っていたのだが、体中の痛みがそれを完全に否定しやがった。

とりあえず制服に着替え、準備を終えた俺は階段を下りてみんなが居るリビングに向かう。


「おはよう」


「おぉ、おはよう、真」


「おはよう、真くん。ねぇ、ここってあなたが帰る道じゃなかったっけ?」


朝の挨拶もそこそこに、いつもおっとりしている母さんが少し焦ったようにテレビの方に手招きする。

それにつられるようにテレビを覗き込むと、体が少し軋んだ気がした。


『えー、昨晩こちらの道路でまたもや破壊事件が起こりました――』


そこはまさに俺があの化け物に襲われた場所――


『被害の状況からこれまでと同様の手口で犯行が行われたと見られていますが、前回の事件で撮られた写真の解析もまだということで警察も頭を抱えているという状況です――』


そして、水城さんと衝撃の再会をした場所――


「うん、確かに俺が通ってる場所だけど、昨日はちょっと寄り道してたから通ってないんだよね」


今日、俺が抱えている謎が全て晴れるんだろうか――


「そう、巻き込まれなくてよかったわ」


安堵したような声で、そっと胸を撫で下ろす母さん。

その表情を見てしまってたら、まさか当事者とは言えない…。






「それじゃ、行ってきます」


「行ってきまーす」


朝飯をさらりと食べ終え、親父への報告も済ませて家を出る。

やはり物置から変な気配を感じる…。

しかも、昨日よりも強くなってる…。


「じゃあね、お兄ちゃん! 遅刻しちゃダメだよ!?」


「はいはい、お前もな」


いつもの場所で琴音と別れ、自転車に跨って学校を目指す。

いつも通っている道を順調に走っているとあの場所が見えてきた。


「やっぱり、通行止めか…」


昨日、化け物に襲われた場所――

そこには警察やらなんやらで沢山の人が居て、復旧作業に追われていた。

それと同時に脳裏に浮かんだ光景と体中に走った痛みに、思わず身震いしてしまう。


「…さっさと学校行こう――」


振り払うように頭を振り、道を変えて再び学校に向かう。

改めて現場を見てしまった所為で余計に意識してしまっている自分が居る。

学校へと続く長い坂道を上っている間にも水城さんや闘牙と呼ばれていた刀の言葉が頭に響いてしまう。


「おはよう、八神」


「あ、あぁ…おはよう、柳」


下駄箱で不意に声を掛けられ、慌てて振り向くとそこには柳が居た。

相変わらず優雅な立ち居振る舞いをしやがる。


「どうしたの? 何か考え事?」


「へっ? いや、別に何もねぇよ!?」


「そう? まぁ、それならいいけど…。あ、そういえば昨日破壊事件が起こった場所って八神が通ってる道じゃない?」


「あぁ、そうだけど昨日はちょっと寄り道しててな。あの道は通ってないんだ」


「そうなんだ。巻き込まれたかと心配したよ」


柳の言葉が胸に刺さるが、母さんと同じように自分が当事者であることは伏せておく。

自分自身が何も分かっていない今は、恐らくこれが最善だろう。

そのまま柳と連れ立って教室に向かう。


「おーっす、八神、柳!!」


「おっす」


「おはよう」


教室の少し手前で相良と出会った。


「今日も張り切って麗奈ちゃんのところに行こうぜ!」


「朝から元気だな、お前」


「当ったりめぇーだ、仲良くなるためには話し掛けないとな!!」


「あっそ、まー頑張れや。俺は今日はちょいと購買に行くからパスするわ」


隣でグッと拳を握っている相良に半ば呆れながら誘いを断る。


「あ、僕も生徒会の方で用事があるからパスするね」


「なんだよ、今日は俺一人かよ…」


「一人でも行くのかよ」


「当然だろ。こういうのは最初が肝心なんだぜ!?」


「ふふっ、頑張ってね、相良」


「柳、それ何か違うぞ…」


「そう?」


冗談か本気か分からないトーンで話す柳を見たところでチャイムが鳴った。

相良は大人しく自分の席に戻り、俺は授業の準備をして先生が来るのを待った。






「ふー、やっと授業終わったかー」


座り続けで疲れた体を思いきり伸ばし、いそいそと帰る準備をする。


「おーい、帰ろうぜー」


相良が鞄を肩に掛けて俺たちのところにやってきた。

柳もちょうど帰る準備ができたようで、俺たちは三人そろって教室を出た。


「そういや相良、例の転校生には会えたのか?」


「それがよー、今日は教室に居なかったんだよ」


「へー、残念だったね」


「なんか用事でもあったんじゃねーの?」


「まー、また明日行くさ」


「今日のことでなんかやってんのかな…?」


「ん? なんか言った、八神?」


「あ、いや、なんでもねぇ…」


危うく柳に聞かれるところだった。

もし聞かれたらきっとまたややこしくなってしまう…。


「じゃーなー」


「また明日ね」


「おー」


坂の入り口で二人と別れて自転車に跨る。

麗奈がいつくるか分からないから少し早目に帰るとしよう。






「ふー、ちょっと疲れた…」


大急ぎで階段とかを上ったら変に疲れちまった。

かごに入った鞄を取り出し、肩に掛けて玄関に向かう。


「ただいまー」


「おかえり」


「ん、琴音、なんか声変わっ――……って、麗奈!!?」


「なに驚いてるの?」


当たり前のように俺を出迎えた麗奈にただ驚くばかりの俺に、麗奈は平然とした顔を向けてくる。


「お前、なんでウチに居るんだよ!?」


「あ、お兄ちゃん、おかえりー」


俺が驚いている間に琴音が奥から出てきた。

麗奈がいつからここに居たのか知らないが、すっかり琴音は懐いたようで傍にぴったりと寄り添っている。


「あら、真君、おかえり」


玄関でわいわい騒いでいる声を聞きつけて母さんも出てきた。


「麗奈ちゃんって、同じ高校だったのね。驚いたわー」


「いや、俺はそれより驚いてるんだけど…」


言葉のわりにほのぼのとしている母さんに肩の力が抜けてしまった。


「母さん、何で麗奈がここに居るんだ?」


「あら、下の名前で呼び捨てなんて、あなたたち仲がいいのねー」


「いいから早く答えてくれ…」


相変わらずマイペースな母さんには勝てない…。

てか、いつのまにか下の名前で呼んでしまっていたのか…。

あいつが俺を呼び捨てにするからつい釣られちまった。


「最近なんだか物騒でしょ? だから真君に家を守ってもらおうと思って」


「それで?」


「おじいちゃんと相談して剣道を教えてもらおうと思って水城さんのところにお願いしたの」


「俺は初耳だけど…」


「うん。だって今初めて言ったんだもん」


「いや、うん、まぁいいや…」


なんかものすごく爽やかに言われてしまってなんだか反論する気も失せてしまった。

まぁ、この家で何かあったときには俺がなんとかしないといけないからな。


「ありがと、真君。……あ、それとね、麗奈ちゃんが居候として一緒に住むことになったから」


「へぇー、そうなんだ……………って、なにー!!?」


母さんの口から何気なく出た追加情報で本日二回目の大声をあげてしまった。


「な、な、なんでなんだよ!?」


「なんか今一人暮らしらしいのよ。それだったら、一緒に住んだ方がいつでも教えてもらえるし、母さんも娘ができたみたいで嬉しいじゃない」


「だからってなぁ! おい、麗奈もなんとか言えよ!」


「私はいいわよ。もう荷物も持ってきたし」


よく見ると玄関の奥の方に見たことない大きな鞄が横たわっている。

どうやら知らないのは俺だけで、既に引き返せないところまできているらしい。


「…はぁ、もー分かったよ……」


「それじゃあ、さっそく修行を始めましょうか」


「え、ちょっと休憩させてくれよ」


「それでは少し失礼します」


「はーい、いってらっしゃい」


「無視か!?」


「お兄ちゃん、頑張ってねー」


麗奈に腕を掴まれ、有無を言わさず外に連れ出される。

そのまま物置のところまで連れて行かれ、やっとのことで腕を離してもらえた。


「こうなってるなら、今日学校で説明してくれよ」


「あら、私はとっくに知ってると思ってたわよ」


「……まぁ、しょうがないか」


ウチの家族の顔を一通り思い浮かべてなんかげんなりとしてしまった。


「まさか今日の昼居なかったのって?」


「よく知ってるわね。昼休みの間に荷物を運んだのよ」


「業者の人に頼んだのか?」


「まさか。闘牙の力を少し借りたのよ。身体能力が上がるからこういうときのも使えるわ」


「……あ、そう」


「さ、さっさと封印を解くわよ」


なんのためらいもなく物置の扉を開ける麗奈。

まだ夕方とはいえ暗い物置の中にずかずかと入っていく。


「闘牙、どの辺りかしら」


『ふむ、小僧、お主が探してみろ』


「え、俺が?」


『そうじゃ、意識を集中させれば奴の声が聞こえるはずじゃ』


「分かったよ…」


よく分からないまま目を瞑り、意識を集中させる。


『――だ…。我はこっちだ』


なんか聞こえる――。


とりあえず声が聞こえた方に足を向ける。


『我が主よ。その手に我を握るのだ』


「これか…?」


声が近くなって目を開けると、やけに古い箱が視界に入った。

それには墨で書かれた読めない文字とお札が張りつけてある。


「これを外せばいいのか…?」


震える手を押さえながら少しずつお札を剥がす。


「……取れた…」



ビシッ!――



ビキビキッ!!――



バキンッ!!!――



「うわっ!」


突然割れた箱に驚き、一瞬視界がなくなったあとに見えたのは目の前に浮かぶ刀。

柄の部分には包帯が巻かれ、時折紅の炎が出ている。


『さぁ、主よ、左腕を我の前に――』


「…こうか?」


言われるままに左腕をゆっくりと差し出す。


『では――』


その言葉と同時に刀が炎に変わり、俺の腕を包みこんだ。


「うおぉ、なんだこれ!?」


「落ち着いて、すぐに終わるわ!」


麗奈の声が混乱した頭に響く。

そうこうしているうちに炎が収まり、俺の腕には麗奈と同じ銀の腕輪がはまっていた。

違うのは俺のには紅の珠がついていることだ。


『さぁ、封印は解かれた…。我とともに大いなる闇を切り裂こうぞ!!』


力強い言葉が俺の左腕から響く。

その声を聞きながら、これから待つ自分の運命にただただ不安を覚えるばかりだった。


いかがでしたか?

ご意見、ご感想お待ちしております!!


さて、麗奈に導かれ炎を手に入れた真。

彼の日常はどうなってしまうのか? この先に待つ宿命とは?


真に待つ闘いが明かされる次回をお楽しみに!!

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