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Sword Master ―紅剣の支配者―  作者: 高柳疾風
第三章 解き放たれし紅
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第一部 瞬殺

異形の感覚に目覚めた真。

その正体が分からないまま、ついに下校中に化け物に襲われてしまった。

成す術なくやられていた真の前に現れた転校生、水城麗奈。

彼女の正体は…? そして、真の運命の歯車はどう動いて行くのか…?

「…み…水城さん……?」


学校からの帰り道、突然得体の知れない化け物に襲われた。

成す術もなく自転車ごと吹き飛ばされ、振り下ろされた鋏に死を感じていた。


でも――


「何やってるの? 早く立ちなさい」


一陣の風とともに現れた少女に助けられた。

それが当然で、何事もなかったかのようにこちらに振り返ってくる。


「水城さん、何でここに? それにその姿は…?」


今日の昼休み、初めて出会った彼女とはまるで違う姿がそこにあった。

制服を着ているのはそのままだったが、腰まである長い髪は鮮やかな銀色に染め上げられていて、印象に残っている強気な目は碧色に輝いていた。


しかし、それらよりも衝撃的だったのは――


「…刀……?」


彼女の手に握られている日本刀。

それもただ刀を握っているだけではない。

刃には水が纏わりついていて、それが持ち主の手にまで及んでいる。


「どうしたの? あんたも早く――」


『ぐぉおおぉぉぉ!!』


「なっ! あいつまだ――!!」


「あんなんで死ぬわけないでしょ…」


鋏を吹き飛ばされた化け物が再びこちらに向かってくる。


「さ、あんたも早く構えなさい」


「構えるって……刀なんて持ってないぞ?」


「何ですって!?」


化け物の方を向いていた水城さんが驚きの表情でこちらに向き直った。


「…どういうこと、闘牙?」


『ふむ、この小僧、まだ封印を解いておらんようじゃな』


「……へ?」


水城さんが少し下を向いて話したと思ったら、本来声がすることのないものから言葉が聞こえた。


「か…刀がしゃべった!!?」


「何を驚いているのよ…?」


「だ、だって物が口聞いてるんだぞ! そりゃ普通驚くって!!」


「あぁもう、うるさい!」


『全く…順応性の乏しい奴じゃ』


一人取り乱していると水城さんに一喝された上に、なんか刀に馬鹿にされてしまった。


「とにかく刀がないならそこでじっとしてなさい。アレは私が始末しておくわ」


「一人じゃ危ないよ!」


こちらに背を向けて足を進めようとする彼女に思わず話し掛けてしまった。

いや、かといって俺が何かできるかと言えばそうではないんだけどさ…。


「いいから。そこに居なさい」


『小僧、お主もすぐこちらの世界に足を踏み入れることになる。今は麗奈をよく見ておけ、いずれ自分がすることになるのじゃからな』


「"こちらの世界"ってなんなんだよ…?」


「お喋りはその辺にしておきなさい。来るわよ」


水城さんが刀を構えたその先には、片方の鋏をなくした化け物がたたずんでいた。


『貴様、碧の後継者だな?』


「だったら何?」


『ここで紅ともども消してくれる!!』


「ふん」


残された鋏を振り上げる化け物に向かって、水城さんが凄まじい速さで突っ込んでいく。

刀を纏っていた水がその速さに付いていけず、巻き起こる風とともに彼女まで繋がる碧色の筋を作っていた。


「…あれ? これって――」


『ぐわぁああぁぁ――!!』


俺の記憶がフラッシュバックした瞬間に再び轟音が聞こえた。

それによって意識を引き戻された俺が見たものは、砂のように細かくなって消えていく化け物。

そして、ゆっくりとした足取りでこちらに来る水城さんの姿だった。


「何よ?」


「え…いや、一瞬だったなと思って…」


「当たり前でしょ。あの程度の奴に時間は掛けられないわよ」


「もしかして今朝のニュースでやってたのも…?」


「あぁ、あれね。まさか撮られてたとは思わなかったけど、どうせあの程度の写真では何も分からないでしょ」


「やっぱり…。あれ、そういえば刀は…?」


いつのまに変わったのか、今目の前にいる彼女は昼間に出会った姿だった。

辺りはすっかり暗くなっていて、ついさっき起こったことが嘘のように静寂しきっている。


『我はここじゃ、小僧』


声のする方に視線を向けると、そこには変わった形をしたブレスレットがあった。

純銀を捻ったようなリングとその真ん中に碧色の珠が付いている。


「普段はこうしてブレスレットになってるの。奴らと闘うときには解放して刀にするのよ」


『そういうことじゃ。…さて小僧、お主には仲間の封印を解いてもらわねばならんのじゃが…』


「その仲間ってのは…やっぱ刀なのか?」


『うむ、永きに渡り我とともに闘ってきた奴じゃ』


「そいつの封印を解くことが俺の役目だということか…」


『そうじゃ、奴の封印は八神一族の人間にしかできんことじゃからのう』


なんかいきなり色んなことが起こりすぎてなかなか頭が付いていかない。


『まぁ、もろもろは明日にするとしよう。今日はゆっくりと休んで頭を冷やすがよい』


こちらの考えを見透かされたかのような刀の声。

それに合わせたみたいに水城さんも体を動かした。


「それじゃ、明日また会いましょう。八神一族の――」


「八神真だ」


反射的に彼女の言葉を遮ってしまった。

もしかしたら名前を覚えて欲しかったのかもしれない。


「俺の名前は、八神真だ」


「…そう。じゃあ、また明日ね、真」


少しの間を置いてから、彼女はすぐに肩を翻してどこかに去っていく。

残された俺はそれ以上なにをすることもできず、その場にたたずんでいた。


「明日…すべては明日か……」


ひとまず明日には何かが分かるのだろう。

俺が突然感じ始めた不快な感覚のこと、水城さんのこと、そして刀のこと。






しかし、彼女との出会いが自分の運命を大きく変えることになるとは、このときは知るよしもなかった――


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